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異語り 157 深夜ラジオ

コトガタリ 157 ミッドナイトラジオ

40代 女性

今の子はラジオなんて聞かないと思っていたけれど、娘も中学生になった頃から時々聴いているみたい。
動画サイトと違って操作も見る必要もないから勉強中のBGMにはちょうどいいらしい

確かに自分もそんなことを考えていたなぁと懐かしくなった。
そして、深夜にこっそりと聞いていたことも思い出した。

布団の中でボリュームを絞り、バレないように聴くラジオはすごく面白かった気がする。

本人的には絶対バレてないって思っていたけれど、
親になってみるとバレバレなのね。
静かな夜なのだから音も漏れてくるし、翌朝の顔色なんかでもすぐ分かる。

まぁ、1度は通る道だと思ってなるべく黙って見守っているのだけど、
最近ちょっと頻度が上がってきたから注意をしてみた。

当然素直に認めるわけもなく、
「ラジオなんか聞いてない」
と文句を返された。
あんまりきつく言っても余計に反抗されるだけだから
そこはほどほどにして、「ちゃんと睡眠時間は確保しなさいよ」
と言って切り上げた。


親が気がついてることを知れば少しはマシになるかしら?
なんて思っていたけれど、あんまり変化はなかった。

夜中の零時を過ぎた頃からほぼ毎晩のようにぼそぼそと話し声が聞こえる。
ちょっと低めの男の人の声
時々、女の人の時もある。

会話ではなさそうだから、やはりラジオか動画なんだと思う。
動画だったら、「ラジオなんて聞いてない」って屁理屈も通るのか?


その日も日付が変わる頃に布団に入った。
少しウトウト始めた頃、隣の部屋から声が聞こえてくることに気づく。

普段であれば気付かないくらいの音量でも、寝ようと思っている時にはすごく気になる。
絶妙に内容が聞き取れないぐらいの喋り声に意識が持っていかれるのだ


一度現場を押さえてびしっと言ってやろう。
そう思って布団から這い出した。


部屋の前でもう一度耳をすませる。
やはりまだ声がする。

ちょっと低めの男の声が何やら楽しげに話している。


静かに深呼吸をする。


勢いよく行くか、こっそり覗くか


寸前まで悩んでソッと覗くことにした。

一瞬声が途切れる。
気づかれたのかな?


薄暗い部屋の中
光源は見当たらない。

壁際のベッドの上で気持ちよさそうに寝息を立てている娘の姿をしばらく観察することにした。
狸寝入りならそのうち様子見に目を開けるはず。



静寂の中の時間はものすごく遅く感じられる


3分ほど頑張ったが目を開ける気配はない。


今日は諦めよう。
そう思って目を離し首を引っ込めた。

「――――――」
「!」

また、声が聞こえる。
まだ扉は閉めていなかったからすぐに中を覗いた。


相変わらず薄暗い部屋


壁際のベッドの上で先程と全く同じ姿勢で眠る娘。


……、その口元がもごもごと動き、男の声が漏れ出てきた。
普段の声とは似ても似つかない全く知らない声が ブツブツ と娘の口からこぼれ出てくる。

慌てて部屋に飛び込んで娘を叩き起こした。

声はすぐに止まり、かわりに超不機嫌な娘にし盛大に文句を言われた。


翌朝、まだ文句をたれる娘をなだめつつ、神社へと連れて行った。
お祓いを頼み、厄除けのお守りを与えた。

文句は言いながらも母のただならぬ様子を見て察してくれたんだろう、
おとなしくお守りを持ち歩いてくれている。

あれ以来深夜の話し声は聞こえない。

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