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親のいちばん大事な役割、しっていますか?


今回は、京都造形芸術大学教授・副学長をつとめる本間正人先生にお話をうかがいました。
本間先生は、日本ではじめて国際コーチ連盟資格を取得した、コーチングの第一人者でもあります。親子関係にコーチングを活用するヒントを教えていただきました。

じつは、しゅくだいやる気ペンの開発をはじめたころ、「ほめる」ことの効果をどんなふうにユーザーにお伝えするのがいいのか悩んでいました。そのとき、本間先生のご著書『ほめ言葉ハンドブック』(本間正人、祐川京子著、PHP研究所)が目に留まり、参考にさせていただきました。開発チームにとっては、最もお話をおうかがいしたい方の一人だったのです。

本間先生のお話はとてもわかりやすく具体的で、すぐに実践できるアイデアをおうかがいすることができました。しかし、それ以上に心に響いたのは、先生が伝えてくださった「親の役割」についてのお話でした。

まず「だいじょうぶ!」と思う


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かきほめ:「子どもが机に向かわない」「どうやって子どもに宿題をやらせればいいのか」という日々の悩みから「しゅくだいやる気ペン」を購入する方が多いのですが、ユーザーのアンケートを見ると、単純に宿題が早く終わればいいと思っている方は少ないんです。

「子どもに楽しく勉強してもらいたい」とか「勉強を好きになってもらいたい」というコメントがとても多くて。それなのに、子どもを前にするとついガミガミ言ってしまう。それで子どもは余計に勉強しないという悪循環が生まれてしまうようなんです。こうした状況を改善していくヒントをおうかがいできないかなと思っています。

本間先生:親御さんたちは、本当に悩んでいますよね。お父さんにも余裕がないし、お母さんはワンオペになりやすい。そんな中で子どもが勉強しなかったら、たしかに心配だし、イライラもするかもしれません。
でもね、ほんとうにだいじょうぶなんです。最終学歴を更新するチャンスはいくらでもありますから。

たとえば、京都造形芸術大学には「てのひら芸大」という通信講座があります。昔から知られているものだと「放送大学」というのもあります。こうした通信制の講座は学費はとても安いけれど、ちゃんと学士の資格がとれます。そして、誰でもいつからでも学べます。

子どものころになかなか机に向かわなかったり、宿題なんかつまんないって言っていた人が、立派な研究者や学者になった例を僕はたくさん知っています。だから、勉強のことであんまり悩まないで、まず「だいじょうぶ!」と思って子どもを見守る懐の深さが親には求められているように思いますね。


子どもが勉強嫌いになるのは、大人の罪


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本間先生:そもそも、親が子どものためにすべきことは「勉強を嫌いにしないこと」なんです。嫌いにさえならなければ、自分のペースで学びつづけることができるでしょう?
高校を卒業してすぐの子どもに、自分の進路を決めさせるのはそもそも無理があるのではないかと僕は思っています。そのころに出会う人間なんて、親か学校の先生か、友達くらいでしょう。そんな狭い世界の中だけで、自分の道を決めてしまっていいのかという話です。
世界が狭く、知っている選択肢も少ないから、将来「YouTuber」や「ゲームクリエイター」になりたいしか言わないんです。

たとえば高校を卒業したらまず社会人になる。いろんな人に会って、いろんな経験を積んで、自分の興味の方向がはっきりしたあとに大学で本格的に勉強をはじめる。そういうキャリアを選ぶ人が、この先の読めない時代には多くなるのではと思います。

論語の冒頭には「学びてときにこれを習う、また喜ばしからずや」と書かれてあります。つまり、勉強というのは喜びだというわけなんです。本来、嫌々やるものではない。それを嫌いにしてしまったり、楽しくないと思わせているのは、やっぱり大人なんですよね。
どうか、子どもを勉強嫌いにしないでね。それが僕からのお願いです。

おすすめは「宿題の儀式」


かきほめ:子どもが楽しく勉強に向かっていくために、親はどんなサポートをすればいいのでしょうか。

本間先生宿題をはじめる前と後に「儀式」を入れるのはおすすめです。スポーツの試合を思い浮かべてください。はじめるまえに円陣を組んで「オー!」ってやるでしょう。あれは何のためにやるんだと思う?

かきほめ:気合をいれるため……ですよね?

