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#教養のエチュード賞
掌編「鈴虫の鳴く部屋で」
「ねえねえ、あれ、見てよ」
左隣で車いすを並べてこいでいた加奈が、声をひそめておれの腕に軽く触れた。
おれたちは大通りから細い路地に入ったところにある公園の脇を通りがかっていた。コンビニで今日の晩飯や酒、菓子、そして加奈の愛してやまない成人向け雑誌を買って、ねぐらであるぼろアパートに帰る途中だった。
公園は周囲をイチョウの木でぐるりと覆われていた。イチョウはすでに目が痛くなるくらいどぎつく色
短編小説「ゆなさん」
「ゆなさんって、呼んでよ」
はじめて参加となった、職場での忘年会。くじ引きでたまたま隣席になった彼女に、苗字をさんづけで呼びつつビールを注いだら、そんなふうに即答された。
ぼくは瓶ビールをかたむけながら首をかしげた。ゆな。その名は彼女の本名とまったく異なっていた。苗字、名前となんのつながりも感じられない。ひと文字すら重なっていないのだ。
「ゆなさん、ですか」
「そう。みんなからもそう呼んでもら