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スウェーデンのAンナ【プチ官能シリーズ】

裏浅草にある築30年の2Kの部屋に住んでいた。

二部屋共、畳の部屋で、一つの部屋にはちゃぶ台と座布団を、もう一つの部屋には布団を敷き、風呂場には木の桶と木の風呂椅子を置き、近くを散歩する時には下駄をカランカランと鳴らしていた。

浅草に住んでいると、都心に慣れた人も慣れない人もこちらに来たいと言い、イベントや飲み会などもこちらで開催されることが多かった。

夏の暑さがまだ残る9月、知り合いのDJが浅草から徒歩10分ほどの蔵前にあるゲストハウスの1階兼バーでパーティーをするのに誘われた。

来てから気付くのが遅かったが、知り合いはDJに専念しているため、ほとんどの時間話すことはできずに滑らかに流れる音楽に身を寄せることで彼の好み趣向を聞き聴いた。

お洒落で天井の高い内装のおかげで、圧迫感はなく、気付けばほとんど満席になっていた。

背が高い椅子に腰を高くして座り、しっかりとニスがかけられた木目の美しいテーブルに肘を置き、グラスビールとピスタチオで音楽を楽しんでいると、5人の外国人の団体客が入ってきた。

空いている席は、今座っているこの大テーブルにある2席のみであった。

5人の外国人グループは2つの椅子を中心に、座る人と立つ人とで周りを取り囲んだ。

隣に座った女性の一本一本の毛が細い金髪を通して聞こえてくる言語は英語ではなく、男女共に背の高い椅子と同じくらい腰から長い足がサラッと伸びていた。

5人が着いた途端、正真正銘の満席状態となり、知り合いのDJもメインどころとばりにアップテンポの音楽を流し、会場のボルテージが上がった。

その時、背中を向けて左側に座る女性が立ち上がり、彼女の右肘が自分のグラスビールに当たり、勢いよく中身のビールがテーブルに広がり、テーブルの端を伝って、自分が履くジーンズに辿り着き、薄い青色だったジーンズの一部が濃い青色に一時的に染色された。

アイムソーリーと言う彼女の瞳はまだビールがかかっていない状態の薄い色味のジーンズのように青く、雷門と書かれた袋の中から先ほど買ったばかりであろう新品の手ぬぐいを差し出してくれた。

さすがにその手ぬぐいは使えないと憚っていると、彼女の友人が従業員からお手拭きを何枚か借りてきてくれ、テーブルは綺麗になり、ジーンズの表面に残ったビールもサラッと拭い取った。

お漏らしをしたような格好になったものの、店内は薄暗く、本当に全く気にしていなかったのだが、彼女が片手に新しくグラスビールを持ってきて、また詫びてくれた。

Aンナというスウェーデンから来た彼女は現地で建築の勉強をしている大学生らしく、その同じ学科の友達4人と共に初めて日本に旅行に来たことを乾杯してから聞いた。

Aンナはよく笑う女性で人懐こい感じがとても好感を持て、建築学科ということもあり、自分が住んでいるボロアパートにも興味を示してくれ、こちらも写真と共に楽しく説明できた。

知り合いのDJが出番を終え、こちらにやってくるタイミングで自然と会話は終了し、お互いにそれぞれの場所に戻った。

3.40人いる店内でどこもかしこ楽しそうな雰囲気が漂っており、こちらも今では1人ではなく知り合いと共に楽しんでいるのだが、先ほどのAンナとの10分くらいの時間が濃厚で、チラチラとAンナが大きく笑う横顔を遠くから確認していた。

かれこれ1時間くらい経ったあとであろうか、店内にまた知り合いのDJがかける音楽が流れ、本当はAンナと話をしたい欲求を抑え、フロアで踊るダンサーに混じって、こちらもダンスで発散することにした。

酔った勢いもあって、結構激しく踊り、火照った身体を店の外にあるベンチに座って冷ましていると、Aンナのグループが出てきた。

Aンナはこちらを見かけると一直線に向かって来てくれ、友達が疲れたからもう帰る、と残念そうに伝えに来てくれた。

明日は上野動物園、あさってからは京都に行くと1時間ほど前にしていた会話を思い出しながら、もう会うことはないな、と名残惜しい気持ちをエンジョイと一語に込めて伝えると、Aンナは先を歩く友人達の元へ駆けて行った。

