完璧な人
夫と一緒に住み始めてすぐ、私は語学学校に通い始める。
私は海外で働いていたり、海外にはよく行くが、語学学校に通った事がなかったのだ。
それでもなんとかやってこれたため特に必要性を感じていなかったが、夫と関係は深くなってくると、しっかりとした勉強が必要だと思ったのだ。
その頃にはまだしばらくこの国にいる予定であったし、何より数人いた日本人の友人たちが次々と帰国してしまい、もう日本語が通じる相手があまりいなくなってしまったことも、語学をしっかり学ぼうと思ったきっかけだった。
私の中で少しずつ夫と一緒にこの国で暮らしていくことに向いていっていたのだ。
それほど自然に私たちの関係性は良くなっていった。
私はごく普通の日本人で、大きな会社で長く働くことを美徳と思って生きてきたのだが、海外で多国籍な環境で働いたことや夫を知ったことで、私の常識がどんどん変化していった。
夫と暮らすことで、私は今まで知らなかった世界をたくさん知った。
夫は色んな国の料理にも詳しく、レストランに行ってもスマートに注文し、ウエイトレスとそのウエイトレスの母国語で会話を楽しむ。
ワインやビールにも詳しく、夫の知識はITからフード、政治に世界情勢、宗教まで底知らずに何でも知っていた。
そして夫はよく働き、睡眠時間は1日3時間ほどしかなくても、さらに他の語学勉強をしたり、記事を読んだりニュースを見たり、新しい仕事を始めたりと、私よりも100歩先を行っているような人だった。
それでも夫はいつも疲れた顔を一切見せず、ポジティブで毎日笑顔で、私にしょっちゅうプレゼントをくれたり、サプライズで旅行に連れていってくれたりと毎日ただただ幸せだった。
そんなに忙しくても夫は自分で料理をし、家の掃除をし、洗濯をし、私には何もさせなかった。
彼は私よりも年下だったが、人生経験は私より豊富でユーモアもあり、ハンサムで背が高く、体も鍛え上げてられていた。
私はそんな夫を尊敬していたし、憧れていた。
そして、夫に釣り合うような人間にならなければと思っていた。
夫は完璧だった。
そんな完璧な夫なのになぜまだ独身だったのか?
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