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どら焼き

お正月を迎えると思い出す、
母方の祖父の話。

じいちゃんは和菓子職人だった。
丁稚奉公から勤め上げて、そこの長となった、餡を作るには相当なこだわりがあったそうだ。
茶会や初釜などに呼ばれ、お茶の先生とも交流が深く、そこには自分の手掛けた生菓子が出たりとなかなかの活躍ぶりだったらしい。クリスマスや誕生日、ひな祭りなど勤めていた和菓子屋の洋菓子部門で作られた大きなホールケーキが届き、母方の初孫だった私はたいそう可愛がられたものでした。

いつも、「よく来た、よく来た」と、私を呼び寄せて抱っこしてくれた。
だけど正直、じいちゃんよりもばあちゃんが好きだった私は、抱っこされてもすぐに逃げ出してたし、近づくとポマードの匂いがするから何だか苦手だった。

髪の毛が死ぬまでふさふさだった祖父は、ポマードでビシッと毎朝髪の毛を整えて出社してた、オシャレだけではなく食品に髪が入らないようにとの配慮からきたものだったと大人になってから知った。

ある年のお正月 お年玉をもらった後、
「今日はこれからお菓子を作るから楽しみにしといてよ」

祖父はそう言うとホットプレートをリビングに持ってきた。
前日から仕込んだ蜂蜜入りの生地、
炊き上げた餡ではなく市販の缶入り、 パカっと開けて、準備完了。

「あんこは、沢山の小豆で作らないと美味しく出来ん、作りたかったけども仕方ない」

生地をおたまですくって、鉄板に流す、
表面にぷくぷくした穴が開いてきたら裏返すタイミング、いい匂い。

裏返す作業も餡をのせるのも、生地を鉄板に流す作業も、全部じいちゃん。

「やりたい」

「ここは大事なところだから ダメだ」

絶対に触らせてくれないケチすぎる。

だったらリビングで作るなよ。
大事じゃないポイントなんてあるの?
小学校6年生ならお手伝いできるはず、
美味しいお菓子食べるだけより、
自分で作る事のほうが思い出に残るのに、
あくまでもどら焼きのクオリティにこだわってる頑固な人、
子供の喜ぶポイントがわかってないわー。

世の中には、子供大好きな人と、
子供は苦手だけど自分の子供や孫は可愛がる人がいる。じいちゃんは明らかに後者。

チョコレートよりポテトチップス、
お饅頭よりおせんべいが好き、
甘い物は小さい頃苦手だった事、
じいちゃんには隠してるつもりだった私も同じかもしれない。

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