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第3回ベジタリアン・ヴィーガンJAS制定プロジェクトチーム委員会リポート

2021年9月7日、衆議院第二議員会館にて、「農林水産省ベジタリアン又はヴィーガンに適した食品等JAS制定プロジェクトチーム」第3回委員会が行われました。
第1回委員会のリポート(委員会発足の経緯、JASや今回の規格の元となる国際規格ISO-23662の説明、制定に向けた今後の予定など)、第2回委員会のリポートについては、リンクからご覧ください。

プロジェクトチーム委員会出席者一覧

「ベジタリアン・ヴィーガンJAS」のプロジェクトチーム委員会(第3回)出席者は以下になります。(敬称略)

【申し出者】および【事業者】認定NPO法人日本ベジタリアン協会代表・垣本充 ※委員長
【学識経験者】高井明徳(日本ベジタリアン学会会長)※司会、嵐雅子(相模女子大学准教授)、中川雅博(ふみ技術士事務所代表)
【食品会社等】不二製油グループ㈱、エスビー食品㈱、マルコメ㈱、(一般社団法人)ジャパンズビーガンつぶつぶ
【小売業】イオン(株)、(株)ファミリーマート
【レストラン】㈱ニッコクトラスト、TOKYO-T's㈱、㈱真
【JAS登録認証機関】有限会社リーファース
【自治体】東京都産業労働局観光部事業調整担当課
【農林水産省関係】農林水産省食料産業局食品製造課基準認証室、(独立行政法人)農林水産消費安全技術センター(FAMIC)
【オブザーバー】ベジ議連事務局、ミートフリーマンデー・オールジャパン、(一般社団法人)日本農林規格協会
【ベジタリアン・ヴィーガンJAS制定事務局】認定NPO法人日本ベジタリアン協会事務局長 橋本晃一

衆議院の食堂にヴィーガンメニュー登場

委員会には、「ベジタリアン/ヴィーガン関連制度推進のための議員連盟」(ベジ議連)から松原仁事務局長(衆議院議員)も出席し、挨拶を述べました。ベジ議連は、訪日する外国人のベジタリアン・ヴィーガンのための環境整備を目指し、2019年11月に発足した超党派の議連で、今回のJAS制定PT委員会に出席していない議連メンバーの意見を集約する役割も担っています。

※これまでのベジ議連のリポートはリンクからご覧ください(第1回第2回第3回第4回第5回第6回)。

松原議員からは、衆議院第二議員会館の食堂(ニュートーキョー)で9月6日から毎日食べられるヴィーガンメニューの提供が始まったとの告知もありました。メニューは豆腐ステーキ大豆ミートの肉味噌がけ(スープ、ご飯付き 850円)、大豆ミートのガパオライス(スープ付き 980円)。早速、メディアでも報道されていますが、これを機会に国会議員の皆さんにも美味しいヴィーガンメニューをぜひ体験してほしいです。

ニュートーキョー

今回の議論の主なポイント

第3回委員会では、「ベジタリアン、ヴィーガンに適した加工食品JAS」(案1)と「ベジタリアン、ヴィーガン料理を提供する飲食店等の管理方法JAS」(案2)の2つの規格案について、前回、プロジェクトチーム委員やベジ議連に参加している関連団体からの要望・質問を受けた修正規格案が示され、これを元に議論が行われました。なお、(案1)は、単に「食品」とすると明らかにベジタリアン・ヴィーガンである野菜・果物等の生鮮食品も含まれる印象を与えるため、「加工食品」と改めてはどうかという提案が行われました。

規格案はISOの書式に準じ、①適用範囲、②引用規格(なし)、③用語及び定義、④ベジタリアン(「卵及び乳製品を摂食するベジタリアン」「卵を摂食するベジタリアン」「乳製品を摂食するベジタリアン」)、ヴィーガンそれぞれに適した食品における要求事項 が記されています。

今回行われた主な議論は以下になります。ただし、委員会会議は2時間しかなく、今回は議論できなかった論点も含まれます。(→にあるのは、委員長あるいは農林水産省の返答。)

表記で「ベ」「ヴ」を混合させるのではなく、英語の発音に近い「ヴェジタリアン」「ヴィーガン」、あるいは「ベジタリアン」「ビーガン」と表記すべきではないか。→官公庁の文書で特にルールがあるわけではないが、日本ではvegetarian については「ベジタリアン」、veganについては「ヴィーガン」表記が一般的である。また、ヴィの表記をビに統一する動きは国名に限られている。※他の委員からは「正しいかどうかより、より認知されているかどうかが大事では」という意見がありました。

