ジェームズ・E・ラブロック博士を偲ぶ〜「ガイア理論」〜地球は生きている〜①
先日、イギリスの生物物理学博士であり、医学博士でもある、ジェームズ・E・ラブロック氏がこの世を去った。103歳だった。
彼はとてもユニークな人だった。
そしてどこにも属さないアウトサイダーでもあった。
彼は科学者として常に新しい視野とアイデアを持ち、相手が彼の話に同意すれば、またそのことについて疑問を持ち、さらに問いかけた。
彼は科学者として研究と探求を最期まで怠らなかった。
そこには誰も想像できないようなアイデアを持って。
なぜなら、彼には確信があった。
生きている地球〜ガイア理論〜
「地球はひとつの巨大な自己調節システムであり、すなわち生命体のようなものだ。」
ギリシャ神話に登場する女神をなぞらえて、地球を「ガイア」と称した。
これが彼が提唱する「ガイア理論」である。
1972年にガイア理論を発表した際には、一部の科学者や環境主義者には支持されたが、科学的根拠を証明できない、と反対する学者も多かった。
地球はただの土や岩の塊である。
そこに人類が誕生したのは偶然の賜物だ、と。
ラブロック博士の説は果たしてただの戯言なのだろうか。
ジェームズ・ラブロック博士の功績
彼は自らを科学者ではなく、エンジニアである、と言う。
数々の発明、発見を経てたくさんの賞を獲得したが、彼の行った業績は、何よりも環境問題への意識の変革、科学の発展の礎となったのは間違いない。
この電子捕獲型検出器(ECD)は簡単に言えば、大気中の化学物質を検知する機械である。
我々の住む地球で生命を維持するためには、大気成分が一定で、ある程度安定している必要がある。
火星に地球にいるような生命体がいるのか、まずは地球と火星の大気を調べた。
その過程で、地球の外気に、DDTやPCBやフロンが地球規模で広がっていることを明らかにする。
それらがオゾン層破壊の原因になっていると発見されたのは問題の解決の糸口となったのは言うまでもない。
そして生物学者レーチェル・カーソンの「沈黙の春」(1962年)(大気中に農薬汚染が拡まっている)という提言に客観的データを提供して環境保護運動が強まるきっかけを与えた。
また彼は、生物地球化学(geo-bio-chemistry)という学問分野を確立した立役者でもある。
海で磯の香りがするのは、プランクトンや海苔などに含まれる、硫化ジメチル(DMS)の臭いだが、
その硫化ジメチル、ヨウ化メチルなどイオウやヨウ素が海洋から大気へ放出され、それらが雲の凝結核となる。
空に雲があるのは、海の生物のおかげでもある、というのは誰が想像しただろうか。
今ではこれらは気候変動研究でも大いに注目されている物質である。
生物が地球環境に影響を与えている、という発見はかなり大きいだろう。
「ガイア理論」は我々に何をもたらすのか
気候などを含む地球環境は、生物の営みの循環とセットで作られており、
大気化学、生物学、生態学、環境化学、地質学、海洋学、土壌学とジャンルを分けずに、全てを統括して考える。
それが「ガイア理論」の考え方だ。
このNASAでの研究により、地球(自然環境、生物を含む)は自己調節機能を持っており、気温、大気の容積、海水の塩分濃度など全てのバランスをとっている、ということが分かった。
それはまるで人間の体にもホメオパシー、調整機能があることに非常に似ている。
人間も毒素が体内に入れば白血球が対応したり、熱を出してウィルスを滅菌し、汗をかき、体温を下げる。
しかし、それらは自分の意思でできるものではない。
それらは生命を維持するためになぜか自然に調整する機能である。
よって、「自己調整機能を持った地球は生命体である」と結論付けたのである。
だからといって、生物学者が皆同意したわけではなかった。
彼らの意見としては、
「生物は環境に順応する生き物である。」
という理論からの反発であった。
つまり、
生物は環境に適応するように進化し、弱肉強食の世界で、より強いものが生き残る。
結果、現在地球上では、強い種が存在している
というものだ。
中には「ガイア理論」は悪魔の説だと唱える人までいた。
世の中は強いものが勝つ、そういうものだと認識されていた。
しかしどうだろうか。
ラブロック博士の話を代弁すれば、
地球を含む全ての生命が、相互的に他者を生かすよう補助をしている存在である。
また、存在自体が他者に対して奉仕し合う存在であるとも言える。
どちらが正しくて、
どちらが悪魔的なのだろう。
昨日一昨日と、雨の被害や地震が日本でも起きている。
他人事にはできない。
お互いに補助しなければ、生きていけないのが、本当の人間なのではないだろうか。
奪って強いものだけが生き残る、その考えはもう過去のものにしなければならない。
地球上の全てに相互関係があり、作用し合っているという事実。
「人類は地球に対して理性的に、謙虚に向かい合わなければならない。」
彼はそう言った。
つづく
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