言葉や行動の裏側 本音と「防衛」について
患者さんとのやりとりにおいて、表面上の言葉や行動の裏の「本音」を知ることはとても大事です。
例えば、「もう死にたい」の言葉の裏には「死にたいほど辛いということをわかってほしい」や、「この辛さはどうせ誰もわからないよ」の裏には「今まで寄り添ってくれる人がいなかったけれど、わからないにせよ、少しでも寄り添ってくれる人がいたらどんなに楽か」などがあります。
さらに、支援者を不快にさせるような言葉を毎回投げかけてくる方や、嘘やごまかしをよくされる患者さんもおります。その際、支援者として、行動の背後の「そうせざるを得ない何かしらの理由」に思いを馳せながら関わることがとても大事だと感じます。
家庭医として働いていた時にも、本音を極力気にしながら患者さんとは関わっていました。しかし、心療内科で学んでいると、まだまだ患者さんの本音に気がつくことができていなかったのだなということを痛感します。
声なき声を聞く際、一つの参考にと、指導医の先生に教えていただいたのが「防衛」です。正確には「防衛機制」で、不安やストレスを軽減するための心理メカニズムのことです。とても大切と感じたので、調べてまとめてみました。
精神医学における「防衛」
「防衛機制」は、精神分析学を提唱した精神科医ジークムント・フロイトが最初に提唱した概念で、後にフロイトの娘アンナ・フロイトや児童分析家のメラニー・クラインによってさらに発展しました。
フロイトは、人のこころは3つの要素から構成されると考えました。すなわち、人間が根源的に抱いている本能的欲望である「エス」、エスを制止する「超自我」、両者の間で懸命に適切な道を探る「自我」です。
詳しくはこちらの記事にも書いておりますので、ご参照ください。
自我は「こういう人間になりなさい」「あれをしてはいけない」といった超自我の命令に従う一方で、ひたすら欲望を満たそうとするエ スの力も必死でコントロールしなくてはなりません。
このように、存在を脅かされている自我は、自分の身を守るための様々な方法を考え出しました。それを防衛機制といいます。私たちは日常の些細なことに防衛規制を使っているといわれています。
「防衛」の種類
防衛機制の種類は様々ありますが、精神科医ジョージ・E・ヴァイラントは防衛機制によって人の心の成熟度が現れるとして、以下の4段階に分けました。以下それぞれの段階について代表的な防衛機能の種類を述べます。
①病理的防衛
投影同一視:自分のイメージを相手に押し付け、その通りに相手が振る舞うように操作すること。
否認:見えているけど、認めない。見ない振りをすること。
分裂:極端な理想化や脱価値観などで、相反する感情を切り離すこと。
躁的防衛:陰性感情を打ち消すために逆に活動的になること。
②未熟な防衛
退行:いわゆる「子ども返り」で、幼い発達段階に戻り、困難を回避すること。不安な時に他人の話を鵜呑みにするもの一つの退行。
投影:発生源が逆転する。自分自身が抑圧している感情、思考、欲求を、他の人が持っているかのように感じること。
行動化:抑圧された衝動や葛藤を問題行動にして解消しようとすること。
取り入れ:他人を真似する。自分にとって重要な人と同じような感情・思考・振舞いをして、他人を自分に取り込もうとすること。
③神経症防衛
逃避:困難から逃れるために現実・空想・病気のいずれかに逃れること。いわゆる現実逃避。
抑圧:無意識に感情を否定すること。無理矢理忘れようとする。
隔離:別物として分けること。感情の麻痺。
代償:欲求や衝動を他のものに置き換えることで満足すること。
反動形成:受け入れられないために、真逆の表現をする。嫌いな人に丁寧に接するなど。表現される思考や言動は、不自然なものであったり、強迫的になりがち。
合理化:都合のいい理屈に置き換えること。言い訳、弁解。
知性化:知識に置き換えること。思考による割り切り。
④成熟した防衛
同一視:人の良いところを取り入れ、自己評価を高めて欲求を満たすこと。
補償:失敗や劣等感を感じた時に、他の分野で成果を出して心の穴埋めをすること。
抑制:無意識の抑圧とは異なり、意識的に感情を追放すること。
昇華:欲求や衝動を世間的に評価される形に置き換えること。ただ、逆に挫折したときの反動は大きく、一部を除き、多くは反動でその他の防衛機制に移行していくことが多い。
ユーモア:笑い話にして解消すること。
他愛主義:自己犠牲を厭わず、誰かのために尽くすことで解消すること。
さいごに
いかがだったでしょうか。医療現場では本音を読み取ることが大事で、その際に「防衛」機制が参考になるということを述べました。さらに防衛機制の精神医学の理論や、具体的な種類について述べました。
防衛の種類は、時と場合によって選択するものが異なりますが、一人一人が選択しやすい「癖」があります。その傾向を知ることで、その方が感じている奥底を知ることができ、より深く共感をすることができると思いました。
また、自分がどの方法を取りやすいか癖を知っておき、成熟した防衛機制を意識的にでも行うことが、円滑な医師・患者関係を築くためにも大事だと感じました。私も日々柔軟にストレスに対処できるように頑張りたいです。
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