宮本侑達

家庭医・一児の父。子どもからご高齢の方までの診療に携わりながら、考えたこと・感じたこと…

宮本侑達

家庭医・一児の父。子どもからご高齢の方までの診療に携わりながら、考えたこと・感じたことを述べます。

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自己紹介 家庭医とは?

千葉で家庭医をしています宮本侑達(ゆうだ)です。 「ゆりかごから墓場」まで人の人生を支える診療・仕事をしています。 日々たくさんの方と出会い、生き方に触れ、 自分の中に留めておくのはもったいないので、 noteをはじめました。 家庭医という言葉は日本ではなじみがないと思いますので、 自己紹介に代わり、家庭医について少し説明します。 家庭医はいわば「かかりつけ医」の専門的なトレーニングを受けた医者で、 欧米では一つの専門科としてしっかりと認識されています。 日本では専門

    • 褒めることの副作用

      一般的に人と関わる上で「褒めることは良いこと」として、よく教えられてきました。医療現場でも、医療者が患者さんを賞賛する場面はたくさん見かけられます。しかし、褒めすぎて、逆に気まずくなることも同時によく経験します。 「褒めすぎること」は、関係性を微妙にすることだけでなく、様々な学問から警鐘が鳴らされており、注意が必要です。様々な観点から「褒めること」を考えてみます。 アドラー心理学では褒めることは「勇気くじき」心理学者のアドラーは褒めることを徹底的に否定します。理由は、褒め

      • 言葉や行動の裏側 本音と「防衛」について

        患者さんとのやりとりにおいて、表面上の言葉や行動の裏の「本音」を知ることはとても大事です。 例えば、「もう死にたい」の言葉の裏には「死にたいほど辛いということをわかってほしい」や、「この辛さはどうせ誰もわからないよ」の裏には「今まで寄り添ってくれる人がいなかったけれど、わからないにせよ、少しでも寄り添ってくれる人がいたらどんなに楽か」などがあります。 さらに、支援者を不快にさせるような言葉を毎回投げかけてくる方や、嘘やごまかしをよくされる患者さんもおります。その際、支

        • 精神疾患における免疫 「自我」について

          私は「かかりつけ機能」を専門的に担う家庭医として働いていますが、メンタルヘルス領域を深めたいと思い、現在とある心療内科にて週の半分勤務しています。学んだこと・気づいたことを適宜記事にしていこうと思います。 心療内科ではたくさんの精神疾患の患者様が来院され、指導医の先生とディスカッションしながら様々なことを学んでいます。その中で興味深かったのは「自我」が精神疾患の表現形や治療に深く関わるということです。 私も家庭医の診療所でたくさんの精神疾患の患者様の診療に関わってきた

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        自己紹介 家庭医とは?

          メンタルヘルス領域における非専門医の役割について

          家庭医として地域のかかりつけ医の仕事をしてきました。しかし、色々と思うところや、出会いもあって、今年はとある病院の療内科にも勤務することになりました。 明日から勤務なのですが、その前にメンタルヘルス領域に対する考えをまとめておこうと思い書いています。メンタルヘルス領域において日本の家庭医(非専門医)ができること、求められること、どんなことを学んだら良いかをざっくりとまとめています。 地域の診療所だから相談に乗れる心の問題とある男性がこのような理由で地域(家庭医)の診療

          メンタルヘルス領域における非専門医の役割について

          「意思決定支援」を考える ー意思とはそもそも何か?決めることができるのか?ー

          今年一年は在宅診療の深みをじっくりと学ぼうと、在宅専門医取得に向けてプログラムに乗りながら診療に携わっていました。この一年で一番考え、学んだことは「意思決定支援」です。 そもそも今年在宅医療にしっかりと関わろうと思ったきっかけは、複雑な意思決定支援がまだまだできないと思っていたところが大きかったです。 今思うと、当初は方法論つまり「決め方」を主に学ぼうと思っていたので甘かったです。部長から直接ご指導いただき、意思決定支援の概念や姿勢の深遠なる世界の入り口を体感すること

          「意思決定支援」を考える ー意思とはそもそも何か?決めることができるのか?ー

          悲嘆の「揺ぎ」は「揺ぎ」のままに 〜二重過程モデル〜

          当院の※チャプレンさんからグリーフケアの背景理論についてのオンラインレクチャーがありました。 グリーフケアについては視点や態度、向き合い方や共感といった内容を今まで主に聞いてきましたが、理論の話についてはチャプレンの口から伺うのは初めてだったので大変勉強になりました。 段階モデル・課題モデル・認知的ストレスモデル・意味再構成モデルなど、様々なモデルが紹介されましたが、一番印象的だったのは「二重過程モデル」です。 二重過程モデルとは、ご遺族の方は「二つの志向」の中を揺

          悲嘆の「揺ぎ」は「揺ぎ」のままに 〜二重過程モデル〜

          コロナ流行に伴う訪問診療の現場の苦悩

          訪問診療の場では日々たくさんの方の最期の時を支える仕事をしています。でも、コロナ感染症が流行してから、特に年末あたりからずっと頭を抱えていることがあります。 最期の期間で特に大切にているのは「最期に○○をしたい」という希望をいかに実現するかです。これだけはしたいということや、会いたい人がいらっしゃれば積極的にそれを勧めていました。 しかし、コロナ感染症が流行してからは、流行地域の家族・知人との面会・会食・その他の行事を希望された場合は、どうしても感染リスクの説明をせざるを

