精神疾患における免疫 「自我」について


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私は「かかりつけ機能」を専門的に担う家庭医として働いていますが、メンタルヘルス領域を深めたいと思い、現在とある心療内科にて週の半分勤務しています。学んだこと・気づいたことを適宜記事にしていこうと思います。

心療内科ではたくさんの精神疾患の患者様が来院され、指導医の先生とディスカッションしながら様々なことを学んでいます。その中で興味深かったのは「自我」が精神疾患の表現形や治療に深く関わるということです。

私も家庭医の診療所でたくさんの精神疾患の患者様の診療に関わってきたのですが、同じ疾患でも何となく感覚的に「この患者さんは大丈夫!」「この患者さんは少し心配だな」と思ってきました。

その感覚の答えが「自我」にあるように思ったので、少し深掘りしてまとめてみました。

「自我」は心の免疫

指導医の先生との面白かった話に「自我」は心の免疫という話がありました。例えば「感染症」の治療を考えてみます。

感染症を治療するとき、その感染症が風邪または肺炎なのか、それとも胃腸炎なのか、膀胱炎なのか、何の感染症なのかを考えます。

それと同時に、そもそもの本人の「免疫」についても考えます。年齢や今までどんな病気に罹って、手術をしたのか、免疫を下げるような病気に現在罹っていないか、薬を飲んでいないかなど。

免疫によって、そもそも感染症への患いやすさも規定されますし、感染症にかかっても軽症ですむのか、重症化しやすいのかが決まってきます。

昨今の新型コロナウイルス感染症でも、罹患しないよう免疫が弱らない生活を送ることが大切と言われますし、罹った場合は年齢や基礎疾患によって重症化する可能性が変わるため、免疫状態の評価はとても大切ですね。

精神疾患の治療を考えるときも同じで、精神疾患を治療するとき、うつ病なのか、不安障害なのか、パニック障害なのか診断をまず考えますが、同時に「免疫」も考えます。精神疾患における免疫が「自我」になります。

この自我機能によって、病気への患いやすさ、患った際の重症度が変わり、治療の方針も変わってきます。

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精神分析にみる「自我」

そもそも「自我」とは何でしょうか。日常でも哲学の中でも様々な解釈で使われますが、精神科領域では、精神科医ジークムント・フロイトが提唱した「精神分析」の中で使われる概念です。

精神分析では心を構造的に3層に分類し「エス」「自我」「超自我」の3つに分類します。

「超自我」は、社会の中で生きていくために必要な価値観のようなもので、子どもの頃からのしつけや教育を受ける中で身につける倫理観や道徳観などで構成されます。

これに対し、「エス」は本能のまま、欲求のままに動く、動物的な欲求で、生きていく上で不可欠な欲求です。エスは創造性の源でもあり、人が生きていく上では非常に重要ですが、エスと超自我は対立します。

「自我」はエスと超自我の間に挟まって、その場の状況を踏まえた上でどのようにするか判断します。

例えば誰かと食事に行き相手が話しているときに、早速目の前においしそうな料理が出てきたとしましょう。いいにおいがするから食べたいとなる本能的な欲求がエスで、相手がしゃべっているのだから食べては失礼だと考えるのが超自我です。自我は、会話のタイミングを見計らって上手に食べようとします。

いわば「調整役」となるのが自我ですが、生きていく上でとても大事な役割を果たします。例えば、エスが強すぎると衝動だけに従う社会性のない人となってしまい、超自我が強いと道徳観や倫理観ばかりが強すぎて自分で判断することができない人となります。

自我には自分の本当の欲求を意識し、時と場合を選んで実現していくという機能があります。この自我がどの程度の強さなのかが、精神疾患へのかかりにくさや、重症度に関わります。

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「自我」の強さを見る方法

精神疾患における免疫機能としての自我を説明してきましたが、では一体自我をどのようにして強さを評価すればよいでしょうか。評価尺度は様々ありますが、代表的な3つを述べます

自他境界:自分と自分でないものを区別するための境界線です。自我境界の形成が十分でない人は「他人は自分とは違う」「考え方も違ってあたりまえ」ということが実感できません。

例えば、統合失調症では、自我境界が壊れてしまうことがあり、そうなると「他者の考えによって自分が操られている(操られ妄想)」といった自分以外の外界から知覚が生じていると考えることがあります。

現実検討:現実世界に置かれている自分の状況を観察し、どのように自分が行動すべきか状況判断をしていく機能です。これがないと、自己を客観的に見ることができなくなり、思い込みばかりが強くなってしまいます。

防衛機能:外界から自我を守るための機能で、適応機能とも呼ばれます。様々なものがあり、昇華・ユーモア・他愛・抑制といった成熟した方法から、否認・分裂・投影同一化といった未熟な方法までがあります。

人によってどのような方法を使うかの癖があり、より成熟した防衛機能があるかどうかが自我の強さに影響します。

さらに精神科医カーンバーグはパーソナリティを「神経症性パーソナリティ構造」「境界性パーソナリティ構造」「精神病性パーソナリティ構造」の3つに分類し、それぞれの先ほどの自我機能を以下のように分類しました。

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さいごに

自我は精神疾患における免疫に相当するという話から、自我について精神分析の観点から説明し、評価について述べました。いかがだったでしょうか。

医療者は、特に患者さんの自我の強さを判断しながら対応する必要があります。中でも自我が弱い方と関わる際は、身に覚えのない誤解を投げかけられる可能性があり「適度な距離感」を保ちながら関わる必要があります。

適度な距離感を保つためにはどうしたら良いのか?
その辺は機会があったらまとめてみたいと思います。

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