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第5回ベジタリアン・ヴィーガンJAS制定プロジェクトチーム委員会リポート

2021年1月18日、衆議院第一議員会館にて、「農林水産省ベジタリアン又はヴィーガンに適した食品等JAS制定プロジェクトチーム」第5回委員会が行われました。当初の予定では4回の委員会を経てJAS規格原案をまとめるとされていましたが、いくつかの確認事項を詰めるため、5回目の委員会が開催されました。
第1回委員会のリポート(委員会発足の経緯、JASや今回の規格の元となる国際規格ISO-23662の説明、制定に向けた今後の予定など)、第2回委員会第3回委員会第4回委員会のリポートについては、リンクからご覧ください。

プロジェクトチーム委員会出席者一覧

「ベジタリアン・ヴィーガンJAS」のプロジェクトチーム委員会(第5回)出席者は以下になります。(敬称略)

【申し出者】および【事業者】認定NPO法人日本ベジタリアン協会代表・垣本充 ※委員長
【学識経験者】高井明徳(日本ベジタリアン学会会長)※司会、嵐雅子(相模女子大学准教授)
【食品会社等】不二製油㈱、エスビー食品㈱、マルコメ㈱、(一般社団法人)ジャパンズビーガンつぶつぶ
【小売業】イオン(株)、㈱ファミリーマート、㈱セブン-イレブン・ジャパン
【レストラン】㈱ニッコクトラスト、TOKYO-T's㈱、㈱真
【JAS登録認証機関】有限会社リーファース                【自治体】東京都観光部事業調整担当課
【農林水産省関係】農林水産省食料産業局食品製造課基準認証室、(独立行政法人)農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
【オブザーバー】ベジ議連事務局、ミートフリーマンデー・オールジャパン、(一般社団法人)日本農林規格協会
【ベジタリアン・ヴィーガンJAS制定事務局】認定NPO法人日本ベジタリアン協会事務局長 橋本晃一


委員会には、「ベジタリアン/ヴィーガン関連制度推進のための議員連盟」(ベジ議連)から松原仁事務局長(衆議院議員)も出席し、挨拶を述べました。ベジ議連は、松原議員が平成30(2018)年12月4日に衆議院に提出した「インバウンドに対応したベジタリアン・ヴィーガン対策に関する質問主意書」などを踏まえ、訪日外国人ベジタリアン・ヴィーガンのための環境整備を目指して、2019年11月に発足した超党派の議連です。※これまでのベジ議連のリポートはリンクからご覧ください(第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回)。また、議連総会以外にも民間団体等との意見交換会が随時行われています。

加工助剤について

第4回委員会で、JAS規格案1(ベジタリアン又はヴィーガンに適した加工食品)、JAS規格案2(ベジタリアン又はヴィーガン料理を提供する飲食店等の管理方法)いずれでも、1次原料、2次原料の確認が求められ、加工助剤については、1次原料に加えて、砂糖を精製する際の骨炭、甲殻類のキトサンについては忌避するベジタリアン・ヴィーガンが多いため2次原料まで確認する、と決まりました。今回提出された下記の図の通り、2次原料の加工助剤で骨炭(及びキトサン)は確認の対象となります。

ベジJAS加工助剤図

揚げ油の共用について

これまでのベジ・ヴィーガンJAS制定プロジェクトチーム委員会で何度も議論されてきたのが、「動物由来食品との揚げ油の共用(鶏の唐揚げやトンカツ、魚介類の天ぷら等と同じフライヤーでベジタリアン、ヴィーガンの揚げ物を作ってよいかどうか)」です。これについて、第4回委員会では「加工食品、飲食店共、揚げ油の共用は認めない」という方向に固まりつつありましたが、十分に議論を尽くす時間がなかったとして、その後、飲食店を対象とする規格案2に関して複数の委員から下記の内容の意見書が出されました。

・フライヤーの共用禁止は、製造業者と比べて事業規模の小さな飲食店にとって、経営を圧迫する要因となる。飲食店については、ベジタリアン食を提供してこなかった飲食店に新規のベジタリアンメニュー考案を促すためにも、フライヤー共用を認める(その旨はメニューに明記する)としてはどうか。

