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スタートアップにおいて最も重要なPMFの図り方と達成方法

スタートアップにおいて重要なのは、ただ一つ。プロダクト・マーケット・フィットに到達することだけだ。

「インターネットの覇者」とも呼ばれるNetscapeの創始者、そしてFacebookやeBayのボードメンバーとしても知られるマーク・アンドリーセン氏が発したスタートアップに関する格言です。

自身の起業経験や投資家としてスタートアップを知り尽くしてきたアンドリーセン氏が、スタートアップにとって唯一重要だと語るプロダクト・マーケット・フィット(PMF)。

本記事は、PMFの定義から達成に至るまでのプロセスまでを詳細に説明します。

※この記事はgrowiz.usにて森竜太郎と共著で書いた記事になります。

目次


・はじめに
・前後のフェーズで理解するプロダクトマーケットフィットの定義と重要性
・プロダクトマーケットフィットの検証方法
・プロダクトマーケットフィット達成に向けて
・まとめ

前後のフェーズで理解するPMFの定義と重要性


「プロダクト・マーケット・フィット (PMF)」

リーンスタートアップやグロースハックに興味関心を持つ方であれば、一度は耳にしたことがあるでしょう。

マーク・アンドリーセンをはじめとするスタートアップ界隈の重鎮は、スタートアップが失敗する最大の理由に「PMFに到達出来ないこと」を挙げるほどです。

PMFの定義として頻繁に挙げられるのが、「顧客を満足させる最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態」です。

上記の定義だけでもPMFのおおよその重要性と意義を窺い知ることは出来ますが、プロダクトのグロースに欠かせないコンセプトをおおよその理解だけで片付けることは出来ません。

より正確にPMFを理解するために、まずはPMFの前後に来るフェーズを理解することが大切です。

また、自分がどのフェーズにいるかを知ることで、正しいゴール、メトリクス、チャネル、チーム構造にフォーカスできるようになるメリットも存在します。

 

■ Problem/Solution Fit

PMFの前にやってくるのが、プロブレム・ソリューション・フィットと呼ばれるフェーズです。

このフェーズでスタートアップが達成すべき最大の目的は、「解決に値する課題と、その課題の最適な解決方法を見つけること」。

一部の例外を除き、ほとんどのプロダクトは「課題やニーズの発見」というステップから具体的な構想や開発が始まります。

たとえばUberは、「タクシーをもっと簡単に手配/決済したい」というニーズを発端に具体的なプロダクト構想や開発が始まっています。

しかし、ここで忘れてはいけないのが、「課題やニーズには、複数の解決方法が存在する」という事実です。

「タクシーをもっと簡単に手配したい」という課題を解決したいのであれば、なにもUberを提供しなくても、どこでもタクシーを捕まえられるように台数を増やしたり、事前予約サービスを提供したりと解決方法は複数存在します。

「タクシーの決済を簡単にしたい」というニーズであれば、クレジットカード決済やSuica/Pasmoの導入でも解決は少なくとも「可能」であるわけです。

とはいえもちろんこれらの解決方法には優劣が存在します。

そしてProblem/Solution Fit最大の目的が示すように、このフェーズにおけるスタートアップ最大の使命は「解決に値する課題と、その課題に対する最適な解決方法を見つけること」であり、認識した課題が一般層の間にも存在することを前提に、顧客が必要と感じる解決方法を見つけ出すことが求められるのです。

以下では、Problem/Solution Fitに達成するためのステップを示しています。

プロダクト開発に取りかかる前に、徹底的なヒアリングに基づいて以下のステップを着実に達成していくことが求められます。

 

Step 1: 課題の発見

まずは「自身が課題と認識している事象を、一般の人々も課題と認識しているのか」を検証します。

サンプルの大きさにもよりますが、最低でもヒアリングを行う想定ユーザーの内、12人が「ある課題に対して解決策を必要としている」と回答することが求められます。

 

*Problem/Solutions Fitの目的は「解決に値する課題と、その課題に対して最適な解決方法を見つけること」にあるため、サンプル数に対する割合はあまり重要ではありません。

 

Step 2: 解決策の検証

次に、「あなたが提供しようと試みる解決策は正しいのか」を検証します。

あくまで目安ではありますが、最低でもヒアリングを行う想定ユーザーの内、12人が「あなたが提供しようと試みる解決策を必要としている」と回答することが求められます。

リソースの乏しいスタートアップが「解決出来たらいいな」といった課題や、「あったらいいな」という解決策を基に成功する確率は高くありません。

Step 1とStep 2を通じて、「絶対に解決したい課題」と「絶対に欲しい解決策」を見つけ出しましょう。

 

