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【1】着物記者歴30年のライターも驚く「究極のきもの」とは?  ご挨拶篇

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト始まる!
《私たちのシルクロード》
第1回 プロジェクト概要とメンバー紹介

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これ、何だと思います?

絹糸です。これから染め、織られ、着物になる直前の絹糸です。この上なく美しいと思いませんか? 命の輝きを内包したような無垢で、素直で、限りない可能性を秘めている美しさ。

熊本県は山鹿市で、慈しむように育てられたお蚕さんたちが結んだ繭(生繭:なままゆ)から、座繰りという手作業で一本の極細の糸を取り出し、合糸、撚糸、精練という加工を経て作り出された絹糸です。

絹糸が生まれ、生かされていく過程を共有してゆくために、このページを設けました。どうぞよろしくお願いいたします。

安達

初めまして。着物専門の編集&ライターの安達絵里子と申します。
世界で一番売れている着物専門雑誌の編集部に7年間在籍した後、フリーランスになって23年。毎日着物を着続ける生活をして16年。
そんな私が昨年の2020年、尊敬する染織作家のひとりで友人でもある吉田美保子さんとともに養蚕農家の花井雅美さんを訪ねたのをきっかけに、彼女が育てたお蚕さんが、一枚の着物になるまでの過程を追うことになりました。

これまでのキャリアで着物を染めたり、織ったり、コーディネートして女優さんに着ていただいたり、いろいろな場面を取材してきましたが、絹糸をもたらしてくれるお蚕さんから着物まで、全部の過程をひと続きのものとして追ったのは初めてのことでした。
しかも、客観的に見れば「すごく大変な作業」に思えるのに、そこにあるのは「愛」とでもいいましょうか、「命をはぐくむ歓び」「手間の尊さ」「生きる幸せ」「母のまなざし」「慈愛」「後光が差すような美しさ」・・・・・・感動の連続だったのです。

それだけではありません、メンバーに加わっていただいた中島愛さんが繭から糸を引く、その作業の重みとありがたさ、それによって生まれる糸の無垢な美しさに触れたのも初めてでした。
糸が作り出されていく過程は、私だけではなく他のプロジェクトメンバーをも感動させました。
これまで着物ライターとして私は何をしてきたのか。とてつもない大切なものを見落としてきたのではないか。

20201109座繰り写真1

感動を自分達だけで共有しているのは、なんとももったいない。
ぜひ記録として残しておきたい。
お蚕さんから、糸を得て、それを一枚の着物に仕上げるプロセスは、ひとつの「シルクロード」でもあります。
そんな「私たちのシルクロード」を、仲間達とともに、このnoteの場をお借りして、皆さまにお伝えすることにしました。

題して「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクト!

今回はオープニングとして、概要をお伝えします。
次回からは時系列を追って、その場に一緒に居合わせているかのように詳しくお話してゆきます。

年度始まりの4月1日という春爛漫の良き日にスタートさせていただいて、週に2回、毎週月曜日と木曜日、(5月からは毎週月・水・金曜日の週3回)アップしてゆきます。トータルで何回になるか分かりませんが、この「究極の着物」について心おきなくおしゃべりしてゆきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

この前書きの最後に、余計かもしれないけど、付け加えたいことがあります。
ここで紹介する着物は、本当に特別で究極の着物です。しかし、私のこれまでの取材や撮影で出会った着物たちも、私が今着ている家庭着の着物も、どの着物にも物語があり、唯一無二の素晴らしさがある――これをまず指摘しておきたいと思います。着物には「愛」がある、これ本当のことなんです。
それでもなお、このプロジェクトには「格別の愛」がある、それが初めてnoteに登録して伝えたいと思った、この記事の核心です。

目次
1, 「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトとは何か?
2,メンバーのプロフィール
3,見取り図/蚕から着物までのカレンダー


1, 「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトとは何か?

「蚕から糸へ、糸から着物へ」プロジェクトは、1枚の着物が3人のプロによる慈愛に満ちた手仕事を経て生み出されるまでのプロセスを、着物記者歴30年の着物ライター、安達絵里子が最大の敬意と愛情をもって報告する一連の記事です。
その物語は、「お蚕さん」という小さな虫が生まれる前から始まります。

太陽の光、雨の恵み、土壌の豊かな栄養を得て、さらに人間による渾身の世話によって育成された桑の木。その葉っぱをモリモリ食べて育ったお蚕さんは純白の繭を結び、人の手によって糸が引き出されて絹糸が作られます。そして多彩な色に染められ、機にかけて織られて布になり、仕立てられて着物になって私たちの身を包んでくれます。

誰もが知っている当たり前のストーリーでありながら、あまり注目されなかったその全工程に、今、改めて美を見いだし、価値を認めて追ったのが「【蚕】から【糸】へ、【糸】から【着物】へ」プロジェクトです。

その工程は3人の手によってバトン・パスされます。
【蚕】は養蚕の仕事で、担当は花井雅美さん(お蚕ファーム)
【糸】は糸づくりの仕事で、担当は中島 愛さん(あつらえる)
【着物】は染織の仕事で、担当は吉田美保子さん(染織吉田)

