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「推す批評」と「斬る批評」

世の中にはひとりの人間が一生かかっても読み切れない本や、聞きつくせない音楽がある。ある人が、自分の人生に必要な本や音楽を選択し、その選択の歴史が地層のようにつみかさなる。その人の人となりを見て、自分にとってもその選択が意味のあるものだと思えたとき、その選択の地層を「キュレーション」と呼ぶかもしれないし、「キュレーション」がその人の個性を表すものになっているかもしれない。

「キュレーション」が有用であるためには、「個人の選択の歴史」がある程度一貫していて、その「個人の選択」を、他人が知りたいと思う動機が、個人の個性(キャラクターやパーソナリティ)によって喚起されなければならない。

「自分が選ぶよりも、あの人が選んだ方がいいものに出会える」という状況はこれからどんどん増えていくだろう。「何を」知っているかよりも「誰が何を知っているか」について仮説をもち、フォローする人を決めるという力がこれからの情報力を決める。

そんな時代にウェルク事件で「キュレーション」という言葉が汚されてしまったのが残念でならない。人のキャラクターやパーソナリティを知るのは時間がかかる。その「個人の選択の歴史」が、読む人たちにとって有益なコンテンツになるのはもっと時間がかかる。僕らが友達をつくるスピード以上では「キュレーション・メディア」はつくれない。

僕は音楽に関して言うと、ミュージック・マガジンの創業者の中村とうようさん、萩原健太さん、細野晴臣さん、大滝詠一さん、松本隆さん、鈴木茂さんとか、小西康陽さん、小山田圭吾さん、小沢健二さんが聞いてきた音楽などを追いかけて聞いてきた。ジャズだけは油井正一さんと後藤雅洋さん、柳樂光隆さん(Jazz the New Chapter)かな。

本はノンフィクションならHONZを見てるし、ビジネス書なら大前研一さんが関連しているもの、楠木建さんが書評を書いているもの、あとはコルクの佐渡島のおすすめしているものを読んでるかな。それとテーマで「戦争時の意思決定に関わるもの」とか「宗教と事件」とかで選んでる。

映画に関しては小林信彦さん、川本三郎さん、町山智浩さん、ライムスター宇多丸さん、宇野維正さんの注目している作品を追いかけてる。これだけでもうこれ以上は無理というくらいいろいろなコンテンツを発見してる。余談だけど、川本三郎さんの東京の映画についての文章を読んで、そこに行ってみるのはとても楽しい。東京という街がどれだけ変わっているかを実感できる。

この中には推す批評だけを書かれてる方は少ないけど、それが作り手にとって厳しい言葉だとしても「プロの芸」として成立している。お金を払ってでも聞きたいし読みたい。ただ推すだけでもすごくありがたいし、それはそれぞれの読み手、聞き手があるのであれば、批判する必要はないと思ってる。

自分で見つけられるだけの時間も体力もない僕がごきげんに音楽を聞き、本を読み、映画を見る方法。


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