見出し画像

小人の靴屋、フツー、清原&ナベツネ…君は「2:6:2の法則」の使い方を知っているか

「2:6:2の法則」をご存じだろうか。組織の上位2割はよく働き、中位6割はそこそこ、下位2割は使い物にならない、という有名なアレだ。どこぞの賢いコンサルが考案した「田」の字に無理やり何か当てはめるような類のお堅い机上の理論ではなく、所謂一般論、経験則のようである。

この法則、実際にある程度の規模で部下を持ってみると、非常に使える視点であることが分かる。私は工場系技術屋兼中間管理職が稼業であり、過去に工場の製造部門で現場長以下数十人の職場を担当していたこともあるが、この法則なしには職場を上手くコントロール出来なかっただろう。また、部下一人ひとりのマネジメントに全力で悩む真面目一徹の現場長さん達に対しても、この法則を伝授すると途端に肩の力が抜けて彼らのストレスが軽減され、組織もうまく回るようになったことが過去何度もあったことから、マネジメント手法(?)として一定の有効性はあるように思う。

本稿では、私なりの工場マネジメントにおける「2:6:2の法則」について述べたい。あくまでも工場の現場での経験なので、ホワイトカラー対象の組織管理とは若干ずれているかもしれないが、人間である以上、基本は全く同じだと思っている。人間、そんなに変わりませんよ。

「2:6:2」の法則は余りに一般的なので説明不要と思うが、念のためまずは私なりの各層の見方について。

1.上2割:小人の靴屋な人達

給料は他の8割の人たちと大して変わらないのに、組織の抱える課題を主体的に捉え、責任感が強く、言わなくてもやってくれるという、大変ありがたい、ある意味奇特な人達である。知識・経験・技術・技能も少なくとも平均値以上であり、職場の中核になっている。中間管理職サイドの視点や情報をうまく与えて中間管理職の分身になってくれれば、元々中間管理職よりも遥かに現場のことを熟知しているため、予想以上の成果を上げることも多い。こちらが心清らかに日々を過ごしていれば夜中にせっせといい仕事を進めてくれる、小人の靴屋のような存在である。ただ、彼らも人間なので、周囲からの雑音・やる気のなさのようなものに触れるとモチベーションが一気に下がったり、場合によっては下2割に豹変して周囲の足を引っ張るようなこともあり得る。ある意味一番裏表のある怖い人達かもしれない。

2.中6割:フツーの人達

上2割にも下2割にもなびく浮動票。所謂フツーの人達。強い主体性や意見はなく、組織が協調的な時は協調的になり、荒れている時は荒れている側に付く。一般的に、オピニオンは上2割もしくは下2割から出てくるが、世論自体を左右するのは実はこの層。コロナ騒ぎの中、マスコミに煽られて理解不能な世論が形成されてしまったことも、実質的にこの層が大きく寄与しているものと個人的には観ている。要は主体的に自分の頭で考えたり行動したりすることを余りしないのに、人数だけは多い人達。以前、中国の古典(確か老子)で、「施政者(≒マネジメント層)にとっては、民を無知のままにし、何も欲しがらせないのがよい」といった非常にナイスなことが書かれているのを読んだ記憶がある。一国の政府としてはその方が楽でよいが、一企業でそれはマズい。物事を自分の頭で主体的に考えられない「無知」な人達がひたすら再生産されるだけでは、組織は確実に衰退する。

因みに、会社では「無知」でも、一歩外に出れば「上2割」な生き方をしている人もたくさんいる。だからと言って会社でも上2割になって欲しいという幻想は、持つだけ無駄である。

3.下2割:清原&ナベツネ

上2割、中6割と比べると、この層は実に様々である。本当に腐ったミカンのように周囲に悪影響を与え続けて組織をアオカビだらけにする人達もいれば、単なるポカミスが多いだけの人達もいるし、ただただやる気がないだけの人達もいる。マネジメント側としては、とにかく周囲の足を引っ張ったり、モチベーションを下げたりしなければ別に何でもいいので、後は大人しくしておいてください、とにかく周りの邪魔をしないでください、という存在。20年位前、清原が西武から巨人に移って腐っていた頃、ナベツネが「清原は邪魔さえしなければいい」と言い放ったということでマスコミから批判を浴びたが、今の私にはナベツネの気持ちが痛いほど分かる(因みに私は広島生まれの広島育ちなので、生まれついてのカープファンです。当然アンチナベツネで、彼こそプロ野球界の下2割で組織をアオカビだらけにしている張本人と見ている。彼が主導し、カープ暗黒時代の原因となったFA、逆指名制度の恨みは決して忘れない)。尚、頑固過ぎる性格が災いして下2割にいた者がある日突然変異して、上2割に入ってくることもある。