2, メンバーのプロフィール

メンバーの面白くも魅力的な人となりは、各項目でじっくりお話しますが、ここでは真面目に。


【養蚕】部門担当 お蚕さんを育て、繭を出荷するところまで
花井雅美 はない・まさみ(養蚕農家)

花井さんプロフィール


福岡県生まれ。会社員時代に見知った養蚕に心を動かされ、2012年熊本県山鹿市に移住して養蚕農家に転身。かつて養蚕が行われた大正時代の古民家と土地の提供を受けて「お蚕ファーム」を設立。先輩農家に学びつつ年間を通じて蚕の餌となる桑を育てる土壌作りから取り組み、春と秋に養蚕を行う。2021年現在、昔ながらの養蚕農家は熊本で2軒という現況にあって、将来を期待される若手養蚕農家として情報も発信する。



【糸づくり】部門担当 座繰りで糸を引き、合糸、撚糸、精練を行う
中島 愛 なかじま・あい(製糸技術者)

中島さんプロフィール

ロンドン芸術大学セントラルセントマーチンズにてテキスタイルデザインなどアート全般を学ぶ。愛媛県西予市野村町シルク博物館で製糸、染織の研修を受けるほか、アパレルジョブテクニックアカデミーにてドレーピング・縫製を学ぶ。染織家、吉田紘三先生に師事。現在は埼玉県の自宅兼工房「あつらえる」にて製糸の機器を取り揃え、座繰りで糸を引き、合糸、撚糸、精練まで一連の製糸ほか、染織、縫製まで手掛けている。


【染織】部門担当 糸染めから製織、仕上げまで
吉田美保子 よしだ・みほこ(染織作家)

吉田さん


美術大学中退後、ヨーロッパを放浪。染織を志して修業し、2003年「染織吉田」を設立。着物や帯を中心に制作する。呉服店「銀座もとじ」「きものサロン和の國」、ギャラリー「イトノサキ」などでの個展、及びグループ展ほか、ホームページで精力的に作品を発表。自身で研究・改良したブラッシングカラーズ(擦り込み絣)の技法を用いた現代アート感覚の作風が特徴で、注文主との綿密な対話を経て制作する完全オーダー「ONLYONLY」も人気。




【記録】部門担当 このブログ記事を執筆
安達絵里子 あだち・えりこ(着物ライター)

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早稲田大学卒業後、(株)婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)に入社。念願叶って『美しいキモノ』編集部に7年間所属。その後独立してフリーの着物専門ライター&エディターとなる。日本文化や歴史、文学を背景とした着物研究と16年の着物暮らしの経験に基づいて、雑誌や新聞記事の執筆、書籍制作、講演などを行う。2018年より「婦人画報」公式サイトで「安達絵里子の着物問わず語り」を毎月連載中。



3, 見取り図/蚕から着物までのカレンダー

プロジェクトの内容については、次回から詳しくお話ししていきますが、詳しすぎるので、初回におおよそのスケジュールと流れを提示します。

【養蚕】2020年9月~10月
熊本県山鹿市で養蚕を営む花井雅美さんが2020年の秋蚕を育てるのは9月1日から。蚕種は晩秋繭の錦秋鐘和[きんしゅうしょうわ]。それ以前から、年間を通じて蚕の餌となる桑の葉を育てるために、桑畑を管理しています。

9月1日、掃き立て(蚕卵から孵化したばかりの毛蚕[けご]を蚕座[さんざ]に移すこと)を行い、給桑しはじめます。温度や湿度、給蚕量などに気を配りながら育蚕。

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お蚕さんたちは4回脱皮した後(5令)、営繭[えいけん](繭を作ること)します。それを収繭[しゅうけん]して10月半ばには製糸会社に出荷します。
自身の裁量で買い取れる分(5㎏)を本プロジェクト用に取り分け、製糸を担当する中島愛さんに冷凍便で生繭(なままゆ)を送ります。

花井さんコメント(10月6日)「秋の育蚕、一片の悔いなく、後悔なく、今の自分にできること、全てやりきりました! この夏の気象による桑葉の影響が、繭質にどう出るか少し心配はありますが、出来る手と知恵は全て出し尽くしました! とても楽しい全力疾走の育蚕でした。(←振り返れば)」

【糸づくり】2020年10月~1月
10月19日、中島愛さん、繭5㎏を受け取る。

中島さんコメント(10月19日)「晩秋繭は育てるのが難しいのに、とっても美しい繭でびっくりしました。他の方の育てられた晩秋繭を引いたことがあるのですが、花井さんの晩秋繭はピカイチにキレイです。大変なご苦労があったことと思います。本当にお疲れさまでした」

《座繰り→綛揚げ》11月3日~12月1日 座繰りは、湯に浸されている繭(10~11粒)から同時に糸を引き、大枠に巻いていく作業。現在は一般的に機械で行うことがほとんどで、人の手で行う座繰りは希少となっています。
座繰りを2日間した後、大枠に巻かれた座繰り糸を綛揚げ[かせあげ](綛枠に巻き取った糸を外し、輪状の糸の束に整えること)をします。この繰り返しで12月1日まで作業を続け、経糸56綛、緯糸48綛を作成。

