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夏目漱石「坊っちゃん」を読んで~それは現代日本そのものだった~

 変わりゆく日本や人、文化への批判的なメッセージが含まれているのだろうか。
 無鉄砲だが正義感は強い坊っちゃんが主人公として描かれる本作。「坊っちゃん」という単語を聞いて、ぼくは若さや青さのようなものを連想したが、夏目漱石はそれを肯定しているのかもしれない。むしろ夏目漱石が否定したいものは、明治時代の変わりゆく日本社会とそれに付随、もしくは変わることを先導する権力であって、正義感や倫理観をないがしろにし、うまい言葉で西欧的な価値観や欺きを蔓延らせる嘘っぱちの社会か。

 本作に登場する老婆の清や、宿場の老人をどこか肯定的に描いているのも、夏目漱石がその不条理な時代に向けたアンチテーゼに思えた。「坊っちゃん」とは、ある種のそのようなむかしを知る人間たちに守られた人であり、未来への希望も、本作では残しているのかもしれない。

 時代は違えど、現代日本は「坊っちゃん」と似ているようなところがある気がした。取り込まれる新しい文化や価値観、秘密裏に悪事を働く権力、正義感を笑い、「そういうものだ」という理屈でそれをねじ伏せようとする大衆。

 無鉄砲な正義感では生きていくことができなくなった。現代社会で「坊っちゃん」でいることは、世間からはばかられる。

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