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きっと今日もうさぎは月でお餅をついている(超短編小説#26)

定時に仕事が終わらない今日をくぐり抜け
いつものように深夜1時を過ぎて布団に潜り込む


寝る時間がいつもと同じ時間なので
ぼくにとってこの時間は定時で
たまに芸能人の熱愛スクープの記事にある
「深夜23時の六本木で」なんて状況説明の
深夜という表現は本当に深夜なのか
読むたびにいつも訝しくなる



今日は下弦の月だそうだ



おいしそうに下半分だけが黄金色に
光り輝く月を見上げながら
思わず一口目に「あまっ」と声が出た

缶に入ったワインベースのカクテルは
極度の甘味に包まれ
口のなかに広がったあと声に変わっていた



世の中は知らないことだらけだ
日常は知らないことでいっぱいだ



「24時間最大料金500円」の
コインパーキングは本当に利益が出てるのか


仕事が微妙にできない後輩の奥さんが
どこで知り合うのかというくらい
モデルみたいに小顔でかわいかった



日常は知らないことでいっぱいだ



月をずっと見上げていると
うさぎがお餅をついているように見える


ぺったんぺったん
2匹のうさぎがお餅を杵と臼でついている



ぼくは子どものころから今日まで
月にうさぎが住んでいると思っている


今日は下弦の月だそうだ



半分しか見えないお月様だから
見えていない半分のことは分からない



日常は知らないことだらけである


それでも
きっと今日もうさぎは月でお餅をついている



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