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4年間でリターン200億円以上の案件も!?PEファンドと介護業界について解説

2012年カーライルのソラスト買収、2016年のCVCのHITOWAホールディングス買収など、近年PEファンドが医療・介護系の会社へ投資する事例が増えています。
今回の記事では、米系PEファンドのカーライル・グループが医療事務受託・介護事業を展開する株式会社ソラストを買収した案件を詳しく解説し、介護業界とPEファンドの未来を考察します!


記事構成
1. カーライルによるソラストMBOの経緯
2. カーライルが実施した経営改革とは?
3. カーライルのリターンを計算してみた!
4. 介護業界とPEファンドの未来


1. カーライルによるソラストMBOの経緯

株式会社ソラストは、創業以来展開する医療事務受託事業を主軸としつつ、近年は積極的にM&Aを活用し介護や保育といった将来的な成長が見込まれる分野にも事業領域を拡大している会社です。

2012年に当時減収減益となっていたソラストはカーライルの支援のもとMBOにより非公開化。約4年間にわたる経営改革を経て、2016年に東証1部に再上場を果たしました。

1965年 創業以降、医療関連受託事業で成長。
1999年 介護事業へ参入。
2002年 東証2部上場。
2012年 米系PEファンドカーライル・グループの支援のもとMBOにより非公開化。日本医療事務センターから現社名への商号変更。
2014年 介護サービスの株式会社ココチケアを子会社化。
2015年 賃貸住宅の大東建託株式会社・情報システム開発のインフォコム株式会社と資本業務提携、医薬品卸売と調剤薬局の東邦HD株式会社と資本提携。
2016年 東証1部へ再上場。
2017年 介護サービスのベストケア株式会社・株式会社日本ケアリンクを子会社化。
2018年 介護サービスの株式会社JAWAを買収。

ソラストについての分析は以下の記事で詳しくまとめています。


2. カーライルが実施した経営改革とは?

カーライルはどのような経営改革を行い、ソラストを導いたのでしょうか?

MBO後にカーライルが進めた改革は、
・医療関連受託事業の立て直し
・介護事業の積極的な拡大と収益化

の大きく二つに分けられます。
市場の成長性やソラストのポジションからみて定石となる戦略をしっかり実行したという印象です。

・医療関連受託事業の立て直し
医療関連受託というビジネスは、成熟市場でかつシェアの大部分を業界1位のニチイ学館と業界2位のソラストが占めている状態で、ソラストとしては非常に安定したポジションを取れています。

このような状況下では、現在のポジションを維持しながら、利益率を向上させることが定石になります。
カーライルの支援の下、サービスの拡充・人材とITへの投資を行い、サービスの単価の向上と従業員の生産性の改善を図ることで、定石どおり利益率を高めることに成功し、医療関連受託事業をより盤石のものとしました。

・介護事業の積極的な拡大と収益化
一方、将来的な成長が見込まれる介護事業には、非公開の状況を生かして、時間をかけて投資・収益化を行っています。

まず、規模拡大においては積極的にM&Aを活用し、事業所数の拡大を徹底しています。自前での開設ではなく、株式会社ココチケアなどの中小規模事業者を買収するという戦略を取ることでスピード感ある出店を実現しています。進出するエリアは特に成長著しい東名阪エリアに絞り、ドミナントを意識した計画的な出店戦略をとっています。その結果、事業所数はMBO前の103施設から2倍以上の219施設へと増加しています。

また、既存施設のオペレーション強化にも取り組み、2015年3月期には介護事業の黒字化に成功しています。


3. カーライルのリターンを計算してみた

上場時・上場後の売却と大東建託・東邦HD・インフォコムへの譲渡などにより、カーライルは約240億円のキャピタルゲインがあったと考えられます。

ROIとしては約2.9倍ほどですが、実際にはレバレッジをかけているはずなので、ファンドのリターンこれよりも高いと予想されます。カーライルにとっては、十分なリターンが出て成功したと言える案件と言えるでしょう。

ソラスト自体も、MBO前の時価総額130億円から上場時の360億円へと成長し、現在も順調に業績を伸ばし2018/12現在時価総額1260億円ほどの規模となっています。ソラストにとっても本件MBOは大きなプラスとなっていることが分かります。

【MBO後のカーライルの持分の状況】
2012/2  MBOにより130億円で取得
2015/12  大東建託へ140億円で一部持分売却
    東邦HDへ20億円で一部持分売却
    インフォコムへ10億円で一部持分売却
2016/6  東証1部上場時に130億円で一部持分売却
2017/5  東邦HDと株式市場へで60億円で全部持分売却

合計売却額370億円 - 取得額130億円
=約240億円のキャピタルゲイン
【ソラストの時価総額】
2012/2  MBO時点 130億円
2016/6  東証1部上場時 360億円
2018/12  現在 1260億円

※ 上場時の目論見書・IR情報を参考に計算。一部株価は市場価格から仮置きして計算。1億円の位を四捨五入。金額はあくまで予想なので悪しからず。


4. 介護業界とPEファンドの未来

最後に介護業界とPEファンドの未来についてコメントし記事を締めくくりたいと思います。

・成熟フェーズへ向かう介護業界
2000年に介護保険制度がはじまって以来、日本の高齢化とともに大小問わず様々な規模の事業者が介護事業にに参入し、市場は成長を続けてきました。しかし、近年トレンドが変わりつつあります。

これまで増え続けてきた施設数も市場の需給の均衡点に近づくとともに、売上規模の上限を規定する国の財源(介護給付金)も受給者一人当たりで見ればピークアウトの傾向にあり、市場の成長は鈍化し成熟市場のフェーズに移行しつつあるのは明らかです。

・事業承継M&Aの増加と大規模プレイヤーの参入
このような状況の中で、経営者の引退や経営難による小規模プレイヤーの退出(事業承継M&A)が加速しています。

ビジネスモデルやサービス内容での差別化が難しく、稼働率とコストマネジメントが利益確保の鍵となる介護ビジネスにおいて、資本を投下しエリアドミナント戦略をとれる大規模プレイヤーがパワープレイしやすい状況になってきています。成長市場の時代で活躍した中小規模のプレイヤーを大規模プレイヤーが買収するという構図になっていくでしょう。

実際に、教育・損保・警備などの隣接する他業界から数社大規模プレイヤーが参入しています。

・PEファンドの参入が増えるのではないか
介護業界が成熟市場へ移行し、コストマネジメントと適切なM&A戦略が利益確保・規模拡大において重要となる状況になるにつれて、PEファンドの介在余地は大きくなるだろうと考えます。

プロフェッショナルファーム出身者が多く在籍し、これまで様々な業界の企業再生や成長投資を手がけてきたPEファンドが支援することで、経営・財務両面で大きな改善ができる会社が出てくるはずです。

実際に、今回分析したカーライルによるソラストMBOにおいても、カーライルの支援のもと経営改善におけるボトルネックを特定し定石となる戦略を確実に実行できたことが、ソラストの成功の鍵となっていたはずです。

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