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第2回ベジタリアン・ヴィーガンJAS制定プロジェクトチーム委員会リポート

2021年7月6日、衆議院第二議員会館にて、「農林水産省ベジタリアン又はヴィーガンに適した食品等JAS制定プロジェクトチーム」第2回委員会が行われました。日本ではベジタリアン、ヴィーガンについての理解が不足し、不適切な材料を使っていてもベジタリアン、ヴィーガンとして提供されるケースが少なくありません。こうした状況を改善するため、ベジタリアン・ヴィーガンJAS制定に向けた議論が始まっています。

※2021年5月に行われた第1回委員会のリポート(委員会発足の経緯、JASや今回の規格の元となる国際規格ISO-23662の説明、制定に向けた今後の予定など)については、リンクからご覧ください。

※なお、ISO-23662については、世界各国の市民団体からなるVegan World Allianceが動物実験に関する基準などを理由に反対しているとの参考資料も配布されました。

プロジェクトチーム委員会出席者一覧

「ベジタリアン・ヴィーガンJAS」のプロジェクトチーム委員会(第2回)出席者は以下になります。(敬称略)

【申し出者】および【事業者】認定NPO法人日本ベジタリアン協会代表・垣本充 ※委員長
【学識経験者】高井明徳(日本ベジタリアン学会会長)※司会、嵐雅子(相模女子大学准教授)、中川雅博(ふみ技術士事務所代表)
【食品会社等】不二製油グループ㈱、エスビー食品㈱、マルコメ㈱、(一般社団法人)ジャパンズビーガンつぶつぶ
【小売業】イオン(株)、トップバリュコレクション(株)、(株)ファミリーマート、㈱セブン-イレブン・ジャパン
【レストラン】㈱ニッコクトラスト、TOKYO-T's㈱、㈱真
【JAS登録認証機関】有限会社リーファース
【自治体】東京都産業労働局観光部事業調整担当課
【農林水産省関係】農林水産省食料産業局食品製造課基準認証室、(独立行政法人)農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
【オブザーバー】ベジ議連事務局、ミートフリーマンデー・オールジャパン、(一般社団法人)日本農林規格協会
【ベジタリアン・ヴィーガンJAS制定事務局】認定NPO法人日本ベジタリアン協会事務局長 橋本晃一

委員会には、「ベジタリアン/ヴィーガン関連制度推進のための議員連盟」(ベジ議連)から松原仁事務局長(衆議院議員)も出席し、挨拶を述べました。ベジ議連は、訪日する外国人のベジタリアン・ヴィーガンのための環境整備を目指し、2019年11月に発足した超党派の議連です。

※これまでのベジ議連のリポートはリンクからご覧ください(第1回第2回第3回第4回第5回第6回)。

規格の「適用範囲」について

第2回委員会では、「ベジタリアン、ヴィーガンに適した食品JAS」と「ベジタリアン、ヴィーガン料理を提供する飲食店等の管理方法JAS」の2つの規格案について、プロジェクトチーム委員やベジ議連に参加している関連団体からの要望・質問を受けた修正規格案が示され、これを元に議論が行われました。

規格案はISOの書式に準じ、①適用範囲、②引用規格(なし)、③用語及び定義、④ベジタリアン(「卵及び乳製品を摂食するベジタリアン」「卵を摂食するベジタリアン」「乳製品を摂食するベジタリアン」)、ヴィーガンそれぞれに適した食品における要求事項 が記されています。以下、委員から上がった意見の中から主なものをまとめました。(→にあるのは、委員長あるいは農林水産省の返答。)

第1回委員会でも質問が上がった、①の「適用範囲」の「ただし、人の健康、地球環境保全、社会経済的配慮(フェアトレード、アニマルウェルフェア等)、宗教的信条に関する食品には適用しない」について

・単に動物性のものを使っていない、動物実験に関与しないということが基準になると、添加物や遺伝子組み換え、ゲノム編集等も許容されることになる。ベジタリアン、ヴィーガンは健康や環境問題、動物保護、宗教などの思想をベースとした食のカテゴリーであるなど、ベジタリアン、ヴィーガンについての説明をなんらかのかたちで盛り込むことは検討できないか。→それらについてはISO規格でも触れておらず、記述の振れ幅が大きくなるということもあり、今回の規格の趣旨とは別のものと捉えている。