          コロナ流行に伴う訪問診療の現場の苦悩

          大人が「甘える」ことの重要性

          人は「愛着」の対象を必ず必要とします。 20代の夫婦から「愛着」の重要性を感じました。 「夫が子供みたいで呆れます。病気なんですか?」 そう話すのは、最近結婚したばかりの20代の女性。彼女は過呼吸・息が詰まる感じが頻回出るようになったのがきっかけで当院を受診しました。 その原因に新婚の夫とのストレスがあり、相談のために当院に通院しています。先日の外来では、夫が本人の前で子供っぽくなるので、それで良いのでしょうかと本人から相談がありました。 甘えることもあれば、逆に子供

          大人が「甘える」ことの重要性

          医療者が「社会課題」を考える理由

          先日「健康格差」に関する講演会が家庭医向けに行われ、健康格差の背後にある「社会課題」に対し、医療者こそできることがたくさんあると思わされた。 日々現場だけでも忙しい医療者が「なぜ社会課題に?」と思うかもしれないが、医療現場には社会課題解決におけるたくさんの可能性が埋もれている。その可能性を引き出すも潰すも医療者次第だと思うと、とても重要な役割を医療者は担っているとさえ思った。 医師が「社会課題」を考える理由というテーマで綴ってみたい。 医療現場の「問題」の原風景医療

          医療者が「社会課題」を考える理由

          「発展」という呪縛から逃れるために

          発展を人生のベクトルとみたときに、小さい頃に読んだ一つの物語を思い出す。それは蛙とネズミのストーリー。 物語① 蛙とネズミの話蛙はとある宝石店の社長。毎日忙しく働いている。宝石の仕入れから、顧客の対応、宝石に対するクレームの電話対応など、一分一秒を争う忙しさで日々過ごしている。 一方で、ネズミは毎日悠々自適に働いている。好きな場所に、好きな友達と行いったり、好きな楽器を弾きながら毎日過ごしている。 そんなネズミを見て、蛙はこう投げかけた。 「君たちは毎日毎日遊んでい

          「発展」という呪縛から逃れるために

          <映画>インスタント・ファミリーから考える里親・養子縁組制度

          ここ数ヶ月は週末に一本家族で映画を見ることに決めています。 今日はコメディ映画「インスタント・ファミリー -本当の家族見つけました」ですが、とても感動しました。 コメディ映画と思いきや、子育て経験のない夫婦が里親として3人の兄弟を迎え、養子縁組をするまでを描いた実話に基づいたストーリー。 里親・養子縁組の制度のことも勉強になりましたし、里親が子どもを受け入れてから想像とのギャップに苦悩しながらも成長していく姿や、愛着がうまく育まれなかった子ども達の苦悩や里親に対する

          <映画>インスタント・ファミリーから考える里親・養子縁組制度

          「自分の社会課題」を見つける5つの問い

          とある学生のプレゼン大会に呼んでいただきました。 様々な学部の学生が社会課題を見つけ、考えたアイデアや活動をプレゼンしあう大会。空き家・SNSトラブル・在日外国人・婚活・ゴミ問題とどれも重要だけれど、一筋縄ではいかない課題ばかり。 医療から離れた社会課題に触れることが新鮮でしたし、学生の若さ溢れる情熱に刺激をいただきました。 最後に、最近読んだ落合陽一氏の本の言葉を紹介しました。腰を据えて向き合う「自分の社会課題」を見つけるには、 ・なぜそれが大事なのか? ・なぜ

          「自分の社会課題」を見つける5つの問い

          大人が「べったりすること」は正常?異常?

          IPI 統合的心理研究所のオンラインセミナーに参加いたしました。個人・夫婦・家族支援のために家族療法を主軸にした様々な心理療法を学ぶことができます。 今回は「アタッチメント理論」について。 アタッチメントは日本語で「愛着」ともいい、物事に深く心を引かれ、離れがたく感じる事をいいます。よく赤ちゃんと親がべったりすることを「愛着形成」というように使われます。 一番大切だなと感じたのは、愛着は親子だけでなく、友人・恋人・夫婦といった「大人」でも大事だということです。要はべ

          大人が「べったりすること」は正常?異常?

          施設職員との対話から里親制度について考える

          とある児童養護施設職員と精神科医との対話の中で「社会的養育家庭(家庭で暮らせない子どもたち)」について考えさせられました。 小さい頃に虐待やネグレクトがあった子どもたちは、 ①見せかけの時期:最初は良い子 ②試し行動:食・排泄・癇癪・乱暴・自傷行為・虚言・盗みなど。子どもの無意識の問いかけ、「基本的信頼関係」の回復の時期。 ③あかちゃん返り:はいはい、哺乳瓶、おんぶや抱っこをせがむ、出産ごっこなど。「育てなおし」の時期。 ④親子関係の成立:ようやく関係性の安定。 を

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          「話を聞く」ことより「聞いた話に重きを置く」こと

          “「話を聞く」ことより、「聞いた話に重きを置く」ことの方がより大切 ” 支援の中で「話を聞く」ことで満足することも多いでしょう。 しかし、話を聞くのは、目的ではなくあくまで手段です。大切なのは、「聞いた話に重きを置くこと」で、それによって話を聞いた本当の価値が出てきます。 このことを、とある高齢の2人暮らしのご夫婦との関わりで痛感しました。 そのご夫婦は、数年前に妻の癌がわかり、徐々に体力が低下し、夫が家事も介護の役割をせざるを得なくなりました。 もともと夫は

          「話を聞く」ことより「聞いた話に重きを置く」こと