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【詩】孤独のうた

--ヴォンゴレと液晶世界とぼくのかおきみはきれいに反復横跳び
きみがぼくと二人きりの世界になりたいのを、残酷だと感じてしま
うことはあるし、ぼくがきみと二人きりの世界になりたいのを、き
みが残酷だと感じていることもある。ぼくたちだったぼくときみに
は、残酷さを揃えることが必要だった。
--晴れ上がる十五時半の駅前でフードを被りたい気持ちになった
教科書をもらったら、教科書に名前を書く。上履きをもらったら上
履きに名前を書く。恋をしたら、背中にちいさく名前を書く。名前
を与えるばかりの世界は、接触禁止の美術館で、蛍光灯まで清潔な
世界。
--ビルの二階蛍光灯の明滅の暗闇でだけ息する燕
日の落ちた雑居ビルの、切れかかった蛍光灯は、生き急ぐように、
ツイートするように、チリチリチリッと明滅していた。人間の脳は
きっと、光を縫い合わせることができて、切れ端の闇は、陰毛のよ
うに地面に散らばっている。
--何事も短歌にできるということがわたしを世界と向き合わせる
とんとんとん、という音は雨が屋根を叩く音だと思っていた。子ど
もが走り回るような希望に溢れた音だと思っていた。それが、明か
りに寄せられた虫がぶつかる音だと知ったのは、短い夜がまだ明け
ない頃。それからぼくは、村から追放するために投げられている石
のように聞こえるようになった、耳を恨んだ。
--日暮れ色ダムの底のような街カラスの声がマジで鋭い
桜のように、落ちてくる水だったら、美しく死ねるかもしれない。
雪のように、ゆっくりゆっくり圧し潰されたら、安らかに死ねるか
もしれない。出会い頭に撥ね飛ばされて、飛び散った腕と脚と頭と
胴で条件が揃って転生者が召喚されて、もう誰も死なず、みんなが
幸福に生きられる世界になったらいい。



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