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未来くん、どうしてる?

高校に入学して最初に好きになった男の子の名前は「早乙女未来」くん。

この嘘みたいな名前は、忘れられない!

偏差値60くらいの中堅高校だったけど、彼はたぶんどうにか入ったって感じで、初めから何故か軽く問題児っぽい扱いをされてたんだ。

天然パーマを少し茶色く染めてた。

授業中もほとんど突っ伏して寝てる。

反抗的な態度もたまに取るけど、かわいい一面もあって、時々笑うと嬉しかった。

そんな彼の特技は、「歌」だった。

同じクラスにイワシくんというビートルズが好きなギター弾きがいた。
見た目は背が高くてメガネで髪の毛はツンツン立ててた。立ってただけかも。

ビジュアル的には全く噛み合わない2人だったけど、音楽をきっかけに仲良くなって「小室哲哉のコード進行は許せねぇ」とか語り合ってた。

(その会話を楽しそうに見ているわたしという観客がいることで成り立ってるのは、何となく分かってた。メンズはいくつになってもそういうシチュエーション好きなのでは。)

休み時間とかにイワシくんのギターで歌っていたこともあり、早乙女未来くんの歌の上手さはだんだんと知られていったんだ。

大人っぽい優しい声で、美しい自然なビブラートが魅力的だった。

文化祭では、2人で藤井フミヤの『true love』を披露してた。(今思うと、そこは結構世間に迎合してたのね。笑)

普通にしない、普通にできない、ちょっとダメに見える早乙女くんをなんか好きになった。

あまり心を開かない感じなのに、わたしには話してくれると嬉しかった。
昔から、器用に上手くやれる人に対しては、自分からあまり興味を持たないタイプだったなぁ。突っ伏してひとりでいる人が教室にいるのに、他の人と楽しむなんてわたしには出来なかった。席が近い時は、わたしも自分の席に座ったまま同じようにひとりで過ごしていたこともあった。

そんな早乙女くんは、やはり勉強にもついて行けないというか、取り組む気は全くなかったようで、登校しない日も多くなり、やがて学校を辞めてしまった。

それから一度、手紙を送った。

しばらくしてハガキで送られてきた返事には、ガソリンスタンドで働いている姿でピースしてる写真が貼ってあった。「元気です」の一言と一緒に。

ちゃんと気持ちを伝えたかどうかは記憶にない。

わたしにとって、一緒に卒業まで過ごした人たちと早乙女くんを比べたら、早乙女くんの方が断然印象が強い。

やはり、当たり前のようにみんなに用意されていて、同じように進んでいくと思われた人生から、突然違う道へ行ってしまった人の存在は特別に見えるし、特別になるものだ。

何が彼を退学まで選ばせたのかは分からない。

イワシくんもいたし、音楽もあったし、なんならわたしもいたのにな、なんてね。

ただ "ここは自分の居場所じゃない" と痛烈に感じていたことは伝わってきていた。
そして、居場所にしようとする努力も選んでいなかった。

努力は、するべきところを間違えちゃいけないと思うし、環境は選び間違えると全てを壊される。

早乙女くんは自分を曲げずに済んだということで良いのかな。

自分の感覚と感情と半径1メートルくらいだけに意識を向けて過ごしているここ数日、やけに思い出された早乙女未来くん。

あの頃の未来に追いついた今。

未来くん、君はどうしてる?

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