・「〜には適用しない」では、これらの食品には認証されないと誤解を与える恐れがあるので、「認証を意味するものではない」と書き方を変えたらどうか。→書き方の変更を検討する。

・ベジタリアン、ヴィーガンにはもっと種類があるのではないか。→ISO規格や国際団体に準じた記述をしている。

「動物由来の食品及び添加物等」とは

第1回委員会で寄せられた「出汁など目に見えないものにも配慮が必要なことを強調するためにも、ベジタリアン・ヴィーガン不可の材料を明示した方がよい」との意見を受け、今回の規格案では参考として「動物由来の食品及び添加物には、ゼラチン、カツオ出汁、牛骨炭を使用した砂糖などが含まれる」との記述が追加されました。

・(委員長から)ゼラチン、カツオ出汁、牛骨炭を使用した砂糖以外にも記載した方が良いものがあれば意見を聞きたい。砂糖についてはISO規格、またより厳しい認証を行う英国ベジタリアン協会でも言及がないが、今回の食品規格には牛骨炭を使用しないてんさい糖(ビート糖)を推奨することも含め、議論したい。

・ベジタリアン・ヴィーガンは、添加物への忌避感情を持つことが多い。「なるべく添加物を使わないことが望ましい」等の記述を入れるか、使える添加物のポジティブリストを上げてはどうか。有機JASで許可されている添加物の中から動物性のものを除くという方法もある。→ポジティブリストの具体的な内容を上げてほしい。

・卵については餌に魚粉が使われることもあるが、飼育基準管理まで基準を定めるのか。→英国ベジタリアン協会認証では飼育基準を細かく決めているが、規格案ではISO規格を基準にしている。委員の意見を聞いていきたい。

・原材料だけならともかく、加工助剤までは追いきれない可能性が高い。どこまで責任を負うべきなのか。→今後も検討、議論していきたい。

この加工助剤の問題については、以下の動物実験に関する基準とも関わります。様々な階層で多くの事業者が関与して作られる製品では、すべての原材料が基準を満たしているかどうか確認することは難しい現実があり責任の範囲をどこまで定めるかは、今後も議論が必要とされる課題です。

動物実験について

規格案の「(各種)ベジタリアン、ヴィーガンに適した食品(または料理)」では「食品関連事業者(飲食関連事業者)は、ヴィーガンに適した食品に関するいかなる動物実験も実施したことがあってはならない」「個々の原材料及び添加物に関し、食品関連事業者(飲食店の場合は食材関連事業者)、その代理として機能する企業、又は食品関連事業者(飲食店の場合は食材関連事業者)が実効支配している企業は、義務的かつ規制上の要求事項がある場合を除き、いかなる動物実験も実施したことがあってはならない」と記されています。なお、「食品関連業者」を「食品製造業者」とした方が明確ではないかという意見に対しては、「食品製造業者」という用語がないので変更しない、ということでした。

・「実施したことがあってはならない」では、かつて動物実験を行ったことがある企業は、すべて排除される。「実施してはならない」と書き方を変えてはどうか。→書き方を変える方向で検討したい。

・有機認証では過去に農薬を使っていた農家も取得できるようにし、有機が広がるようにしている。

・食品の研究開発や食品添加物の認可を受けるときに動物実験が求められることがある。ベジタリアン、ヴィーガンの商品以外を扱う企業で、他の商品で動物実験を行っている場合も不可となるのか。

・顧客が求めていてもできないことが多いという事情は理解できる。ベジタリアン、ヴィーガンを広めるためには、現実的にできることは何か決めることも必要だとは思うが、顧客としては「認証=動物実験したことがない」というイメージを持つだろう。そのイメージが裏切られたとき、認証の信頼性が揺らぐのではないか。「動物実験をしてはならない」という書き方であれば良いと思う。

・「動物」の範囲はどこまでなのか。→文科省の実験動物の指針に記載されている。※「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」文科省 には「実験動物」とは「(中略)哺乳類、鳥類及び爬虫類に属する動物」であると書かれています。

