天使の梯子

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「雲の切れ間から射し込む、幾筋もの神々しい御光は、あたかも」

 天使の梯子を教えてくれたのは、兄の本だ。天使は飛べるのに、と首を傾げると、天使が人のために架けてくれるからだよと窘められた。
 では夜はというと、ムンクの「月光」がまさに天地の架け橋に見える。絵画の解釈はさておき、水面に映るひかりを辿れば月に至るだろうと思えた。かように人は天に焦がれ、宙をわたる橋を欲するのだなと頷いていたのだから、生意気な子どもだった。
 今日も空を見上げる。人類が宇宙へと橋を築き始めたからだ。虹。アルカンシエルと読ませる軌道エレベータに、仏語に疎い私は天使の姿を見る。兄のための梯子を用意してくれたはずの、天使を。 


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「Twitter300字ss」企画参加作品 第66回/お題「橋」
※引用 高橋健司「空の名前」

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