Step 3: コミットの検証

次に、「解決策を開発するプロセスに協力してくれるか」を確認します。

あくまで目安ではありますが、最低でも5人の想定ユーザー(アーリ・アダプター)が「開発プロセスに協力する」と回答することが求められます。

いつでも協力を要請出来るように、フルネームと連絡先を交換することが必須条件です。

 

Step 4: 購買意思の検証

最後に、「お金を払ってでもサービスを利用してくれるか」を確認します。

本ステップでは、

①どの機能に対して購買意思を示しているか

②どれだけの金額なら購入するか

の2点に重点を置いてヒアリングを行います。

上記の2点を検証することには、①リソースが少ない段階で無駄な機能の開発に時間をかけずに済む、②ビジネスとして成立する(コストに見合った収益が得られる)かどうかが確認出来るという2つのメリットが存在します。

質問をする際には、質問にバイアスがかからないことを強く意識しましょう。

 

■ Product/Market Fit

PSF最大の目的が「解決に値する課題と、その課題に対する最適な解決方法を見つけること」であれば、PMF最大の目的は「最適な解決方法を受け入れてくれる最適な市場を見つけること」にあります。

PMFに到達することで、スタートアップは初めてスケールの準備が整うことを肝に命じましょう。

勘がいい方ならお気づきの通り、PMFの定義として頻繁に挙げられる「最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態」とは、Problem/Solution Fitを通じて最適な解決方法を見つけ出して初めて達成出来る状態であることが分かります。

では、課題に対して最適な解決方法が見つかって尚、なぜ最適な市場を見つける必要があるのでしょうか。以下のシチュエーションを想像してみましょう。


あなたは世界最高の会計ソフト(プロダクト)の開発者です。

このソフトを使えば、会計に関わるあらゆる課題やニーズを解決解消し、会計業務の効率がグンと向上します。

しかし、あなたが開発した会計ソフトは、WindowsやMacに対応していません。

この会計ソフトは、世界で数人の利用者しかいない至極マイナーなOSにのみ対応しているのです。

あなたが資金力の乏しいスタートアップだったと仮定して、どんなに素晴らしいプロダクトを作っても、もちろんこれでは売り上げが立つわけもなく、すぐに資金が尽きてしまいます。

上記はあくまで極端な例ではありますが、どんなに素晴らしいプロダクトを作ったとしても、適切な市場を見つけること無く(つまりPMFに達すること無く)、スタートアップが大きな成長を遂げることは出来ないのです。

 

適切な市場の発見を重要視するマーク・アンドリーセンは、「プロダクトが素晴らしくある必要はない。基本的にプロダクトは機能さえすれば良い。」と語っています。

「顧客を満足させる最適なプロダクトを最適な市場に届けること」が最善のシナリオであることに間違いはありませんが、解決に値する課題に対して適切な解決方法を既に編み出していることを前提とすれば、最適化を行う対象はプロダクトよりも市場の方が優先順位が高いと考えられているのです。

最後に、PMFは「失敗する可能性を最小化するためのビジネス開発手段」であるリーンスタートアップやグロースハックの中で重要視される概念であり、決して「プロダクト至上主義」や「新たな市場の創造」を否定するものではありません。

しかし、潜在的なニーズや課題をあぶり出し、新しい市場を創り出すことはそう簡単ではなく、資金の少ないスタートアップの場合、市場を創造する前にリソースが尽きてしまうことがほとんどでしょう。

結局は最終的な目的をどこに置くのかという話になりますが、もしあなたが成功の確率を高めることに最大の重きを置くのであれば、以下で説明するPMFの計測方法やPMF達成への要件は必ず役に立つはずです。

 

■ Growth

PMFを達成した後にやってくるのがGrowthフェーズです。

Problem/Solution Fit及びProduct/Market Fit最大の目的が検証にある一方で、グロースフェーズの目的はその名の通り発見した市場の中で可能な限り迅速に大きな成長を遂げることにあります。

Product/Market Fit前に着目する本記事では深く言及しませんが、グロースフェーズにおいては、KPIもActivationやRetentionと同等にAcquisition、Referral、Revenueの重要性が増していきます。 


