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真っ直ぐに、空気を写す人。/ studio SOLPH アラタ ケンジさん【後編】

【前編】はこちら

どうしてもここにスタジオを構えたくて、大リノベーションすることに

―――じゃあカクイチビルに入ったのもまちこさん繋がり?

そうです、まちこさんから「二荒山神社の近くのエリアに2つ目の場所を借りることにした」と聞いたから「そこってまだ空きあるの?」ってまた図々しく聞いて、笑。そしたらちょうど空いてる区画ができたところだったみたいで、ムーンドッグ敏和さんと面談できることになり。いやぁ、緊張しましたね。自分はこういう仕事やってて、カクイチビルは二荒山神社も近い(徒歩2分!)から七五三の撮影するにもすごく魅力的だと感じている、って思いを伝えて。

二荒山神社が近いから七五三撮影もスムーズ!
いい笑顔が撮れますね

それで「じゃあ、ちょっと見てみる?」となって来てみたら、ここ完全に和室だったの、押し入れがあって床の間があって、今メイクルームにしてるところなんてお風呂だった!奥行きもあんまりないから引きの写真撮るのに正直ちょっと厳しいか…って初見では思ったんだけど、建物見たときに感じたわくわく感と、立地と、何よりもメンツが良いからどうしてもここにスタジオを構えたかったんです。全然ジャンルが違うお店が複数入るっていうところに相乗効果の可能性も感じたから。だから大リノベーションをしてなんとかすることにしました。ミキサー車呼んで、一輪車で造園屋さんと大工さんとモルタル手運びして、コンクリート打設して。
住まいのある栃木市にも事務所兼スタジオの物件を既に構えてたんだけど、正直栃木市だけじゃ難しいなと思ってたタイミングでもあった。県庁所在地の宇都宮の方が人口はもちろん法人だって多いから、商業写真の仕事も増やせるかなって期待もして。

自分にとって、旅は「欠かすことのできないもの」

―――SNSやウェブサイトを拝見すると、人物写真だけでなく旅の写真も目に留まりました。

そうですね、仕事で行かせてもらったのも含め色々なところへ行きましたね。旅は大好き、というか欠かすことのできないものです。見たことないものを見たい、新しいものを見たいっていう欲求があるんだと思う。写真撮るために生きてると言ったら大袈裟ですけど、基本的には写真撮っていたいんです、常に。けど同じ場所にいるとどうしても写真撮らなくなってきちゃう。だから見たことない景色を見ることで新しい刺激を入れて、気持ちを上げてくみたいなところもある。なので定期的に出たいですね、旅。

今年の2月には学生時代の先輩を訪ねてポーランドに行きました。その先輩がポズナンっていう旧市街地で、日本風にアレンジされたいわゆる「洋食屋」をやってるんですけど、そこで撮影会と写真展をさせてもらった。ベルリンとワルシャワの間にある治安のいい街で、古い建物が残ってて雰囲気もあって、彼のお店に集まる人たちもまたみんないい人で。店に、先輩曰く「西洋と東洋が混じり合ったような壁」があって、日本にいるときネットで見てて「この壁を背景にしてポートレイトを撮りたい」と思ったんです。そしたら先輩が「好きなようにやっていいよ」と。そこで撮影会をする。フィルムを一旦持ち帰ってきて、現像してプリントする。今度はそのプリントを現地に送ってまたその壁で展示する。…っていうことをやりました。

「西洋と東洋が混じり合ったような壁」
撮影も展示もこの同じ壁の前で

撮影会に先駆けて外に出てストリートスナップも撮ってました。25人ぐらいは撮らせてもらいましたかね。海外の知らない地で声かけて撮らせてもらうのに成功してくると、どんどん自分のテンションも上がってコミュニケーションも生まれてくるんですよね。意外なくらい怪しがられたりもしなかったし。エリア的にもちょっと文化度の高い方たちだったのかもしれない。すごく芸術に寛容で、言ってることもわかってくれて、撮られることもすごく喜んでくれて。僕がインスタ見せながら「今日撮った写真送るからフォローして」って片言の英語で伝えたら相手から先にメンションしていただいたりとかして。そういうのがシンプルに嬉しかったです。例えばこれは先輩の店で働くインドネシア人のカップルの写真。