コンタミネーションについて

たとえば、肉を調理した油をベジタリアン、ヴィーガンの商品製造に使うなどにより、製造過程で動物性食材が混入するということが起こります。ISO規格で定められているコンタミネーションの規格に対しては、海外のベジタリアン、ヴィーガン市民団体から「さらに厳しくすべき」との批判があることから、今回の規格案では「適切な予防措置」「徹底的な洗浄」に加え「製造工程中の汚染(クロスコンタミネーション)がないことを科学的に証明する必要がある」との文言が加わりました。これについては、学識経験者として参加する中川雅弘氏より「厳格にすることにより、認証の評価が上がる」「コストとのトレードオフになるので、製造業者の意見をよく聞く必要がある」との説明がありました。

・アレルゲンの管理については行っている事業者が多く、検出キットも普及しているが、動物性原材料についてはそうではなく、何を調べるかも明確になっていない。検証はあまり現実的ではないと考える。

・検出のコストは相当かかると予想される。

・大前提として、この規格はアレルギー対応を意味しないということを明確にする必要がある。たとえば、乳卵にアレルギーがある人がベジタリアン、ヴィーガン認証食品を「アレルギー対応されている」と判断して食べるリスクがある。また、アレルギーと同レベルの対応は難しいと考える。

→今回の意見を持ち帰り、次回までに検討したい。

なお、レストランなど飲食事業者の場合は、「日本式のおもてなしの場であり、メニューでの説明やその場での対応が可能」という理由により、「適さない食材と調理器具などを共用する場合はメニュー表などにそれを明記しなければならない」という規格案になっています。これについては、委員からも「情報提供があれば顧客が各自で判断できる」と概ね了解されました。

飲食事業者はベジ・ヴィーガン料理を何品提供すべきか

今回提示された規格案の「飲食店等の事業者はベジタリアン、ヴィーガンに適した料理を「○品目以上提供できなければならない」という文言は、第1回委員会の規格案では「主食、副食を含め5品目以上」となっていました。これは、野菜サラダなどそれだけではお腹を満たせない料理がベジタリアン、ヴィーガンに対応したものだからという理由で、認証を取得することを防ぐための記述です。しかし、主食・副食の線引きが難しいことや、社員食堂等では「主食、副食を含め5品目」以上の提供は現実的ではないという指摘があり、それらを受けて、品目数についての議論が行われました。

・オーガニックレストランとしてJAS認証を受けるには、80%以上の有機認証食品を使った料理を最低限5品目以上を提供するという基準になっている。有機食品と比較して野菜は入手しやすく、認証レストランなのに1品目しか提供できないというのでは顧客の失望を招きかねない。5品目よりさらに品目を増やし、フルコースメニューで食べられるようにすべきではないか。

・顧客にとっては「安心して食べられるベジタリアン、ヴィーガンの食事ができるかどうか」が最も重要である。サラダ1品では困るが、十分にお腹を満たせるメニューであれば、「1品目以上」でも良いのではないか。→

・基本ノン・ヴィーガンのメニューの中に1品ヴィーガンのメニューがあることで、ノン・ヴィーガンもヴィーガンも一緒に食事を楽しめているラーメン店の事例もある。

・品目数を増やすのは理想的だが、日本の飲食店のベジタリアン、ヴィーガン対応は発展途上であり、品目数を多くすることがハードルになる可能性も考える必要がある。数字を掲げれば運用管理は容易になるが、ベジタリアン、ヴィーガンを日本で広める足かせにもなり兼ねない面もある。

・ヴィーガンの場合は提供する店も少なく「1品目以上」が妥当だと思うが、卵や乳製品も使えるベジタリアンではメニューの範囲も広がるため、もう少し品目を多くできるのではないか。

→「主食1品目以上」という表現の使用も含め、次回までに検討したい。

今後の予定

次回の委員会は9月に予定されており、11月の第4回委員会で規格案をまとめるべく、さらに議論が詰められていくことになります。特に、加工助剤や動物実験に関連する事項については、基準を厳格にするのか、あるいは普及のために間口を広げるのかが判断されることになりそうです。引き続き、注目していきたいと思います。



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