次に、これら2:6:2とどう付き合い、管理していくべきか考える。

4.私の2:6:2的マネジメント論

上2割に対しては、とにかく彼らのモチベーションを下げないことに尽きる。彼らの優秀さは、一歩間違うと反マネジメント側に立って組織を壊してしまう危うさと表裏一体でもある。と言っても、ただただ迎合するのではない。彼らとは、仕事だけの関係ではなく飲み会でもタバコ部屋でもあらゆる手段を駆使し、どんなときにも「腹を割って話せる」関係になることが何より重要だ。一旦そういう関係になれるとマネジメント側の話や立場も理解してもらえるし、何より仕事以上に人として学ばせてもらえることが多い。私も過去一緒に仕事をさせてもらったそういう方を、Kさん、Sさん、Aさん、Mさん、Tさん、Yさん…と、何人も思い出せる。

中6割に対しては世論形成層と言うことを意識して、中間管理職として基本的に前向きなコミュニケーションに徹することが肝要である。時に意図的にネガティブなコミュニケーションを取って煽ることもテクニックとしてはありだが、あくまでそれをスパイスとして全体を前向きに持っていける場合のみである。間違っても、昨今の日本のマスコミのように無知・無責任に彼らを煽ってはならない。あれは完全に世論誘導の反面教師である

面白いのは下2割である。個人的には、この層が一番興味がある。

腐ったミカンのように周囲に悪影響を与え続けて組織をアオカビだらけにする人達は、実は自分なりの考えがしっかりある主体的な人達であることが多いので、まずは興味本位で上2割と同じく腹を割って話してみる。「お前実は結構いい奴だな」と彼らに思われれば中間管理職の勝利。後は勝手に上位2割に突然変異してくれるよう陰に日向に仕掛けを施して見守るのみである。また、どうしても周りをアオカビだらけにすることが収まらないようなら、ミカン箱から強制隔離である。ミカンの一大産地である瀬戸内出身の私としても、まだ食べられるミカンがカビて食べられなくなるのには耐えられない。いらないものはいらないのである。そう、ナベツネのように(←しつこい)。

単なるポカミスが多いだけの人達は悪意はない(大抵やる気もない)ので、テクニカルな面からポカミス、ヒューマンエラーに対する歯止め(所謂フェイルセーフ、フールプルーフ)を設備・工程・作業に入れまくる。生産技術屋、工場技術屋の腕の見せ所である。彼らが失敗してしまうのは、人間は失敗すると言う前提に立たず、失敗してしまう仕組み、設備、工程、作業を作った過去の生産技術職や中間管理職、そして今の私が悪いというだけの話である。

ただただやる気がない人達は、周りのモチベーションを下げていなければ放置でよい。人間、全員が全員、目を輝かせてモチベーションの塊のように仕事に取り組む意識高い系人材である筈はないし、もしそんな組織があるとしたらそれはただの新興宗教である。組織の健全性を維持するためにも、彼らは必要である。彼らのモチベーションを上げたところで組織には大して影響はないし、下げたところでも大して影響はない。要は邪魔さえしなければよいのです。彼らのモチベーションを気にする位なら、上2割の人達のモチベーションを気にした方が、リソース管理としては余程賢明である。

「2:6:2」と言うが、実際は「1:8:1」だったり「0.5:4:5.5」だったりと、比率は組織と状況に応じて変動する。また、上述したように、組織の成員がそれぞれ上中下各層に固定されるわけでもなく、流動性がある。しかし、3層のうちどこかがゼロになることは決してない。中間管理職の職場マネジメントのルーチンは、上2割が何事も主体的に取り組みやすく、中6割がネガティブな世論を形成せず、下2割が周囲の邪魔をしない環境を作ることと言っていいだろう。そして、組織全体をなるべく上2割に寄せていくことを意識することで、組織パフォーマンスも向上する。尤も3層のうちどこかがゼロになることは決してなく、当然全員が上2割になることもあり得ないので、結局どんな状況でも常に下2割に悩まされるのだが。

