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掌編小説

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Twitter300字SS(https://privatter.net/p/310549)ほか、突発掌編をまとめたマガジンです。
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#オリジナル小説

汀の恋人



 折り紙の国のお姫さまと人魚の少年は恋をしていました。銀色の尾をひらめかせて泳ぐさまに、紙吹雪の中で微笑む姿に胸を高鳴らせ、互いを夢に見ました。
 一緒に暮らせたなら、どんなにか素敵でしょう。涙を流すことのできないお姫さまの代わりに少年が泣き、涙が涸れてからふたりで笑いました。
 陸で生きられない少年はお姫さまに珊瑚や真珠を贈り、お姫さまは切り紙細工やお菓子を乗せた船を波打ち際に浮かべました。

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天使の梯子



「雲の切れ間から射し込む、幾筋もの神々しい御光は、あたかも」

 天使の梯子を教えてくれたのは、兄の本だ。天使は飛べるのに、と首を傾げると、天使が人のために架けてくれるからだよと窘められた。
 では夜はというと、ムンクの「月光」がまさに天地の架け橋に見える。絵画の解釈はさておき、水面に映るひかりを辿れば月に至るだろうと思えた。かように人は天に焦がれ、宙をわたる橋を欲するのだなと頷いていたのだか

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開かずの宝箱



 学校からの帰り道、古ぼけた鍵を見つけた。クローバーの茎をすっと伸ばしたような、ゲームに出てくるみたいな、かっこいいやつ。
 どこの鍵かわからないし落ちていたものだから、捨てなさいよって母さんは嫌な顔をしたけど、夢見がちだった僕は鍵を洗い、紐を通して首から下げた。鍵が合う扉はないかと探検に出かけ、どこかのお城の鍵かも、なんてにやにやした。
 社会人になって家を出て、人並みに恋なぞして、鍵は鞄の

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