プロダクトマーケットフィットの検証方法

本チャプターでは、PMF到達の正否を検証する手法を3つのレベルに分けて紹介します。


■ Level 1: 先行指標調査

恐らく、この先行指標調査は最も有名なPMFの検証方法でしょう。

具体的な方法として、Product/Market Fit SurveyとNPSの2つの手法が挙げられます。

1-a: Product/Market Fit Survey

このサーベイでは、以下の質問によってPMFの計測を試みます。

「あなたは、このプロダクトが使えなくなったらどう感じますか?」

この質問への回答に対して、40%以上の人が「とても残念に思う」と回答した場合に、PMFを達成したとみなします。


1-b: NPS(Net Promoter Score)

NPSは元来顧客のロイヤルティを測るためのスコアであり、グロースの先行指標として多くの企業に使われてきました。

「あなたはこのプロダクトを友人に薦めますか?」という質問に対して0から10の値で回答を求め、その数値によって顧客のロイヤルティを測るというものです。

これら2つのサーベイは便利な一方で、3つの大きな欠陥も持ち合わせています。

まず、これらのサーベイは、質問方法、調査対象者との関係性、そして調査側のバイアスなどによって、本来よりもポジティブな反応を記録する可能性が存在します。

2つ目に、このサーベイを元に市場がどれだけ大きいかという問いに答えるのは難しいことが挙げられます。

3つ目、そして最も大きな欠陥として、これらのサーベイから得られる回答は、顧客が「これからすると口にするもの」であって、「実際にしているもの」ではないということです。

この点から、これらのサーベイはあくまで先行指標調査であって、以下で述べるLevel 2以上の検証を実践する必要があります。


■ Level 2: 先行指標としてのエンゲージメントデータ

Level 1の先行指標調査は、顧客が「これから行う行動についての発言」を基にPMFを検証するものでした。

これを受けて、次のステップでは、顧客が「実際に何をしているか」というデータを基にPMFを検証する必要があります。

ここで注目したいのが、ユーザーがプロダクトから価値を得ているか否かを示すエンゲージメントデータです。

エンゲージメントデータとは何か。イメージしやすいように3つの実例を出しながら説明しましょう。

例1) 写真をシェアするのがコアな体験のサービスでは、エンゲージメントデータは週、または日に、1ユーザーあたり何枚の写真をシェアしたか
例2) メッセージグサービスでは、1ユーザーあたり1日に何枚のメッセージを送ったか
例3) 明細書の管理を便利にしてくれるSaaS系のサービスでは、1企業あたりに何枚の明細書が処理されたか

この検証方法の注意点として、以下の2点が挙げられます。

・PV数ではなく、イベントやアクションの回数で計測する
・エンゲージメントデータは、必ずそのプロダクトのコアな体験に関わるデータであること

このLevel 2の検証方法にも2つの欠陥があります。

1. このフェーズではまだユーザーボリュームが少ないため、エンゲージメントデータのボリュームも少ない中でPMFを判断することになる

2. 都合よく解釈することができる。言い方を変えるなら、バイアスのかかっていない視点ではなく、自分の欲しいものをサポートするために必要なデータのみを収集できてしまう。

したがって、Level 2の検証もPMFの先行指標であって、Level 3のステップを踏まない限り、次のグロースフェーズへ移るためのトリガーにはならないのです。


■ Level 3: リテンションカーブ

アクティブ率を縦軸に、期間を横軸にとってリテンションカーブを作成しましょう。

もしそのカーブが以下の図のようにどこかの点でフラットになるなら、あなたのプロダクトは「ある特定のマーケットにおいて」PMFを達成したと言えます。

では、その「ある特定のマーケット」とはどこで、それはどのくらいの大きさなのでしょうか?

これら2つの問に答えるために、継続的利用が観察出来るユーザーとそうでないユーザーとでは、それぞれどんな特徴を持っているかを特定する必要があります。

もしその違いが分からなければ、あなたはフィットしたマーケットが何かを分からずじまいでしょう。

リテンションされたユーザーとされていないユーザーの特徴を掴む方法は以下の2つがあります。

1) リテンションカーブをセグメント化する。

頻繁に使われるセグメントとして、以下の3つが挙げられます。

・デモグラデータ(性別、年齢、所在地、会社の大きさなどプロダクトのタイプに応じたデータ)
・時間
・獲得経路


2) 定性調査を行って、両者の違いをあぶり出す。

1)で紹介した3つの観点では計測しきれない違いを、定性調査を通じて発見します。

Level 3の検証方法のデメリットとして、リテンションデータを収集するために時間がかかることが挙げられます。

メッセージングなどのBtoCサービスであれば、そこまで時間はかかりませんが、決済期間の長いBtoBサービスであったり、BtoCでもHotel Tonightのような季節に左右されるサービスは、月ベースでリテンションを計測する必要があるためかなりの時間がかかります。

