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振られてとてつもなく死にたいと思ったのに、ぼくはまだこの世界で呼吸している。(超短編小説#21)

振られた。
大好きだった彼女に。


あんなに仲がよかったのに
振られた。


振られた直後のこの世界は
絶望という言葉が似合いすぎるほど
色を失っていた。


忙しいはずの3月も
それより忙しい4月も
絶望のなかでの記憶は
どこかあいまいで
それでいてただただ
ツライだけだった。



でもぼくは今こうして
まだこの世界で
呼吸している。



「呼吸」という言葉を辞書でひくと
『息を吐いたり吸ったりすること』
と書いてある。


全然食欲がなくて
うまく笑えなくて
急に悲しくなって
泣いて
泣いて
涙が枯れるほど泣いた。


このままこんな
拭いても拭いても
洗った手が乾かない
そんな気持ちが
ずっとずっと続くんだと思った。


まるで道路に描かれている
まっすぐどこまでも続く
白いセンターラインのように。


それでも
「ただツライ」という名ふだを
胸からぶら下げた四季が
何周か巡った今
ぼくはここで呼吸している。


どうやら
息を吐いたり吸ったりすることは
呼吸しているということで
言い換えれば
生きていることになるらしい。


あんなに好きだった気持ちは
どこに行ってしまったのだろう。
あんなにツラかった気持ちは
どこに行ってしまったのだろう。


あのときの気持ちを
ふと思い出そうとしても
あのときと同じぼくは
もうここにはいない。


今日もまた
息を吐いたり吸ったりしながら
ぼくはセンターラインの上を
歩いている。

かめがや ひろしです。いつも読んでいただきありがとうございます。いただいたサポートは、インプットのための小説やうどん、noteを書くときのコーヒーと甘いものにたいせつに使わせていただきます。