異語り 137 鼻が利く

コトガタリ　137　ハナガキク

30代　男性

今まで幽霊や変なモノは見たことがありません。
自分に霊感があるなんて思っていなかったです。

私は子供の頃から蓄膿症患っておりあまり臭いに敏感ではなかったのです。
なので、普段はあまりニオイを感じない生活をしています。

ですが、時々感じる匂いがあります。

何かが焦げたような、魚が腐ったような臭い。
どちらも感じ取れたところで嬉しくはない匂いですよね。

このことを妻に話すと「それはもしかしたらこの世のモノではないモノの臭いかもしれないから近づかないで避けた方がいいよ」と言われました。

妻はスピリチュアルやオカルトの話題が好きで、その手の話や番組をよくチェックしているようでした。
私自身は特に興味もなかったですね。
見たこともないし、まあ面白いフィクションだなくらいに考えていました。

妻が言うには、霊を感じ取る能力はいろいろな種類がそうです。
姿も音もわかる人もいれば、声だけ、臭いだけ、悪寒だけで感じる人もいるそうです。

私自身は今までそんな経験が全くなかったので正直信じきれずにはいました。
でもまあ、ちょっとよけたりするだけなら大した手間ではないので、一応妻のアドバイスには従って過ごすことにしていました。

ある時、車の運転中に焦げ臭い匂いを感じました。
いつものようなふわっと香る程度のものではなく、すぐ側で何かが焦げているんじゃないかと思うほどの強い匂いでした。

この時はちょっと避けてなどと考える間もなく、車内で何か燃えているのだと思い慌てて車を停めようとハザードをたき減速しました。
私のすぐ後ろにいた車が私を追い越し、すごい勢いで走っていきました。

そして、そのすぐ先の交差点に差し掛かった時。
真横から飛び出してきた車と衝突

かなり激しい事故で、追い越していった車は横っ腹に突っ込まれ道路脇でひっくり返っています。

大変だ、助けなければ

臭いのことも忘れ外へ飛び出しひっくり返った車に駆け寄ると、ドライバーさんは自力で外へはい出してこられました。
車は酷い状態でしたが、大きな怪我はなさそうです。

ただ突っ込んできた車の方は前がぐちゃぐちゃに潰れ、運転席でドライバーがぐったりと突っ伏してしまっています。

エアバッグのおかげか外傷は少し鼻血が出ているくらいに見えますが一向に動きません。

ひっくり返った方のドライバーはすぐに救急車や警察に連絡をしています。
集まってきた野次馬の中から「外に出した方がいいんじゃないか」という声が出てきたので、私も一緒に意識のないドライバーを外に出すことになりました。

窓は割れていたのでそこから手を突っ込みロックを外し、ドアを無理やりこじ開けました。

その瞬間

またあの強烈な焦げ臭さが襲ってきました。

何だ？　爆発するのか？！
焦って周りの人を伺うも、誰も臭いを気にしている風ではありません。

ああ、これはいつもの自分にしかわからないやつか……

気がついたものの今更逃げるわけにもいかず、数人で協力してぐったりしたドライバーを運び出し道路の脇に寝かせました。

数分後　
救急車が到着しドライバーは意識のないまま運ばれて行きました。

警察も到着して事情聴取が始まりました。
私も目撃者として少し話を聞かれましたがすぐに解放されました。
その頃にはもうあの匂いも消えていました。

翌朝、新聞に事故の事が載っていました。
ドライバーの方は残念ながらお亡くなりになったそうです。

そんなことが何度かあり、やっと自覚できました。
どうやら私の鼻は死んだ人や死にそうな場面を嗅ぎつけることができるみたいです。

以来変な匂いがした時は必ず用心するようにしています。
ただ相変わらず臭いしかわかりませんから、何が出るのかわからないんですけどね。