5.「2:6:2の法則」の実使用例

中6割は余り面白くないので、上2割・下2割について述べる。

①上2割編

滅茶苦茶細かいことまで常に完璧に仕上げるベテラン頑固設備職人、エンジニアリング部Oさんと私の立ち飲み屋(サシ)での会話を再現する。

Oさん:「最近中途で入社したエンジニアのB君、自分からどんどん仕事を進めるのはいいんだけど、詰めが甘いんだよなあ~。オレから見ると細かい部分が気になるんで都度指摘するんだけど、彼、オレの話は何か右から左だし。アンタからも、もうちょっと人の話を聞くようB君に言ってよ」
中間管理職の私:「(2:6:2の話をした後に)Oさんの言うことは私もエンジニアとしてとてもよく分かるんですが、私が見るにB君は組織の抱える課題を主体的に捉え、責任感が強く、言わなくてもやってくれるという、小人の靴屋のような貴重な人でもあります。確かに仕事に粗は目立ちますが、今のところ大外しはしていないですし、そのための確認も彼なりにしっかりやっているので、私個人としてはOKじゃないけど、マネジメントとしてはぶっちゃけOKです。無難な時に細かい点に介入し過ぎると雑音と捉えてモチベーションを下げたりするし、下手をすると我々の足を引っ張るようなこともしかねないですから、生温かく見守りつつ、変な方向に行き始めたら強制修正で行きましょうよ。Oさんも細かい点が気持ち悪くて苦しいとは思いますが、まあ結果オーライ位の気持ちで。完璧な仕事をするというのは我々の商売の手段の1つであって、粗はあっても工場全体を上手く回すのが我々の商売の目的ですしね」

頑固職人Oさん、いつも通りぐいぐい杯を空けながら「イマイチ納得いかねえ」と言う表情だったが、その後彼なりにB君を生温かく見守ってくれるようになった。普段は口出しを我慢しつつ、B君がピンチの時にはすかさず滅茶苦茶的確な助け舟を出していたのが強く印象に残っている。正にベテランの鏡。こういうおじさんに私はなりたい。

②下2割編

いつも部下一人ひとりに真正面から全力で向き合う真面目一徹、製造部Sライン長と私の現場での会話を再現する。

Sライン長:「部下のMだけど、何度言ってもポカばかりしているし、全然やる気も見せない。何とか分かってもらおうと全力で何年も言い続けているが、変わらない。もうあいつに注意し続けるのもいい加減疲れた。頼むからあいつを配置転換してください
中間管理職の私:「(2:6:2の話をした後に)M君は所謂下2割の人です。ポカはミスをしてしまう手動介入操作や非定常作業が悪い。そういう操作・作業をなくしたり、またミスを防止できるよう改善するのは我々の仕事。また、やる気がないのは別に問題ない。M君は別に周りへの影響力はないし、アオカビ星人でもない。そもそも全員が全員やる気があるなんてキモイっしょ?そのうちやる気になればいいな、まあがんばってね~位に構えておかないとSさんも身が持ちませんよ。あ、配置転換とかそういうのはナシね。どれだけ配置いじっても、上2割だけがいるスーパー組織なんてどうせ絶対に出来ないです。与えられたリソースで結果を出すのがプロだし、Sライン長はそれが出来る上2割の人だと思って期待も信頼もしているから、そこんとこよろしく!

その後Sライン長は全員に対して全力投球のパワーピッチャーから、常に緩急を付けられる技巧派へ華麗なる転身を遂げたのであった。人間、角が取れると言うのはこういうことを言うのだろうか。「上2割」の真面目な人ほど、頼んでもないのに勝手に全力で仕事をして勝手に疲弊してしまうので、上司がこういういい意味での手の抜き方を教えるのも実は結構大事である。

6.まとめ

上から目線で色々書いてきたが、私自身が組織の中で上2割、中6割、下2割のどこに属するかは未だによく分からない。恐らく3層全てであるし、それは他人の決めることである。因みに私がまだ20代の頃にこの「2:6:2の法則」を教えてくれた上司は、「君はホント優秀で、上2割だからね。ホントいつも助かっているし、期待しているよ」と口癖のように言ってくれていたありがたい人(奇特な人とも言う)だったが、私の人事評定が上2割扱いになっているようには見えなかったのはいい思い出である。故・野村克也氏が言ったような、「人の評価と言うのは他人がするものである」ことに私が気付いたのは、もう少し年を取ってからであった。だから、自分が上2割なのか、下2割なのかといったことは自分では気にしなくていい。普段の自分の仕事で周囲の人達の表情を観ていれば、何となく分かるものである。【了】





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?