見出し画像

あの夏が海にいる|散文


あの夏が海にいる……

まがりくねった潮風のリアスな昼下がり
次のコーナーはあっち向きだからって
そんな気遣いは要らないと笑う君の背中に
ほんの少しだけ頼もしいと口もとあげた

くすぐったいからシャツで遊ぶな
そう言われるのが嬉しくてはしゃぐ指さき
見えない君の眉が照れていること知って
きみの温もりを頬で確かめていた晴れの日

この海にはイルカが住んでいる……

そんな君のみつめる青はとても広くて
とおい水平線のその向こうまで映りそうで
キラキラと笑う水面よりも楽しそうな瞳に
二匹のイルカが空高く跳ねるのがみえた

すっ……と伸ばした君のひとさし指のさき
夫婦の岩の間を白いヨットが泳いでいた
穏やかな時間のなかにたゆたうそれは
まるでこの瞬間を永遠に変えてしまいそう

悲しみはぜんぶ白い袋に詰め込んでしまえ
そしてゆっくりゆっくりと眠らせてしまえ

いつか、いつの日か……きっと……
あの夏の海に出会えるときが来ると信じて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?