・今回のJAS制定の目的は、認証制度を整備し、ベジタリアン・ヴィーガン料理を提供する飲食店を増やすことによって、安心して飲食を楽しみたいという、ベジタリアン・ヴィーガンの訪日外国人や消費者のニーズを満たすことにある。ベジタリアン・ヴィーガン料理を提供していない飲食店が大多数である現状を考えると、JAS制定の目的を達するには、これらの飲食店に多数参加してもらうことが不可欠である。揚げ油の共有禁止が最も好ましい方法ではあるが、ベジタリアン・ヴィーガン専門店でない飲食店がこの条件に合致するには新たに調理器具や設備の整備が必要となり、負担が大きい。結果的に、JASを取得せず、独自解釈で運用するなどの混乱が懸念される。今回のJASのひな型となっているISO−23662は加工食品を対象とし飲食店に関しては言及していないので、飲食店対象の規格はJAS独自の基準としても良いのではないか。

観光庁の資料によると、2018年の外国人旅行者3119万人の内、約5.3%の167万人がベジタリアン・ヴィーガンと推計され、その中でキッチンや調理器具の分離がされていないと入店しないと回答したのは全体の2割である。原材料が製造過程含めてコンタミネーションがないことが確認できないと入店しないのは4割だが、その同数が確認できなくても入店すると回答している。このようにベジタリアン・ヴィーガンが気にするポイントには個人差があると思われるため、丁寧な説明を行い、それぞれの消費者が適切に食事を選択できるようにすることが好ましい。

日本ベジタリアン協会のベジタリアン・ヴィーガンレストラン認定制度では、揚げ油の共用をする場合はメニューなどで丁寧に説明することを条件に認証しているが、大きな混乱もなく運用している実績がある。

これらの意見を踏まえ、今回の委員会では、ヴィーガンに適した料理については揚げ油の共用を禁止し、それ以外のベジタリアン(卵可、乳製品可、卵&乳製品可)に適した料理では適さない食材を揚げた油を用いずに調理することを原則とするが用いる場合はその旨をメニュー表及び広告などに明記し情報提供する、という案が提出されました。

これに対し、以下の意見とそれに対する回答がありました。

・「普及の観点も重要だが、対応できないのであればJASを取得しないというのが本筋ではないか」「加工助剤まで禁止しながら油はOKというのはバランスが取れないのでは」→緩くしているのではなく、意見書にあったように揚げ油の共用を気にしないという人にも選択肢があることが重要。また、原則は禁止であり、やむを得ず共用する場合は丁寧な説明をする、としている(垣本委員長)。

・「加工食品では共用禁止となっているのに飲食店は許容するということで整合性が取れるのか」→加工食品のJASと飲食店のJASは別の規格であり、必ず整合性を取らなければならないというものではない(農水省)。※これについては、「別のものと言いつつ、混乱するのではないか」との懸念が示されました。

・「天ぷら店のような専門店で、メインである天ぷらは揚げ油共用でたとえば豆腐や納豆がベジタリアン、ヴィーガンだからOKとなってはいけない」→JAS取得の際の審査で整合性が取れない場合は是正してもらう(垣本委員長)。

今回の規格案のポイントは、「ヴィーガン以外のベジタリアンでも揚げ油共用OKということではなく原則は禁止」「やむを得ず共用する場合は丁寧に情報提供する」の2点だと思います。私自身は個人的には揚げ油を共用したものはできれば食べたくありませんが、これまできちんと情報提供がない店で知らずに食べてしまったことが何度かあります。目立たないところに小さい文字で書かれていると見落としがちなので、「丁寧な情報提供」をJAS取得の際の審査できちんとチェックすることが重要です。

なお、加工食品を対象とする規格案1については、第4回委員会での議論の通り、ヴィーガン及びどのタイプのベジタリアンでも動物性の食材との揚げ油の共用は禁止するということになりました。この規格案では、レトルトや冷凍食品など加工食品として販売される商品はもちろん、コンビニやスーパー等で販売される弁当や惣菜に入れる揚げ物は、動物性食材を調理するフライヤーと別のフライヤーで作る必要があります。フライヤーを別にするのはハードルが高いという事業者の場合、よりコンタミネーションが起きにくい揚げ物以外(パスタ、ハンバーグ、カレーなど)でJASを取得することが可能でしょう。

