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いのちの削ぎ落とし

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短編、掌編小説など。
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#東日本大震災

小説「原罪」

小説「原罪」

※この記事は投げ銭制です。全文読めます。

 ああん、おっきい、おっきい。
 ネットに放られていた動画の行為をノートパソコンに映し出し、千夏は見つめていた。千夏とおなじ四十くらいの女の、わざとらしい嬌声が流れてくる。ソファの上で女は全裸になっていて、ズボンと下着だけを脱いだ若い男に跨られ、喘いでいる。
 おっきい、もっと。また女が喘いだ時、部屋のドアが開かれた。
「音、でかくないか」
 スライドド

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小説「あの夜」

小説「あの夜」

 ドアを開けると、赤い車いすが見えた。
 鉄階段の下で千鶴は車いすから上半身を屈め、手を伸ばしていた。背もたれグリップには使い込んだリュックが下げられている。右側のサイドガードに、以前はなかったクローバーのステッカーが貼られていた。
「おはよう」
 車いすに乗って部屋から出てきた私に、千鶴は笑みを向けた。少し低いトーンの穏やかな声色、肩にかかった髪に朝の光が反射している。
 本当に来たんだな。
 

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