バリでの結婚式も素敵な写真が残せそうですね♡

来年結婚するらしくて「バリに来て結婚式を撮ってよ」って招待されてるんです、笑。そういう出会いのだらけの旅だった。8泊10日、ほぼずっと写真撮ってましたね。

写真を撮ったら、プリントして、飾ってほしいんです

「本当の写真を撮りたい」って思ってるんです。できるだけ撮ったまま、あんまりいじらずに、うまく言えないんだけど「空気も写す」みたいな。それがフィルムの方が叶うから、僕は作品などは今もできるだけフィルム撮影をしています。今は技術が進歩してデジタルにはデジタルの良さもあるんだけど、レタッチありきとか撮影の在り方がだいぶ変わってきてると感じてる。でも僕はそうじゃないストレートな写真を残したい。フィルムにしか出せない立体感とか奥ゆかしさとかがあると思ってるので。

―――フィルムいいですよね。けど、自分じゃ撮れない、って思う。

そう、なので年に1〜2度フィルム撮影会っていうのをスタジオでやってます。モノクロのフィルムでこうやって家族写真なんか撮ってるんですよ。

「写真を撮ったら飾ってほしい」とアラタさん

モノクロプリントって100年残るって言われてるんですよね。最近は皆さん写真撮ってもスマホの中に撮りっぱなしだったり、ハードディスクにデータで残してるだけだったりしません?そうじゃなくて、プリントすること、紙にすること、飾ることの意味ってすごくあると思うんです。長く残るものを壁に飾ってもらいたいって思いがあるからモノクロフィルムをチョイスしてます。プロダクトとしてもやっぱかっこいいんで残したい文化ですね。

スタジオの小窓をつかったこんな写真も

フィルムで撮るとその場では確認ができないから、カメラマンとしてはプリントを見るまで緊張感がずっと続くわけです。もし撮れてなかったら…って不安もなくはないけど、自分にはカメラマンを始めた頃からフィルムでずっと撮ってきてる勘とかデータの蓄積がある。その上で「よし!」って自信持ってシャッター切ってますから。逆に被写体の方もね、フィルムで撮られたことなんてないから緊張してるのが伝わってきます。カメラの存在感もあるし、デジタルにはない独特の緊張感がありますよね、その双方の緊張感も含めてフィルム撮影がやっぱり好きです。

撮影をもっと身近に、スタジオにはもっと普段の顔で

―――じゃあ最後の質問。これからやりたいことを聞かせてください。

先ほど(【前半】で)金沢の書籍の話をしましたけど、栃木県でもこういうのをやりたいんですよね。魅力的な人がいっぱいいるのがわかったし、作ってるものや表現しているものも素晴らしい。でも栃木県てシャイで出たがらない人が多いから「取材はちょっと…」って言われちゃいそう、笑。栃木県は広くて人もお店も点在してるから取材するのはなかなか骨が折れるとは思います。けど魅力的なヒトやモノをちゃんと高いクオリティで紹介するものを作りたいっていうのはずっと思っています。

あとはやっぱりもっと日常的に撮影を体験してもらいたいなぁ。昔の「写真館」みたいに構えなくて良くて、スタジオはもっと普段の顔で来てくれるような場所にしたい。もちろん「このロケーションで撮ってほしい」っていう依頼を受けて、こちらが出ていくことも喜んでお受けします。その人の良さを探しながら引き出しながら撮ります。インスタからでも、ウェブサイトからでも、メールでも、気軽に声かけていただければと思います。体験してもらったら、あぁ、よかったなって思ってもらえる自信はあるので。

七五三の記念写真だって こんな自然な表情で

写真が撮れるって「すごいことが起きることがある」んです。よく知ってる人の見たことない一面が垣間見えたり、はたまた世界で活躍するようなスーパースターに会えちゃったり、旅先では見知らぬ人に話しかけるきっかけにもなったり。
僕は写真が撮れて本当によかったなぁ、と心から思います。

studio SOLPH アラタ ケンジさんは
真っ直ぐに、空気を写す人。

本日のまとめ


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