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クリティカルリージョナリズムな建築を目指して

私は今年設計キャリアが40年となり、自身の事務所を開設し30年が過ぎようとしている。その間、私が生まれ育ち活動拠点としてきた沖縄という地で一貫して「クリティカルリージョナリズムな建築」を表現することを目指してきました。
このアプローチは、ケネス・フランプトンが確立した近代建築の普遍性と地域性、そして伝統を融合しようとするもので、ヴァナキュラーや伝統に寄り添いつつも、過度にそれにとらわれないものである。

背景
私が設計キャリアをスタートさせた80年代は、モダニズムからポストモダンへの移行期でした。特にここ沖縄では、日本で唯一の亜熱帯地域であることもあり、地域性や風土的な要素に過度に囚われた偏った建築が多々見受けられました。中央にいる一部の建築家やアカデミックな方々から「沖縄の建築はこうあるべきだ」という主張が多く、建築専門書における紹介や寄稿文でもそれらが強調されていました。

しかし、それは沖縄に住む人々の多種多様な意見・想いとは思えず、私自身も何か違和感のようなものを感じていたのです。
伝統的なことやヴァナキュラーな建築を批判するという事ではなく、建築の表現方法の幅を大きく広げ、沖縄という地域性だけにとらわれず「グローバリゼーションは選択肢ではなく現実なんだ」という想いに駆られ、敢えてこれまでの偏った「建築形式」を否定する意味を込めて建築を創り続けています。

沖縄で建築を創り続けるという事
「アトリエ作家的」なスタンスで建築と対峙し、情熱と熱い想いを持ち続けながら、大規模建築をも手掛ける「組織事務所」を目指して、沖縄という地で建築を創り続けたいと考えています。
常に仕事を断ることの無いよう、スタッフの質や数で信頼感をクライアントに提供できるような事務所の確立を目指すべくこれまでやってきました。

日本の歴史には、二つの対比するものを並立させる事が多くあります。日本文化研究所である松岡正剛は「天皇」と「将軍」、「公家」と「武家」など、日本は常に両方を生かすことを選択してきました。私も同様に、アトリエ系か組織系などの二者択一ではなく、相互補完的な「デュアルスタンダード」的なスタンスで事務所を組織し、建築を創造していきたいと常に考えています。

近年沖縄では公共工事などの予算が国からどんどん削られている状況が続いています。かつては既得権力者や体制への(営業という)活動をしていれば、仕事が入ってくるという構図が少なからずありましたが、今はそうではないと感じています。自らの立ち位置を固め、他人や国に頼らずに自らの力で仕事を掴み取ることが求められているのです。
これからも沖縄という小さな地で安定的に建築を創り続け、更に自らを確信し他府県にも視野を広げ独創的なプロジェクトをも手掛けられることができる創造的環境を作り上げる努力をしていきたいと思っています。

また、建築を通して次の時代の沖縄社会を切り拓く姿勢を持ちつづけ、若い世代に良い環境でバトンタッチできるよう、人材育成も含めたやりがいを通じて人間とは?という問いをスタッフと共に考えていきたいと望んでいます。

創造へのプロセス
20世紀後半、北欧フィンランドで活躍してきた建築家アルヴァ・アールトは、その地域や土地の気候風土や伝統に根差した作品を生み出してきたことで知られています。
彼は「ローカルな建築家」「ヴァナキュラーな建築家」と呼ばれていますが、これは彼の限られた一面に過ぎず、建築史家・小泉隆は、アールトが晩年に語った「ナショナルとインターナショナルの概念の結合が現代世界に必要な調和ある結果を生み出し、それらの概念は互いに分離されることはできない」という言葉を引用し「近代的か伝統的な表現か」という問いには意味がないと指摘しています。

アールトは古典的なモチーフや伝統的な要素を取り入れながら、モダニズムの視線で抽象化させ、洗練された独自の建築表現に昇華させていきました。そのような手法によって「タイムレス・デザイン」と呼ばれる地域性や時代を超えたデザイン、時代を超えても美しいデザインを生み出していくことができました。この地沖縄で我々もこれに倣い創り続けていきたいと考えています。

日本列島は北から南へと弓なりに長くのびており、四季に富んだ地域であることから、風鈴や蚊帳、金魚、和歌や俳句などを用いて、その変化の訪れを曖昧さをそのままに繊細に表現してきました。
しかし亜熱帯地域である沖縄では、自然の変化や多様性などの変化は乏しく、そのような中で、建築という手段を通じて、世代を超えた創造のリレーを現代に生きるひとりの建築家として先人から受け継がれてきた精神、伝統そして育まれてきた自然、文化に敬意を払いつつ、五感に訴え豊かな生活を維持するための装置として機能する建築を手掛けていきたいと強く願っています。

そもそも建築とは、周辺環境やプログラム、クライアントの存在を含め、毎回異なる条件下で創られるものです。その地の個性を発見し、思考し、インプットされたこれらの情報を建築家自身のフィルターを通して見極め、アウトプットしていく。世界で唯一その場所でしかない「建築の形」これを創造していくことは建築家の自己表現でもあります。

人が建築を創り、その建築が人々の五感に訴えかけ、建物が人々を変えていくそのような建築空間を創り出せることが建築家としての使命missionです。
人々の琴線に触れる建築空間を紡ぎだすことを目的として、社会のニーズを理解し、建築に対する想いや感性を汲み取り創造していきたい、日々そう考えています。

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