飲食店のテイクアウト、コンビニやスーパー等の弁当・惣菜の扱い

飲食店がベジタリアン・ヴィーガンJASを取得する場合、店としてJAS認証を受けているので、テイクアウトやデリバリーの飲食物のパッケージにJASマークをつけることはできません。(デリバリーのチラシにマークをつけることはOKで、どのメニューがベジタリアン・ヴィーガンか、なんらかの形で表示はできます)。ちなみに、オーガニックJASでは、レストランがオンラインショップで冷凍食品などを販売するときに、飲食店用とは別に加工食品のJASを取得する例もあるそうです。

また、コンビニやスーパー等の弁当・惣菜にJASマークをつける場合は、加工食品を対象とするJASを申請することになります。ただし、これらの商品を店舗で調理する場合は、飲食店を対象とするJASを取得できますが、個々の商品に飲食店用のJASマークをつけることはできません。(POP等なんらかの形でベジタリアン、ヴィーガンであることのアピールはOK。)

少しややこしいので、実際に運用するとき事業者に丁寧に説明していくことが必要になりそうです。

運用にあたって

今回のベジタリアン・ヴィーガンJASを運用していくにあたって、下記の意見が寄せられました。

・認証団体はどこになるのか?→JASは第三者認証システムであり、登録認証機関が認証を行う。どこが認証機関になるかは、今回のJASについてはまだ決まっていない(農水省)。オーガニックJASについては複数の認証機関があり、どの機関にするか事業者は選ぶことができる(JAS協会)。

・JAS認証を受けた事業者は公式サイトやメニュー、看板などにJASマークをわかりやすく表示するよう義務付けたらどうか。

・事業者の理解を深めるために、Q&Aを整備することが必要。

今後の予定

JAS制定の流れは、①民間発意→②規格化の事前相談→③プロジェクトチームの編成→④プロジェクトチームにおけるJAS原案の検討→⑤法第四条に基づくJAS原案の申出→⑥JAS案の作成→⑦通商弘報・パブコメ→⑧JAS調査会による審議・議決→JASの制定・公示 となります。「ベジタリアン・ヴィーガンJAS」については、認定NPO法人日本ベジタリアン協会が申し出をし(①)、②、③を経て、現在④の段階です。

当初の予定では、2021年11月に⑤のJAS原案申出が行われ、通商弘報・パブコメ、JAS調査会による審議・議決を経て、2022年3月のJASの制定・公示が見込まれていましたが、④の原案検討が延長されたため、スケジュールはずれ込むこととなります。農水省の担当者によると、今年度中にJAS規格原案を作成し、今年4月から通商弘報・パブコメ(30日間)、夏にJAS調査会による審議・議決を行い、遅くとも来年度中にはJAS制定・公示としたい、とのことです。

ベジタリアン・ヴィーガンJASの意義

近年、ベジタリアン・ヴィーガンは世界的な食のトレンドであり、コロナ禍で高まった食の安全志向や気候危機のひとつの解決策として、若い世代を中心に広がりを見せていると言われています。国際的な市場調査会社IMARC Groupによると、2020年のベジタリアン・ヴィーガン食品の世界市場規模は170億USドルに達し、2021年から2026年にかけて11.4%の伸びが見られると予測されています。

その一方で、ベジタリアン・ヴィーガンの知識がない事業者が独自にマークをつけるというケースもあり、信頼できるベジタリアン・ヴィーガン食品をどう選べばよいかという課題が指摘されてきました。こうした混乱を避けるため、様々な民間団体によるベジタリアン・ヴィーガンの認証マークが存在しており、英国ヴィーガン協会の認証など、国際的に使用されているものもあります。ISO−23662が2021年3月に発行されたことで、他の国でも同様の規格が検討されているかもしれませんが、今回のベジタリアン・ヴィーガンJASは国家規格としてのベジタリアン・ヴィーガン認証マークの先陣を切ることになりそうです。遅れている日本のベジタリアン・ヴィーガン環境の整備と共に、日本の農産物や食品を輸出する際にこのJASがひとつのアピールポイントとなる可能性があると期待されます。





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