20201103中島座繰り糸

中島さんコメント(12月1日)「本当に綺麗な糸になりました。このまま合糸も撚糸も精練もせずに、保存したいくらい。透き通るような糸です。この1ヶ月間、心が整うような時間を過ごしました。

《合糸→撚糸》12月2日~28日
合糸は、綛糸を小枠に巻き、8本ずつ手作業で合わせて、小枠に巻き取る作業。その後、撚糸機にかけて1メートルあたり100回撚りをかけながら、コーンに巻き取っていきます。

中島さんコメント(12月21日)「合糸する前の糸は本当に細いのですが、しっかり丁寧に座繰りしてあれば、機械にかけても切れることはないです。でも、座繰りのときの糸と糸の絡まりが弱かったり、節ができていたりすると、すぐ切れます。生きものです。絹糸は。

《精練→糸の引き渡し》12月29日~1月5日
精練は、灰汁に撚糸を浸けて、絹糸についているセリシンを落とす作業。そうして絹ならではのしなやかな感触となり、色も染まりやすくなります。

2021年1月5日、染織担当の吉田美保子さんに手渡し
埼玉の中島さんの工房に、吉田美保子さんが訪れ、製糸した糸を受け取りました。
当初の予定では、安達も上京して参加予定でしたが、コロナ禍による緊急事態宣言により東京入りを断念し、zoomでつないで、花井さん、中島さん、吉田さん、安達と、初めて4人で会話しました。

スクリーンショット 2021-01-05 15.46.19

吉田さんコメント「私、これまで国産の座繰り糸を買って織ったことはあったけど、お蚕さんの命をこんなにも感じるのは初めてのことです。今回は蚕が食べた桑の葉っぱまで分かります。その桑が育った土壌を整えたのが誰かも知っています。心が震えるような感動を覚えました。しっかり織って、着物として昇華できますよう、がんばります」

「緊張する」と語りながら、吉田さんは糸達を抱きかかえるように自宅兼工房に連れ帰りました。


【染織】2021年1月~4月
染織作家の吉田美保子さんが、糸との対話を経て、着物のデザインを行います。それに合わせて糸の量を計算し、糸を染め、糸を整え、織機に掛けて織り上げていきます。

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《デザイン・糸の計算》1月6日~11日
イメージデッサンの後、パソコンを使った図面作成、実物大にプリントアウトしたものをマネキンに着つけて検討。デザインに合わせて色ごとに必要な糸の量を計算します。

《経糸の染め》1月7日~1月25日
糸を染める準備として、ふのりを煮溶かす、染料の統合、綛染め、糊つけ、ブラッシングカラーズ、蒸しなど。

《機仕掛け》1月26日~2月16日
整経(せいけい)、絣(かすり)のずらし、縞割(しまわり)、千切り巻き、綜絖(そうこう)通し、筬(おさ)通し、織りつけなど。

*その後、他の仕事にかかるため、ひとたび休止。

《緯糸の染め、製織へ》4月の予定
緯糸を染め、糊をつけ、本番の機織り。その後、京都に「蒸し、水元、湯のし」に出して反物として完成。仮絵羽仕立てにしてお披露目へ。

【作品発表】
作品の公開予定は6月下旬! 以下3つのプロセスで公開し、その後、希望者に販売いたします。

【1】まずは6月に当noteページや、吉田美保子さんのHP「染織吉田」など、ネット上で公開します。


 ↓

【2】6月25日(金)~27日(日)まで開催予定の「白からはじめる染しごと」展に出品。

★追記★(2021年6月9日)
「白からはじめる染しごと展」は6月の開催を予定していましたが、新型コロナウィルス感染予防の観点から11月に延期になりました。
その代わり、開催予定であった6月26日(土)21時から、「白からはじめる染しごと展」主催で、本プロジェクトの着物に、コーディネート提案を行うインスタのライブ配信を行います。以下をご参照ください。

https://www.instagram.com/shirokara_kai/

https://www.facebook.com/shirokarakai

  ↓

【3】7月10日、熊本県山鹿市のお蚕ファームで、メンバー4人が初集結します。この模様を収録し、後日編集して公開します。詳細が決まりましたら、noteの本連載と本欄にて告知しますので、どうぞよろしくお願いします。

★追記★(2021年6月9日)
7月16日(金)に本連載にて「ご報告篇」として公開し、動画は編集後8月半ば頃をめどに公開する予定です。

その後、購入希望者に納品。

それでは次回から、詳しくお話ししてゆきます。
今回のプロジェクトを記録する意味でも、昔ながらの手仕事に敬意を表する意味でも、できるだけ詳細に、悪く言えばしつこく書きますので、企画意図だけならこの第1回を読んでくださるだけで十分です。

でも、ホントに面白いのは次回以降ですよ!
次回4月5日(月)にお待ちしております。

どうぞよろしくお願い申し上げます。



*作品の問い合わせは、以下の「染織吉田」サイト内「お問い合わせとご相談」からお願いします。


よろしければサポートをお願いします。いただいたサポートは、本プロジェクトを継続させていくために使わせていただきます。