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【令和6年初春文楽(後編)】近頃河原の達引、伽羅先代萩など

 2024年1月7日(日)に見た初春文楽公演ですが、第1部・第2部について記事を書いてみようと思います。後編です。
 前半の記事はこちらです(↓)。

七福神宝しちふくじんたから入舩いりふね(第1部より)

 七福神という新年らしいスタートでした。宝船に乗った七柱の福の神がそれぞれ芸を披露する話です。琴や胡弓の演奏に加え、(三味線による)琵琶の演奏もあり、あまり音楽に詳しくない私にも聴き応えがありました。
 新しい作品のような印象を受けたのですが、公演プログラムによると、「文久2年(1862)に素浄瑠璃として上演された記録が早い」とあり、少し意外に感じました。

近頃河原ちかごろかわら達引たつひき(第1部より)

(1)簡単なあらすじ(ネタバレあり)

 井筒屋の息子伝兵衛と祇園の遊女おしゅんは深い仲。伝兵衛は、おしゅんに横恋慕する官左衛門に喧嘩を仕掛けられ、官左衛門を斬り殺してしまいます。
 その後、伝兵衛はお尋ね者となり、おしゅんは堀川の実家へ戻されます。おしゅんの実家は、目の不自由な母と、猿廻しの芸で日銭を稼ぐ兄の与次郎との貧しい暮らしです。
 母と兄の与次郎は、おしゅんに伝兵衛との縁を切らせようとしますが、おしゅんの心は変わりません。与次郎は猿廻しの芸を披露し二人を送り出すのでした。

配布チラシ等よりまとめてみました

(2)感想:家族の形

 私が本作を知ったのは、1年前の素浄瑠璃(人形を入れず太夫と三味線だけでの演奏)です。その時は、猿廻しのお兄さんが出てくる話で、少し変わっているなぐらいに思っていました。
 また、今回も、心中に向かう二人のストーリーに焦点を当てて観ていました。

 しかし、今回、後半にお兄さんの人形(主遣い:桐竹勘十郎さん)が出て来て、この作品についての印象が変わりました。

兄・与次郎の猿廻しの芸

 兄・与次郎のかしらは「又平」です。少し、滑稽さも感じられます。でも、その分、妹の門出を祝う(捕まらずに生き延びてくれと願う)姿が際立ってくる感じがしました。2匹の猿も、とてもかわいかったです。

 (私だけかもしれませんが、)よその家族を見るとき、「あそこの家は子どもが何人いて」とか、「あそこの家は二人暮らしで」とか、形式面から捉えがちのような気がします。
 今回、与次郎とおしゅんの兄妹を見て、「家族の組み合わせ」は様々だな、と思いました。実質的に家族を捉えるというか、色々なパーソナリティを持った構成員で、能動的に支え合っていることが分かります。

 「世話物」というと、庶民の義理、人情、恋愛、その中でも事件性を持った物に目がいきがちですが、このように「家族の組み合わせ」に目を向けるのも面白いな、と思いました。

伽羅先代萩めいぼくせんだいはぎ(第2部より)

(1)簡単なあらすじ

 仙台伊達家で起こった権力闘争、伊達騒動(1660〜71)を題材に、争いに巻き込まれた人々の悲劇を描きます。
 全九段で、今回上演された「竹の間」「御殿」「政岡忠義」「床下」は六段目にあたります。
 当主が隠居させられ、女性ばかりの奥御殿で、若君・鶴喜代の乳人・政岡の忠義が描かれます。

 配布チラシ等よりまとめてみました

(2)感想:ケレン味など

 私は、公演プログラムで、あらすじを事前に読んでしまったのですが、失敗でした。この作品は、女性ばかりの奥御殿で、どのような陰謀が張り巡らされているか、同時進行でストーリーを追う方が面白いように思います。冒頭の写真が、乳人の政岡(主遣い:吉田和生さん)です。

 そして、ストーリーの中で、忍者やネズミが出て来ます。私は、「ケレン」という言葉が頭に浮かびました。

(「ケレン」とは歌舞伎の用語で)奇抜さをねらった見た目本位の演技や演出を指す言葉。宙乗り、早替り、仕掛物、水芸のたぐいを指すことが多い。

渡辺保編『カブキハンドブック』より加工して引用

 ケレン(味)という言葉には、否定的なニュアンスもあり、書くことを迷いました。また、藤田洋編『文楽ハンドブック』によると、文楽には原則ケレンは無いそうです。
 しかし、公演プログラムによると、本作は歌舞伎と人形浄瑠璃が影響を与えあった作品とあり、思い切って書いてみました。
 一般的な話として、ケレン味を加えることが必要か否かなど、その面白さについては、今後もう少し考えてみたいです。

■余談:人形ぶり(日本舞踊)

 年末年始に、西形節子さんの『日本舞踊の世界』という本をパラパラの見ていて、「人形ぶり」というページが目に止まりました。

 人形の動きを真似て演技するふりを〈人形ぶり〉という。人形浄瑠璃の演出を模して、人形遣いに扮した人物が後ろにつき、人形を動かしているように演じる。<中略>
 「櫓のお七」「日高川」の清姫など義太夫狂言の一場面で、若い女が恋人を追う異常な興奮状態を、非情な人形ぶりにすると、かえってあやしい色気・愁いも出て演出効果があるものだ。

西形節子『日本舞踊の世界』より

 「櫓のお七」とは、前編で書いた「八百屋お七」のことでしょうか。私は、人形自体が好きでも嫌いでもないのですが(文楽は好きです)、文楽の面白さを知る手掛かりになるかもしれないと思い、メモしてみました。

■最後に

 前編にも書きましたが、今回は、上演中うとうとしまうことが多く、第1部・第2部の記事を書ける立場にないのですが、気づいたことを書いてみました。少しでも興味を持って頂ければと思います。
 最後まで読んで頂き、ありがとうございました。本日は以上です。

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