本間先生:そう! それと同じように宿題に向かう儀式をやるの。お母さんやきょうだいと一緒に「やるぞー! オー!」って声に出してみる。そして、終わったあとは、ハイタッチをしたり「ナイスファイト!」って声をかけあったりする。そういう「儀式」が気持ちを切り替えるスイッチになるんです。

終わったあとの儀式はとくに大事ですね。「宿題おわったの? じゃ、ごはん食べなさい」とか「終わったならさっさと片づけてお風呂入っちゃいなさい」とか言ってませんか?

かきほめ先生:……。言っちゃってます。(一同、苦笑い)

本間先生:それじゃあ、子どもはいくら頑張ったって報われないですよね。終わらせたということをその都度ちゃんと承認する。ほめてあげることが大事です。

おじさんたちの間でどうしてあんなにゴルフが人気なのかわかりますか? 「ナイスショット!」って声かけ合うでしょう? おじさんたちは、あれが楽しいしうれしいんです。

かきほめ:「やるぞー!」って一緒に声を出したり、「よくやったね!」ってハイタッチしたり、スポーツみたいに宿題に向き合ったら、たしかに楽しそうですよね。

本間先生:そう。子どもに楽しいって思ってもらうには、親も楽しむことが大事です。

「笑顔」が悪循環を断ち切る


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かきほめ:親は、テストの点や成績表といった「結果」だけをほめたり(叱ったり)しがちなんですが、学習の習慣づけでは「プロセス」を細かくほめていくことが大事だと言われています。

しゅくだいやる気ペンはプロセスを見える化し、「親が子どもをほめるきっかけ」をたくさん作れるような商品にしたかったんです。
本間先生もほめることは大事だとおっしゃっていますが、親子関係では、ほめることにはどんな効果があるのですか?

本間先生「親も子も笑顔になる」というのが最大の効果だと思います。
ハロードリーム実行委員会といって、私が参画しているNPOのプロジェクトでは、お母さん向けのコーチングで笑顔になるためのプログラムをやっています。
親が笑顔でいることは、それだけで子どもにとっての大きな贈り物なんです。
子どもが大きくなったとき、笑顔の自分を覚えていてもらいたいか、それとも怒った顔の自分を覚えていてもらいたいか、どちらか考えてみるといいでしょう。

親子でやろう! 「笑顔探し」

本間先生:お母さんは子どもがどんなことで喜ぶのか、観察力がすごくて、よく知っていますよね。同じように、自分がどんなことで笑顔になれるかを親自身が知っていることはイライラを解消するのにとても役に立ちますよ。
最近、笑顔になったことってどんなことでした?

かきほめ:二歳の子どもが寝るときにふと「ママ、好きよ」って言ってくれたんですよね。

本間先生:そりゃあ、うれしいね。ほらね、いいことを思い出すと笑顔になるでしょう。人間の記憶には時間軸がないと言われているんですが、過去の体験でも記憶を呼び覚ますと、ちゃんと「いま」うれしい気持ちになれるんです。

ガミガミママによくアドバイスするのが、お子さんが生まれたばかりのころの写真を目に付くところに貼っておくということ。できる限り大きく引き伸ばすのがいいですよ。
「こんなに小さかったのに、ずいぶん成長したな……」って、イライラが嘘みたいに吹っ飛びますから。とくに、お子さんのことをしょちゅう叱ってしまうリビングとか、お子さんがよく座る場所に貼っておくのが効果てきめんです。


「ついつい言いすぎてしまった……」そんなときに


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かきほめ:子どもにきつく言いすぎてしまったり、疲れて八つ当たりしてしまったりしたとき「自分はダメな親だ」ってすごく落ち込んでしまうんです。

本間先生:「何回言ったらわかるのよー!!!!……っていう気持ちに、お母さん今なったわよ」というリカバリーショットを打つことですね。

かきほめ:おもしろいですね(笑)

本間先生:怒っている人っていうのは、自分の気持ちに振り回されているんです。子どもに向き合うときは、親が自分の気持ちに振り回されないように気をつける必要があります。「怒っている」「イライラしている」という自分の状態を言葉にすることで、それに気づけますよね。気づいたときにはもう、ほとんどの怒りは消えているはずです。

ほめすぎは良くない?


