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【まえがき全文公開】山本昌子『親が悪い、だけじゃない 虐待経験者たちのREAL VOICE』

親からの虐待を経験し、それでも生き延びて大人になった若者たちは、今どう生きているのか。 ドキュメンタリー映画「REALVOICE」に出演した若者たちに、自らも児童養護施設出身である監督・山本昌子がインタビュー。
当事者だからこそ聞けた声をまとめたノンフィクション『親が悪い、だけじゃない 虐待経験者たちのREAL VOICE』が8月に刊行予定です。 刊行に先立ち、まえがきを全文公開します。



まえがき


 二〇二三年、虐待をテーマにしたドキュメンタリー映画「REALVOICE」を公開した。
 カメラに収めたのは、虐待された経験のある若者たちの生の声。
  
「かわいそうって、何も知らないのに決めつけないで。家族の形は人それぞれ」
「助けてなんて言えない。ほんとは、助けてほしい」
「お母さんへ。あなたより絶対幸せな人生を送ります」
「いろんな方に支えられてきたから、今度は私が支える側になりたい」
「逆境を乗り越えてきた私達なら、この先も絶対大丈夫」

 私自身も虐待経験者の一人であり、生後四か月から十九歳まで児童養護施設などで育った。
 施設での生活は幸せだった。かけがえのない出逢いと愛情をもらえた場所だ。
「血のつながりがあるかどうかは問題じゃない。人間にとって大切なのは、誰から生まれたかではなく、誰に出逢い育ててもらえたかだ」
 心からそう思えるほどの環境で私は育った。しかしそれは決して当たり前のことではなかった。私はたまたま、恵まれていた。生まれた地域、施設の環境、施設に預けてくれる親だったことさえも。
 そう知ったのは、当事者として発信や支援活動を始め、たくさんの虐待経験者と交流するようになってからだ。

 虐待で亡くなってしまった子どもたちのことは、よくニュースになる。
 一方で、保護された子どもたちのその後に目を向けられることは少ない。
 もう「解決した」と思われているのかもしれない。大人に近づいていくほどに、理不尽に傷つけられた私たちの思いや人生は理解されなくなる。
「過去のことは忘れなさい」
「前を向いて生きなさい」
「もう大人でしょ」
 私たちの苦しみや悲しみは、「つらかった過去」として片付けられる。
しかし現実には、保護された後こそが本当の闘いのはじまりだと口にする子もいる。
 虐待されている日常では痛みも感じなかった、死んでいた心が、安心・安全な場所に行った後で少しずつ生き返る。痛みがフラッシュバックして戻ってくる。
 社会に出てみて、「普通」に生きることの難しさを知る。
 大人になれば自由になれる、そう信じていた未来の向こうにある孤独を知る。

 そんな闘いの日々のなかで生きている子どもたちに出会った私は、自分が特別に受け取ったたくさんの愛情の意味を考えるようになった。
 独り占めするのではなく、同じ境遇の子たちにも届けたいと思った。
 そのためにはまず、私自身もみんなを知りたいと思った。
 知れば知るほどに、世の中の多くの人にもこの現実を知ってほしいと考えるようになった。
「虐待は大人になって終わりじゃない」
 映画のキャッチコピーは、この言葉にした。

 映画はメインの二人へのロングインタビューと、全国をまわって聞き取った五十八人のショートメッセージで構成される。
 メッセージは一人たった五秒~十秒ほどのものだ。その言葉を紡ぎ出すまでに、四時間半の時間をかけた子もいた。短い言葉だけれどとても大切な思いが込められている。
 公開後には、もっとこの子たちのことを知りたいという声もたくさんいただいた。
 そこで、メッセージを伝えてくれた子どもたちの中から五人に声をかけ、彼らへのインタビューを本にまとめることにした。

 空き家を再生した一軒家「まこHOUSE」で、時には深夜まで、たくさんの話を聞かせてもらった。
 生い立ち、親への思い、生きる支えになったもの。楽しい思い出、傷ついた言葉。
 饒舌に語る子がいれば、口ごもる子もいた。
 声を詰まらせる瞬間も、笑いが止まらない時間もあった。
 映像に残らないからこそ、聞けることがあった。

 みんなの一つひとつの経験を、声を、人生を、大切に受け取って欲しいと願う。
 この本の出版に協力してくれた子たちの勇気と想いを感じながら読んでもらえたら嬉しい。
 そして心からのありがとうをみんなに伝えたい。
 今この本を手にしてくれているあなたにも、ありがとうと伝えたい。
 一言一句が、あなたの心へ届きますように。


書誌情報

『親が悪い、だけじゃない 虐待経験者たちのREAL VOICE』
親からの虐待を経験し、それでも生き延びて大人になった若者たちは、今どう生きているのか。
虐待をテーマとしたドキュメンタリー映画「REAL VOICE」に出演しメッセージを伝えた若者たちに、自らも児童養護施設出身である監督・山本昌子が深掘りインタビューしたリアルな記録。
言葉に表せなかった苦しさ、成長してから自覚した新たな苦しみ、自立とともに襲ってきた孤独。
必死で出していたSOSと、それを受け止め支えようとする大人たちの奮闘の様子も見えてくる。
消えない苦しみも、回復への歩みも、当事者目線で丁寧に聞き取った胸を打つノンフィクション。

作品名:親が悪い、だけじゃない 虐待経験者たちのREAL VOICE
著者名:山本昌子
発 売:2024年8月28日(水) ★電子書籍同日配信
定 価:2,090円(本体1,900円+税)
頁 数:320頁
体 裁:四六判並製 単行本
装 丁:二見亜矢子
カバー・扉イラスト:佐藤香苗
I S B N:978-4-04-114595-1
発 行:KADOKAWA
初 出:書き下ろし

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ドキュメンタリー映画「REALVOICE」

作品情報
タイトル:REALVOICE
完成日:2023年4月1日
尺:87分40秒
企画・監督:山本昌子
制作:ACHAプロジェクト

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