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長編小説『処刑勇者は拷問好き王子を処刑する【人体破壊魔法】特化でサクサク、サクリファイス 第8話「ハンデ、骨折魔法しか使わない」

 ドロテがかっと怒りで目を見開く。蝋燭の明かりしかない薄暗い地下牢でも見てとれる。

「キーレ、黙って聞いていれば。王子様に手を出したお前を許さない。もう一度死なせてやるわ」

「名前で呼んでくれるようになったか? どんどん親しくなるみたいで嬉しいね。昔のよしみで拷問はしないでやるよ。その代わりサクッと処刑(サクリファイス)な」

 俺は左手を開いてみせた。俺の利き腕、実は左。

「ハンデだ。左手しか使わない。使う魔法は【骨折魔法】ただ一つ。武器は、生き返ってからは何一つ持ち合わせてない。魔導書は教科書ってことで勘弁な。俺高校生だし」

「ならば、私も魔法は使わない」

「遠慮しちゃう? 魔法使ってくれてもいいけど」

 そうだ、この誠実さが好きだったんだよ。一番長く旅した仲間だ。まさか裏切るなんて思わない。ドロテだけでも俺の味方のままでいて欲しかった。はっきり言って、さっきの「キーレ」呼びは嬉しかった。でも、俺は優しいから誰か一人を仲間はずれにはしない。仲間は全員、仲良く処刑(サク)ってやる。

 華奢なドロテの蹴りは今も変わらず、全体重を乗せて重さを感じる素晴らしいものだ。俺はかがんで、それを避ける。頭上を風圧が通過する。魔物を一撃で仕留めるほどの蹴りだ。

 コンクリートの壁にだって穴が空く威力を持つ。俺も練習で何度か食らったこともあるが、確実に骨折する。回復魔法の使えない今は攻撃に当たるだけで不利になる。

 だけど、俺は魔王を倒した男。攻撃を見極めることは容易い。まして、元仲間の攻撃など知り尽くしている。仮に、風の魔法でも足にまとわせておけば俺の頬に傷の一つでもつけられたかもしれないが。

「避けられたか。でも。仲間だったころの私ではない!」

「成長してんの?」

 俺は彼女の素敵な腹筋を見て微笑んだ。肉体美は確かに以前にも増して彫像のように美しい。

 血管が浮き出るぐらいの力が込められている拳が突き出された。左手で軽く受け止める。ドロテの鬼のパンチは腕を引くようにして受け止めるのがコツだ。

 触れた瞬間、ドロテの親指にひびが入る音がする。続いて握りしめた拳の、人差し指、中指、薬指、小指と全ての第二関節の折れる音。ポップコーンみたいに弾ける音。これが、俺の『人体破壊魔法』の一つである『骨折魔法』。

「ひぎゃああああああ!」

 ドロテはそうやって叫ぶのか。ふーん。もっと痛めつけよう。

 彼女は前髪をはらりと垂らす。額の汗で髪がくっついている。己の砕けてあらぬ方向に開放された指を凝視して、信じられないとう思いと痛みを歯で噛みしめてくれる。もっと味わってくれよ。

 彼女は利き腕の右手をかばうように引っ込めた。次は左腕を折ろうか。いや、蹴りかな。どっちだろう。どっちにしても折り放題だ。繰り出されたらつかむ。それだけで簡単な処刑が完了する。

 彼女は長い足のリーチを活かしての足払いを放った。無様にこけてやるつもりはないので、軽く飛び越える。と、そこへ俺が着地するのを読んでの素早いアッパーカット。

 おおお、顎を反らして仰け反って避ける。あー楽しい。踊っているみたいだ。

 ドロテの蹴り。足蹴りなのに風圧で轟音が地下牢に響いた。

「煉獄脚(れんごくきゃく)!」

 確かに聞いたことがない技名。魔王を倒した後も修行を怠らなかったらしい。とりあえず左手で受けてみよう。って熱! 魔法を使ってきているな。

 誠実さはどこに行ったのか。早くも勝ちにこだわってきている。遠慮はやめて、俺を仕留めに来た。俺はそんなに許すことができない存在だろうか?
 受け止めた足をつかんだまま魔力を込める。はい、足も太ももから足首、足の指先まで複雑骨折。

 ドロテの歯を食いしばる音が聞こえた。この攻撃を吐息だけで耐えたことは勝算に値する。格闘家は痛みに強いらしい。だが、俺は教師として痛みを教えてやる。

「そうだ。感じるか? 骨の折れる音。一本。二本」

 下半身の骨から行く。足の指、足関節、膝関節、大腿骨、股関節、腸骨。脊柱、肋骨、、胸骨。まだまだ。肩から肘に下がって。肩甲骨、鎖骨、上腕骨、
 肘から手首。指先。第三関節、第二関節。第一関節。

「ぐぎいいいいいああああああああああああああああ」

 骨が折れたことで自然によじれていくドロテの身体。まだ、ぼきぼきと楽しい音が鳴っているな。最期に頭蓋骨。ドロテは地獄でしか聞こえないような悲鳴を上げた。

 俺につかまれたら、終わりなんだよ。またまた、サックサクだな。

「サクサク、処刑(サクリファイス)っと」

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