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行動経済学の逆襲 要約⑫

 第2部~第3部で、メンタルアカウンティングとセルフコントロール問題について、話してきました。この章では、そうした行動経済学の見地が、実際にビジネスに結びついた例を2つ紹介しています。
 今回は、第13章「行動経済学とビジネス戦略」の要約です。

【全体の要約】
 これまで取り扱った、「取引効用」や「サンクコスト」などの考え方を用いることで、実際のビジネス戦略を立てたり、説明したりすることができる。

1. スキー場の黒字化作戦

 舞台は、グリークピークというスキー場。このスキー場の課題は、業績が赤字であり、オフシーズンを乗り切るための借り入れができないということでした。
 黒字化するためには「リフト券の値上げ」が必須だということになりましたが、このスキー場は小型のスキー場であったため、大型スキーリゾート並の価格にすると客がいなくなってしまうことは目に見えていました。

 そこで、著者は、「値上げをしても利用客が減らないためにはどうするばいいか」を考えました。

 1つ目の工夫は、「段階的な値上げ」です。そして、この値上げを正当化するために、利用客のスキー経験を向上させることで、ぼったくり感を与えないようにしました。
 例えば、優良だったスラロームコースの利用料を無料にする、インストラクターが稼働していない時間に上級者向けのフリーレッスンを開催する、などです。

 2つ目の工夫は、「パックチケットの販売」です。パックチケットとは、6枚で1セットのパックを、割安料金で販売するというものです。
 このメリットは、まず「取引効用」が大きくなり、お得感を感じること。第2に、パック料金を先に支払うことは「サンクコスト」となるため、それを無駄にしないようにしようと思い、友達を連れてスキーに来たりすることで、スキー場の利益が上がるというものです。
 また、スキーに行く日にお金を払うわけではないため、「タダでスキーをしている」という感覚を与えることもできます。

 3つ目の工夫は、「シーズン当初に、次回利用のクーポンを渡す」です。シーズン当初はスキー場の一部しか解放されていないため、これまでは当日に受付で割引を行っていました。
 しかし、スキー場に来る客は定価を払おうと思ってきているため、これは賢いとは言えません。そこで、当日の割引ではなく、次回利用時のクーポンを渡すことで、「気前のいいスキー場」という印象を与えるとともに、次回の来訪を促進できたのです。

2. GMの在庫問題 

 アメリカの自動車メーカーは、夏になると売上が落ち込むという問題を抱えていました。なぜなら、秋になるとニューモデルが発表されるからです。そこで、各社は8月になると、販売奨励施策を打ち出していました。

 通常、クルマの販売価格の値引きが行われますが、1975年にクライスラーは「リベート」という方法を採用しました。これは、値引きではなく、新車購入者に数百ドルキャッシュバックするという方法でした。同じ額の値引きよりもリベートの方が評価されたのはなぜでしょうか?

 値引きをする場合、値引き額は車の価格の丁度可知差異の範囲内になってしまうため、大した値引きではないと感じられてしまいます。
 しかし、キャッシュバックとすることで、「車の購入」と「キャッシュバック」が別会計として処理され、同じ数百ドルでも評価が上がってしまうのです。

 しかし数年すると、リベートも特別なことだとは思われなくなってしまいます。そこでGMは、「低金利の自動車ローンの提供」を行いました。するとこのキャンペーンは空前絶後の効果を上げます。
 この話のおかしいところは、リベートによるキャッシュバック額の方が、低金利ローンによって得する金額よりも大きい、という点です。

 なぜリベートの方がお得なのに、低金利ローンの方が高く評価されたのでしょうか?
 リベートの場合、車の金額とリベートの金額を比べ、ごくわずかだなと考えてしまいます。
 一方、低金利の場合、他社の金利と比較することになりますが、当時GMの低金利では2.9%、他社では10%程度、であったため、その差は大きいものであるように感じられたのです。 

以上が第13章の要約になります。

次回予告
次回からは、第4部に入ります。次回は、第14章「何を公正と感じるか」です。


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