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異語り 139 鳥の来る木

コトガタリ 139 トリノクルキ

50代 女性

うちの庭に一本のリンゴの木がある。
子供が生まれた頃に植えたので、もう二十年ぐらい経ったと思う。

ただまだその実を食べたことはない。
毎年花をつけ実を結ぶのだけれど、どれもゴルフボールくらいまで育つとそれ以上大きくならず赤くもならない。
時々、少し赤みが指すものもあるけれど、気がつけば鳥につつかれてしまっている。
素人なりに本を読み、剪定や肥料にも気を使ってみたものの、良くも悪くもならないのでもうほったらかしにしてしまっている。

でも、庭の真ん中にあるから、自然と目はいくし、気にもなる。

子供達が小さかった頃は飼っていた虫や金魚がなくなると、その木の下に埋めていた。
自然の豊かさに惹かれて住むことにしたおかげで、野鳥もよく遊びに来る。
そして時々庭先で力尽きた小鳥を見つけることもある。

そのままにしておけば、自然にかえるのだろうけど、なんとなく見つけてしまった時にはその亡骸を木の下に埋めた。


子供達も巣立ち、日中も一人のことが増えた。
すると自分が知っていた以上に庭が賑やかなことに気がついた。

朝はスズメの一団がリンゴの枝に止まりピーチクパーチクお喋りしてからどこかへ飛び去っていく。
午前中は小さめシジュウカラやセキレイなどの小鳥たちが代わる代わる枝で遊んでいく。
時折 カラスがスーッと大きな影を落として通過していく。
昼過ぎにはまたツグミやヒヨドリの団体様が羽を休めに来て、枝が鈴なりになる。

エサなどを用意したことなどないのに、とにかくよく鳥が来るのだ。


ある晩、夜中にふと目が覚めた。

せっかく起きたのでついでにトイレへと立つことにした。
リビングを通りかかると、鳥の声が聞こえる。

こんな時間に?

でも、都会の鳥は夜でも飛んでいたのを思い出した。
まだ眠気もあったせいで疑問には感じたが、恐怖などは思いつきもしなかった。

トイレからの帰り道
まだ鳥の声は聞こえている
ヒョイッとカーテンをめくり庭を見てみた。

田舎の夜は思っていたよりも暗かったが、ぼんやりとした月明かりがリンゴの木を照らしていた。

チュクチュクとすぐ近くから聞こえる声を頼りにその姿を探してみる。
が、どこにも見当たらない。

時々枝が揺れている。
とても小さい鳥なのだろうか?

ずっと見ていた枝がはねた。

姿は見えない。

見つけられない。

そのうちにサ―と月が雲に隠れ庭が闇に沈んだ。




でも、

りんごの木だけはまだぼんやりと光をまとっていた。

楽しげに響く小鳥の声

揺れる枝

光る木



なんとなく、そっとカーテンを閉め、布団に戻った。

うちの庭は昼も夜もにぎやからしい。

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