かきほめ:ほめてあげたいと思う反面、「ほめすぎたら、つけあがるんじゃないか」「ごほうびがないと頑張れない子になるんじゃないか」という不安があります。

本間先生:断言してもいいと思います。この日本で、つけあがるほどほめられている子どもっていないですよ。
日本の子どもの学力は世界から見てもトップクラスなのに、大人は誰も「日本の子は勤勉だ」とか「日本の子どもは賢い」とか言いませんよね。そして、子どもの自己肯定感は先進国の中でも最低レベルと言われています。基本的には、ほめるのが下手な国なんです。

「アドラー心理学」では「認めることが大事」だと言っています。でも「認める」ってどういうことなのかよくわからないでしょ? 僕が思うに、この言葉のニュアンスは日本語でいえば「ほめる」に限りなく近いんです。


「ほめる」と「おだてる」はまったく違う


本間先生:多くの親が「ほめる」と「おだてる」を混同しています。「ほめる」というのは「事実を伝えること」。「おだてる」というのは「事実ではないことを作り上げること」。

かきほめ:なるほど。「ほめる」は子どものやる気を引き出せるかもしれないけれど、「おだてる」は子どもを勘違いさせてしまうかもしれないってことですね。

本間先生:だから、アイメッセージ(私を主語にした表現)で伝えることも大事です。「あなたが頑張ってくれてお母さんはとてもうれしい気持ちになった」というのは、打ち消しようがないでしょう? 一方で「あなたならテストで100点とれるわよ」と言ったらどうですか? 100点じゃなかったらその言葉は嘘になってしまいますよね。

「行動観察」がほめポイント発見のコツ


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かきほめ:先日、子どもが5歳の誕生日を迎えたのですが、「誕生日のお祝いに、あなたのいいところを言ってあげる」といって、お風呂の中で一生懸命ほめてみました。

本間先生:いいですね。お子さん、とっても嬉しかったと思いますよ。

かきほめ:でも、10個を過ぎたあたりから言葉が出てこなくなって……。子どもはものすごく喜んでくれたんです。もっとほめてほしいって、湯船の中から出ようとしなかったくらい。ほめられるってこんなにもうれしいんだなって実感しました。そのぶん、自分のほめ下手加減も痛感しました。

本間:車の運転と同じように、なんでも練習が必要です。ほめることも同じ。練習すれば必ずうまくなれます。ほめ筋はトレーニングすればするほど発達します。

かきほめ:ほめ筋トレーニングで、初心者でもできることってありますか。

本間先生ほめることの基礎は「行動の観察」です。お子さんが朝起きてから寝るまでの行動を観察してみてください。
「ひとりで着替えができた」「自分からはみがきをした」「自分で食器を使って食べられた」それはもう、際限なく見つかります。

「ほめるのが苦手なんです」っていう親御さんはね、ひとつには「観察不足」。そしてもう一つは「記録不足」なんです。子どもの行動や言葉でうれしかったり、感動したりしたことは、いつでも思い出せるよう、どこかに書き留めておくのがいいですよ。

親のチャレンジする姿が子どもへのメッセージ


かきほめ:具体的なアドバイスをたくさんいただきました。家に帰ったらできることをさっそくやってみようと思います。ほめることに対して「苦手だな」「あんまりやったことないから恥ずかしいな」と思っているのであれば、まず練習ですよね。

本間先生:そのとおり。子どもに「チャレンジしなさい」とか「失敗を恐れるな」とか親は言うでしょう。まず自分からその姿勢を見せることが大事だよね。
だいじょうぶ。急に100点のコミュニケーションはできないかもしれないけれど、そういえば今週はあまり小言を言わないで過ごせたなとか、少しずつ良くなっていきます。


それにね、親の頑張る姿は子どもにとってうれしいものなんです。それが、自分のために頑張ってくれているんだってわかったらなおさらうれしいんですよ。頑張ってね。


後半に続きます。

【PROFILE】
本間正人(ほんま・まさと)

京都造形芸術大学 副学長
1959年東京生まれ。
1982年に東京大学文学部社会学科を卒業後、松下政経塾へ第三期生として入塾。松下政経塾では松下幸之助の経営哲学を学び、国際連合国際青年事務局などでの実務研修を経験。
1998年ミネソタ大学にてPh.D. (成人教育学博士号) を取得。米国Coach University課程を修了し、国際コーチ連盟より認定プロフェッショナルコーチ資格を日本人初で取得。

ミネソタ大学在籍中、スカウトによりミネソタ州政府貿易局日本室長に就任。州の知名度向上キャンペーンの功績により知事特別表彰を受ける。
その後研修講師・コンサルタントとして独立。NHKビジネス英語番組講師をはじめ、多方面にわたり活躍。

現在は京都造形芸術大学副学長 (通信教育部担当)として在籍しながら、超参加型の企業研修講師 (エデュテイナー) として年間100日以上の研修や講演をこなしている。




テキスト・岡田寛子/撮影・今井美奈/イメージ写真・上野俊治
撮影協力・コクヨ品川ショールーム

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