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ぼくらの「ずっと待ってるから」はどこへ行ったのだろう(超短編小説#27)

土曜日の午前中に車のなかで
彼女は目に涙をためてぼくにこう言った。

「ずっと待ってるからね。」



想いをこめたということが
渡されたときから伝わってくる手紙には
こう書かれていた。

「ずっと待ってるね。私がそうしたいし
身勝手でごめんね。」



日曜の午後の渋谷の喫茶店で
ぼくは何食わぬ顔でこう言っていた。

「きっとずっとこのまま
待っているんだと思う。
結婚しても子どもが生まれても。」



どれも今ではその
「待っている」という状態は
もうどこにもなくて
お互いがお互いの今を暮らしている。



彼女の言った言葉はどこへ行ったのだろう。


友だちに相談したときに
流した涙となったのか。

女子会で飲んだレモンサワーと一緒に
喉元から流れていったのか。

新しく気になる人とデートしたときなのか。



ぼくの口からこぼれた言葉は
どこへ行ったのだろう。


未練がましくデートした帰り道の
乗り換えの横浜駅に置いてきたのか。

LINEで相談に乗ってもらった友だちに
消化してもらったのか。

一人夜道を車で走りながら
号泣したあの涙と姿を変えたのか。



ぼくらの放った
「ずっと待ってるから」は
どこへ行ったのだろう。


そしてきっと今日もいくつかの
「ずっと待ってるから」が生まれては
誰かと夜をともにし
なにかに姿を変え
消えていったのだろう。




ぼくらの「ずっと待ってるから」は
どこへ行ったのだろう。

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