店内はさらに踊っている人が増えている模様で、Aンナの駆けて行った余韻が残る冷たいアスファルトの道路と熱く盛り上がる店内に挟まれ、居場所をなくし、その空気に押されるように、ふと空を見上げると、綺麗な満月が辺りの雲を蹴散らかすかのように、凛としてそこに存在していた。

思わずため息が出たのは、満月に感動したこととAンナともっと話せばよかったという後悔の二重の意味を持っていた。

満月に見惚れて、タッタッタッタッとスニーカーの駆ける音がこちらを目掛けて走ってきているのがAンナだと認識したのは、ほとんど彼女が真横に来たのと同時のタイミングだった。

あなたともっと話したかったから友達を送って来た、とストレートに伝えてくれたAンナの気持ちに応えるように、こちらもすっかり汗がひいた身体を腕いっぱいに広げて、嬉しさの表現をハグに込めた。

自然と2人して店内に入ることはなく、外のベンチに肩を並べて座り、満月を見ながら、ウサギと言うと、おばあさんと言い、お互いの文化を共有しながら、お酒の力も借り、Aンナのほっぺにキスをした。

こんなにも意気揚々とボロアパートに女性を連れて帰ることなど今後一切ないだろうという気持ちを噛み締めるように、アパートの足音がよく響く階段を踏み締め上った。

キーと音を立てて開き、勢いよくバタンと閉まるドアも2人のための演出かのように気持ちを盛り上げてくれた。

日本の建築、内装、日本人らしいごく普通の生活様式を見たいという口実ではあったが、Aンナは迷いもなく一直線にこちらに向かって来ては、激しいキスを2Kのキッチン前で交わした。

腰の高いAンナをキッチン台の方に押しやると半分お尻が乗るような形となり、立場を逆転すると、こちらは爪先立ちをしてようやく腰が乗るような無様な格好にも2人して笑い合った。

そのままAンナはスルスルと降下していき、ジーンズが二手に別れる根元に顔を埋め、上目遣いでこちらを見ながらビアーと笑うのに対し、ジーンズの奥に眠る欲棒が硬化することで返事をした。

より窮屈に感じるようになったジーンズを乱暴に脱がせてくれ、一気に姿を現した欲棒はビアーと発言した人を探すかの如く、必死に狙いを定めようと垂直に揺れていた。

受け入れ先のホームステイはすぐに見つかり、生温かい部屋の中で快感を貪ろうと、両手を後ろのキッチン台に全体重をかけるように乗せて、ホストファミリーの施しを受けた。

ふと下を見ると、満月がサラサラと上下に揺れて、まるでお餅をついているかのようだった。

せめてもの日本文化を伝えようと背中を流すことを提案した。

上手く伝わりきらずとも、少女のようにワクワクしながら、服を脱ぎ捨て、飛び込むように風呂場へ入っていった。

こちらがシャツを脱ぐのに手こずり時間がかかっていても、中からシャワーの音は聞こえなかった。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

ちょこんと木の風呂椅子に座るAンナの身体は日本人の黄色人種とは異なり、紛れもなくそれは白色人種であった。

律儀に背中を流されることを待っていたお客様には特別サービスとして全身を丁寧に洗うという嘘の文化を教えた。

あったかいシャワーが身体の表面を流れる川底で、2つのちょこんと隆起したピンク色の突起物と縦に亀裂が入った女の芯の中に桜の花びらを見つけた。

足早に風呂場を出ると、バスタオルに包まれた外国人観光客のために、仲居が畳の部屋に布団を敷いた。

髪が少し濡れていたり、身体が少し濡れたまま、2人して布団にくるまり、先程川底で見つけた春の色を中心に丁寧に愛撫した。

大きく長い手足が全体を包み込んでくれて、小さく短い陰唇が局所を包み込んでくれた。

日がまだ昇っていない薄暗い明け方の空にはまだハッキリと満月が見えていた。

たった今タクシーに乗っていったAンナの金髪が風になびく残像が見返り柳となり、閑散とした道路にAンナとの思い出を浮かべた。

夏の暑さが残る満月の夜に雪国に咲く小さな桜の花びらを見つけ、カランカランと下駄を鳴らしながらボロアパートへと帰った。

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