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なぜ『ニセモノの錬金術師』はここまで面白いのか?

『ニセモノの錬金術師』を知ったのは、Googleの元社員の方からの紹介です。その方も漫画好きで、この作品を薦めてくれました。

僕のKindleには、この漫画が二種類あります。一つはラフ版、もう一つは商業版です。

ラフ版はpixivで連載されていたもので、ネームや絵コンテに近い印象を受けました。商業版はラフ版と同じ内容ですが、ビジュアルが豪華になっています。

『HUNTER×HUNTER』の連載再開が待ち遠しい人は、『ニセモノの錬金術師』を読んでおくと良いのではないかと思うほどの作品です。


あらすじ

異世界で、 錬金術を生業とする ひとりの人間が おりました――。
錬金術×呪術×奴隷×エルフ×転生×神様×チート×バトル…… ファンタジーのすべてが詰まった作品が、圧倒的筆致により連載開始!

カドコミ

1. 『ニセモノの錬金術師』の世界観

今回は商業版に絞って紹介します。この漫画の大筋は、四肢の傷ついたエルフを錬金術で回復させるというものです。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻19ページより

主人公のパラケルススは、死後にチートスキルを選び、異世界に転生します。

僕はあまり異世界ものを読んでいませんが、物語の始まり方に特徴があると思いました。

チートスキル自体は珍しい設定ではありませんが、この作品では転生のきっかけや、転生する前の世界でどんなスキルを持っていたかは、深く描かれていません。

物語は、彼のチートスキルに焦点を当てて進んでいきます。

2. 奴隷の設定と物語の進行

もう一つの特徴は、冒頭に奴隷を買うシーンがあることです。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻4ページより

パラケルススの奴隷となるノラは、呪術師として優れた能力を持ち、その設定が物語の重要な要素となっています。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻125ページより

錬金術、奴隷、呪術といった数々の設定が、最初から考え抜かれていたのか、それとも連載を通して詳細が追加されたのかはわかりませんが、とても興味深いです。

商業版は二巻までしか発売されていませんが、かなりのめり込みました

僕は奴隷という言葉があまり好きではありませんし、多くの人も同じだと思いますが、この漫画では特別な契約があります。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻8ページより

主人が感謝すると奴隷に報酬が発生し、奴隷は規定額を主人に支払うと自由市民の権利を得るというものです。

奉仕には体の関係だけでなく、他の全ての奉仕が含まれます。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻34ページより

この設定は非常に良い思いました。

奴隷という言葉からは強すぎる印象を受けますが、この漫画では奴隷をむやみに扱ってはいけないという法律や、現代社会にはない設定が描かれています。


一方で、『ニセモノの錬金術師』の面白さを言語化するのは、非常に難しいです。

異世界転生ものかと思っていると、どんどん設定が広がっていきます。この設定の深さが、物語に没入させる大きな魅力です。

また、物語のために、読者が少し抵抗を感じるような表現が必要なときは、それを補うための描写も入れているのではないか、と感じました。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻51ページより
出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻52ページより

だからこそ、この漫画は設定に対して、すんなり読めるのかもしれません。

好き嫌いは分かれるのかもしれませんが、受け入れやすくなっているのではないでしょうか。


言葉の力とコミュニケーションの楽しさ

この作品を通して、表現するときはこういった工夫ができると良いな、と思いました。そのときに思い出したエピソードがあります。

最近知り合った弁護士さんが、「言葉は最小単位のツールだ」と言っていて、とても納得しました。漫画や動画、写真、noteといったコンテンツを作るとき、人が何かを表現する最小のツールはたしかに言葉です。

その先生と会う時間が好きなんですが、いつも豊かな言葉で表現されています。その先生に「豊潤ですね」と伝えたところ、「豊穣ですね」と返してくれたことがありました。

どれだけの言葉を知っているかが、豊かさの指標の一つかもしれません。

そんな人との対話はとても楽しいです。より良い言葉を返してくれる人は、本当に素晴らしいと思います。

たとえば、資料を見ましたではなく、「拝読しました」の方が、尊敬の念がしっかりと伝わって良いなと思います。


3. 設定の広がりと作品の魅力

作品に話を戻すと、『ニセモノの錬金術師』は設定の広がりが非常に魅力的です。

冨樫先生の作品のように、設定が広がっていくと畳めるのかと心配になるほどのスケール感があります。しかし、それでも読み進めたくなるのが、この作品の魅力です。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻70ページより

設定が深すぎて追いつけないときもありますが、それが逆に読者を引き込み、また読み返したいと思わせる強さがあります。

相当な読み応えがあり、何度でも楽しめる作品です。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻70ページより

また、これまで見たことがないシリーズだということは、間違いありません。非常に異彩を放っています

一定の層に向けて届けるのではなく、幅広く読者を取り込もうとしているように感じました。ただ作りたいものを作るのではなく、読者に合わせて調整されている印象です。

細やかな設定

一方で、この漫画を一回目で、全部すらすらと読める人はなかなかいないでしょう。この作品の設定は、これまでにないほどの高密度であることは、間違いありません。

たとえば、お金を稼ぐために錬金術で、「幸運魚」を作るシーンがあります。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻76ページより

作り方は、コインの表側を100回連続出し続けるというものなんですが、最初は意味がわからず2日ほど立ち止まり、読みながら寝るのを繰り返しました。

出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻78ページより
出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻79ページより
出典:杉浦次郎(原作)うめ丸(作画)/KADOKAWA『ニセモノの錬金術師』1巻80ページより

こういった細かい設定の数々が、世界観に深みを与えていると思います。

独特のジャンルと天才の存在

漫画には、高校生の恋愛やヒーローものなど、いろいろなジャンルがありますが、この作品は『HUNTER×HUNTER』と同じカテゴリーにおける、最高峰ではないでしょうか。

『ニセモノの錬金術師』は、一度読み始めたら止まらなくなるような中毒性を持った作品です。即興的で生き生きとした要素と戦略性のバランスに、飽きることがありません。

この設定を、原作者の方が一人で練り上げているのか、編集者の方と組み立てているのかは気になりますが、いずれにせよ、天才というのはやはりいるんだなと感じました。

ぜひ読んでみてください。

(ヘッダー画像引用元:杉浦 次郎 @sugiura_jirou

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