規格案の適用範囲が「ただし、人の健康、地球環境保全、社会経済的配慮(フェアトレード、アニマルウェルフェア等)、宗教的信条に関する食品には適用しない」から「宗教的信条に基づいた要求事項を規定しているものではないが、これらに関係する加工食品を適用範囲外とするものではない」と修正されました。

(案1)「用語・及び定義」の「食品関連事業者」を「製造業者等」とし、「食品の製造又は加工(調整及び選別を含む。)を業とする者、その業務を委託された者」と定義。これにより、動物実験に関する要求事項の対象がより明確になりました。

ベジタリアン・ヴィーガン製品に使用する原料については、案では2次原料まで確認することを意味する。ただし、加工助剤については、何次原料まで遡って確認するか検討。

添加物については、英国ベジタリアン協会やEUでは動物由来でないものはすべて認めているが、今回のJAS規格で制限を設けるかどうか検討。

卵や乳を生産する動物の飼育方法については、投薬、餌、アニマルウェルフェアへの配慮について規定を設けるか検討。

培養肉、遺伝子組み換え農産物や動物性培地については、今回の規格の元となるISO23662では言及されていない。

農産物の生産について動物の糞等からの肥料をどこまで認めるか、検討。

革、羊毛、象牙などの動物由来の製品(機械・器具など)を製造及び加工の段階で使用することへの制限→ダイエタリーヴィーガン(食生活のみヴィーガン)では制限されていない。

動物実験については、「製造業者等」は「したことがあってはならない」から「してはならない」に変更。なお、動物実験については、「義務的かつ規制上の要求事項がある場合」を除くとされており、実験動物は文科省の「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」の定義にならうとされています。

コンタミネーションについて「適切な予防措置」「徹底的な洗浄」に加え「製造工程中の汚染(クロスコンタミネーション)がないことを科学的に証明する」必要があるか→科学的検証は難しく、英国、ドイツ、ニュージーランドでは目視でチェックしている。たとえば、製造工程中の汚染(クロスコンタミネーション)がないことを、認証団体で「適正製造規範」を決め、それに「適合した適切な予防処置を講じなければならない」としてはどうか。適正製造規範の内容、また、コンタミネーション予防が最終製品の製造者だけに求められるのかどうかについても検討。

アレルギー対応について、ベジタリアン・ヴィーガン食=アレルゲンが含まれると誤解される可能性もある→従前通り、認証事業者が食品表示基準や景品表示法に従って適切に情報提供すればよいのではないか。

ベジタリアン・ヴィーガン不可の食品及び添加物等の事例「ゼラチン、カツオ出汁、牛骨炭を使用した砂糖などが含まれる」を「ゼラチン、魚由来出汁、骨炭を使用した砂糖などが含まれる」としてはどうか。※出汁にはカツオ以外の魚も使用されることがあり、また砂糖の精製には牛以外に豚、馬の骨も使われるため。

表示する際、「卵・乳製品摂食ベジタリアン」「卵摂食ベジタリアン」「乳製品摂食ベジタリアン」を「ベジタリアン」とまとめるのはOKか。これについては、委員から、「細かく分けて表示すると一般の消費者にわかりにくくなるのではないか」「卵あるいは乳製品を摂取しないベジタリアンは間違いがないよう原材料表示を自分でチェックすることが多いので、原材料表示できちんと記載してあることが大事」「卵・乳製品が入っていないことがわかるようにシールなどを活用できないか」「表示する側にとっては、細かい表示よりもベジタリアン=卵も乳製品も含むという理解をもってもらった方がやりやすい」「レストランなど提供する側も理解していないことがあるので、わかりやすい表記が良い」などの意見が出ました。

弁当は飲食店等の認証になるのか→「食品製造業者が食品工場等で製造する弁当」「町のお弁当屋さんや、スーパーがバックヤードで製造する弁当や、仕出し弁当(対面販売、中食)」は飲食店等の認証に該当しない。ただし、「レストラン等がレストランのメニューを持ち帰り用のお土産として容器に詰めて販売するもの」については要検討としたい。

飲食事業者が提供すべきベジ・ヴィーガン料理の内容と品目数

前回の議論を受け、今回の(案2)では「主食○品目」と修正されました。「主食」という言葉があることで、「野菜サラダが一品あるからOK」とはできないように歯止めをかけることができます。なお、ここでの「主食」については、栄養学が専門の嵐雅子委員から「エネルギー量が総エネルギーの50〜60%を占めるもので、主菜と主食を併せたカレーライスやちらしずし、やきそば、うどん、ラーメン等も含まれる」との説明がありました。ちなみに、ファーストフード店の場合、ハンバーガーは「主食」になりますが、フライドポテトはあてはまりません。委員からは「白飯があるからOKとならないようにしないといけない」という意見も出ました。また、いわゆる食事メニューがなく、「主食」とされないスイーツ等を主に提供する飲食店等についてはどうするかという問題も指摘されました。