これらLevel 1からLevel 3のプロセスは、決して一度きりの検証で終わるものではありません。

マーケットは絶えず変化しているため、プロダクトマーケットフィットを維持するためには、マーケットの変化に合わせて絶えずプロダクトのブラッシュアップを繰り返す必要があるのです。

一見多大な労力がかかるプロダクトマーケットフィットの維持ですが、見方を変えればスタートアップにとってこれは幸運なことかもしれません。

大手企業は継続的にPMFを追求するための視点を持ちあわせておらず、徐々にマーケットとのズレが発生しているからです。


プロダクトマーケットフィット達成に向けて

本チャプターでは、PMFを達成するための方法を、多くのスタートアップがつまずくLevel 1のPMF達成の方法にフォーカスして説明します。


1) 先行指標調査を基にしたアプローチ

先行指標調査(検証Level 1)を基にPMFを達成するためのアプローチとして、MVP(Minimum Viable Product:完璧な状態にはなくとも、最小限機能するプロダクト)を製作し、MVPの利用を通じて得たフィードバックを基にプロダクトの改善を行うサイクルを繰り返すことが挙げられます。

イメージがしやすいように、ZapposがMVPを用いてPMFを達成した事例を見ていきましょう。

アメリカで強い支持を受ける靴の通販サイト「Zappos」は、サイズ感などの違いが大きく、オンラインでは難しいとされる靴の販売もオンラインに市場があるはずだという考えの基にスタートしたサービスです。

Zapposは、PMFの検証前に本格的なシステムを構築せず、まずはユーザー・インターフェイスのみのウェブサイトを作成し、注文が来るたびに創業者が靴を店舗に買いに行っては梱包して発送するという作業を行うことでPMF到達の正否を検証しました。

MVP(Minimum Viable Product)を用いてPMFを測る際には、Viable(ユーザーが価値を体感出来る)という点を確実に達成することが求められます。

スモークテストと呼ばれる手法(事前登録ページやサービス紹介ビデオなど)では、Viable(ユーザーが価値を体感出来る)という点が欠如しているため、PMFの先行指標としては非常に頼りないものになってしまうのです。


2) エンゲージメント及びリテンション指標を基にしたアプローチ

Level 2のエンゲージメント指標や、Level 3のリテンションカーブを高めるための単一アプローチは存在しません。

アクティベーション、エンゲージメント、リテンションを総合的に高めることが必須です。これらの項目に関しては、次回以降の記事で詳述していきます。


まとめ

本記事では、以下の流れに沿ってプロダクト・マーケット・フィットを解説しました。

・前後のフェーズで理解するプロダクトマーケットフィットの定義と重要性
・プロダクトマーケットフィットの検証方法
・プロダクトマーケットフィット達成に向けて

「前後のフェーズで理解するプロダクトマーケットフィットの定義と重要性」では、プロダクトマーケットフィットの前段階であるProblem/Solution Fitに重点を置いて、PMFの最も一般的な定義である「最適なプロダクトを最適な市場に提供している状態」を解説しました。

Problem/Solution Fitを理解することで、まずは「絶対に解決したい課題」と「絶対に欲しい解決策」をあぶり出し、その後に「解決策を最も必要としている市場」を見つけ出すPMFまでのフローがより明確になったはずです。

「プロダクトマーケットフィットの検証方法」においては、計測方法を以下の3つのレベルに分けて紹介しました。

・先行指標調査
・先行指標エンゲージメントデータ
・リテンションカーブ

「『あなたは、このプロダクトが使えなくなったらどう感じますか?』という質問に対して40%以上の人が『とても残念に思う』と回答した場合」をPMF到達と見なすことが一般的ではありますが、その他の手法(先行指標エンゲージメントデータ及びリテンションカーブ)を使うことでより正確にPMF達成を見極めることが可能になることが分かりました。

「プロダクトマーケットフィット達成に向けて」では、 Zapposの実例を交えてPMF達成に不可欠なMVPの重要性を説きました。

PMF前に最も注力すべきActivation、Retention、Engagementそれぞれの高め方に関しては、今後の記事でそれぞれ扱っていければと考えています。

さいごに

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