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無料で手に入る情報になど何の価値もない。肥大化する虚栄。嘘をつくことの費用対効果。

ある調べ物をしていたときにふと、以前山岳写真家を名乗っていた人物が経歴詐称を暴かれて炎上していた話に辿り着いた。
一年ほど前に絶賛炎上中だったころ面白がって見ていたので一部は覚えていたが、記憶とは曖昧なもので結局また新鮮な気持ちで騒動を振り返ることができた。

登山写真界ではそれなりに有名な事件で、危険なスポーツである登山の安全のためにと尽力された方々、実際に面識があり信頼形成の片棒を担いでしまったと謝罪までされた山小屋の代表の方などには大変申し訳ないと思いつつ、正直なところこの流れは結構面白かった。

彼は実際には登頂していない海外の山の名前を実績として挙げていたり、またこれからエベレストに登るという若い山岳写真家に対してサミッターのフォトグラファーとしては応援したい等と経験者のようにコメントしたりしていて、まあ賛否両論盛り上がっていたのだがその他の発言で、使用したというカメラの発売年と登山者リストのデータベースを照合され、それらしき日本人の名前がないということでいくつかの嘘が暴かれはじめ、その後は過去のブログなども暴かれていき、ついに化けの皮もはがれとこれまでに様々なところで何度も見たパターンではある。

そんな方でもカメラメーカーやアウトドアブランドと一緒にコラボ製品を出したりセミナーなどを開いたりしていたらしい。
それに参加されて実際に本人を目にされた方の方の意見として、トップクライマー特有の雰囲気が無かったこと、自分の主観でしかないと前置きはしつつ自分のなかでの評価としてはもう十分でした。というものがあった。

そこはとても共感できた。アスリートに限らず、特定の分野に秀でている人が纏うその特有の空気は容易には隠せない。あるレーサーの方と目の前でお会いしたとき、肉眼で見ているのに画面ごしに見ているような特別感を強く感じた。人間では無いのではないかと思った。
そこまでいかずとも、話し方や思考、立ち居振る舞いはそもそもその人の経験からしか出てこない。演技として完全に作り上げるのは難しい。
俳優ですら貧乏人の演技は無理だ。経験がないから。

なのになぜ、それをやってしまうのかと言えば、きっといまの時代は嘘をつくメリットがデメリットを上回っているからなのだろう。

手間やコストをかけずに仕事がもらえ、それがばれたとしても既に味方についた信者は一部が去ったとしても全員が離れるわけではない。
実際、擁護につく人たちがその虚偽を暴こうとする人たちに対し、怖いとか書き方が陰湿とか攻撃を行っているのも見た。

そしてほとぼりが冷めればそんな事があったことなど忘れ去られ、ブログや纏め記事がなくなって騒ぐ人たちが飽きたりすれば新たなお客はそんな事件があったことを知る由もなくなる。

ネット上での活動が主であれば上記のような雰囲気などは巧妙に隠すことができるのでボロを出す確率は大幅に下げることができる。本来自分が受けることの無い名声や賞賛を、労力をかけることなく受けることができる非日常体験。
種を撒かずに食べられる実の味を、既に踏み外してしてしまった一歩を快感に抗ってまで歩みを戻す道徳心などは無いだろう。
そんなものがあれば初めからやれない。

登山/写真界のような狭い世界ですらこういうことが起きる。自分のかじっている世界のことならすぐに見抜け、相手にすらしないような内容でもそれを知らない外の人なら騙されてしまうだろう。
業界の事情通のような態度で動画や記事を配信している多くの人たち。
信頼されている”とされている”その人たちが本当に信頼に足る人物なのかは僕には分からない。暴かれていないだけで、その世界の人から見れば一発で見抜けるような偽物なのかもしれない。もしかしたら、過去に暴かれたけれども時間が経って風化しているだけなのかもしれない。

誰に聞いたかはもう忘れてしまったが、常日頃自分に言い聞かせている言葉がある。

「無料で手に入る情報になど何の価値もない」

広告ベースのメディアでは面白くなければビューが稼げないし、正確性を高めてていくと面白さはなくなっていく。
結局のところ知識や経験は自分で時間と金を払って手に入れるしかないのだ。

脱線したような気がする。


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彼を観ていて数年前に亡くなってしまったある方を思い出した。
同じように虚構と現実の間を行き来するたびに引き際を誤り実際に事故などを起こしてしまうではと思った。やはりそう思った方は多数いたようで、そんなニュアンスの書き込みも見かけた。

それに対して、ある返信コメントは痛快だった。


「大丈夫です、彼は登りませんから」



※ちなみに僕は登山家でもアウトドア業界の関係者でも何でもない。自分の足で登る山など子供の頃の遠足で登った山くらいである。


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