品目数については、委員から「普及という観点から言えば、数を増やすと参入のハードルが高くなる」「ラーメン店で2品目以上はハードルが高い」「努力目標を提示したらどうか」などの意見が出ました。

この議題については、引き続き、検討される予定です。

揚げ油の共用について

今回の(案2)で新しく「コンタミネーションに関する情報提供の表示」として「調理器具などの共用に関する表示」「揚げ油の共用に関する表示」が提案されました。これは、飲食店等でベジタリアン・ヴィーガン料理とそれ以外の料理を完全に分けて調理することが困難で同じフライヤー等の調理器具や揚げ油で動物性食材を調理するケースを想定したもので、いずれも今回のJAS規格に該当する料理に適さない食材と共用する場合は、「メニュー表などにそれを明記しなければならない」と記述されています。

これについては、「調理器具はともかく、肉汁が出ることが避けられない揚げ油については認めてはいけないのではないか」という意見が複数の委員から上がりました。「他の内容は厳格なのに、ここで緩くするのはどうなのか」「長年ベジタリアン、ヴィーガンである人の場合、体に反応が出ることもある」「フライヤーを2台設置するのは難しい場合もあることは理解しているが、揚げ油が共用されているとわかったら、ベジタリアン、ヴィーガンは買わない」という意見も述べられました。

一方、「ベジタリアンやヴィーガンの普及のためには、現在ノンベジの飲食店も認証を活用できることが重要。ベジタリアン・ヴィーガン専用の器具や揚げ油を用意することは困難な事業者も多く、消費者が選べるよう情報をきちんと提示することが大切なのでは」という意見もありました。また、「揚げ油を共用する場合は、情報開示と共に揚げ物以外の選択肢がメニューにあることも必要では」という声も上がりました。

この「コンタミネーションに関する情報提供の表示」は飲食店等に関するものですが、(案1)の「ベジタリアン又はヴィーガンに適した加工食品」を製造する際にも適用されるのか、という質問も寄せられました。「ベジタリアン、ヴィーガンのみを製造している業者はほとんどなく、専用ラインを設けることも難しいのでは」「表記してあれば納得できるのでは」等の意見がありました。

揚げ油については、いわゆる「ゆるベジ」の場合は許容されることもあるかと思われますし、シチュエーションによっても違ってくると考えられます。現状では、共用しているかどうかすらほとんどわからないことを思えば、最低限、情報を提示することで、選択の余地が生まれます。ただし、特に加工食品の場合は、パッケージの限られたスペースの中で表示を増やすというハードルも生まれます。この議題についても、さらなる議論が必要です。

JAS以外のベジタリアン・ヴィーガン認証マークは使えるか

今回のJAS規格制定の動きは、海外で様々な基準のマークがあることで混乱が生じるケースが指摘されており、同様の状況が日本で起きないよう、公的な基準が必要ではないかという議論から始まっています。日本でも、ベジタリアン・ヴィーガンの食品・製品に使われている認証マークが既に存在しますが、新たなJAS規格によって、民間の認証マークが使用できなくなるのかという懸念がベジ議連で議論されていました。

今回の委員会では、「JAS法63条が適用される有機JASとは異なり、JASの認証を取得しない場合であっても、ベジタリアン、ヴィーガン表示の制限はかからない。認証の乱立によって混乱を招かないよう、民間団体は公的JAS認証(の基準)を目標としてほしい」と委員長からコメントがありました。

なお、この件については、2021年5月28日の国会厚生労働委員会で高井崇志衆議院議員が質問し、葉梨康弘農林水産副大臣は「既に普及しているマークや表示を排除するものではないと考えている」と答弁しています。(質疑の様子は高井議員の公式ホームページにアップされています。)

今回のJASでは除外されている酒類についてもベジタリアン・ヴィーガン認証のニーズが存在すること、台湾に多いオリエンタルベジタリアン(ネギやにんにくなどの五葷を避ける)についての表示の必要性などを考えると、民間団体の認証マークにも役割があると言えます。混乱は避けなければなりませんが、信頼できる認証マークの商品が増えていくことで、ベジタリアン・ヴィーガンの選択肢が増え、一般への認知が広まることを期待したいと思います。

今後の予定

次回の第4回委員会は11月に予定されており、原案をまとめて申し出た後、12月〜2022年1月に通商弘報・パブコメ、JAS調査会による審議・議決を経て、2022年3月のJASの制定・公示が見込まれています。日本ではまだベジタリアン・ヴィーガンが一般的でない状況があり、JASについての議論は、今回の委員会もそうであったように、基準を厳格にするのか、あるいは普及のために間口を広げるのかが争点になります。次回、議論がどのようにまとまるのか、注目していきたいと思います。





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