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本のある日常

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書店員として働く私が、本のことについて書いたエッセイ集です。
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#エッセイ

書店員の私が本を読むようになったきっかけ

当時、私は無職だった。 新卒で入った会社を辞め、会社という組織を信じられなくなっていた私は、どうにか一人で稼げるようになりたかった。 そんなときにあるYouTuberがすすめていた『お金持ちになれる黄金の羽の拾い方』という本を読んだ。 その本は簡単に言うと、会社員は税金が取られすぎているから自分で小さい会社を作った方がいい、という内容だったのだが、読み終わった後に感じたのは「本を読まないことはリスクだ」ということだった。 というのも、会社員をやっていたとき、そんなに都合よく

近所の本屋がつぶれた

私が今のアパートに引っ越してきたのは、1年ほど前のことだった。 新しい土地に来て、まずうれしかったのが「本」という看板を掲げる店が近所にあったことだ。 期待して入ってみると、お世辞にも品揃えはいいとはいえない。 でも家のすぐ近くにあって、夜遅くまで開いているその店は、すぐに私のお気に入りの場所になった。 週に1回は通い本を買った。 落ち着かない夜にその店に行けば、本に囲まれる空間があって安心した。 マンガの品揃えはよかったので、新刊が出ると足早にその店に通った。 私は書

マンガを貪り読みたくなるときもある

「マンガを貪り読みたい」 その衝動に駆られた私は、ヨダレを垂らしながら近所のツタヤに向かった。 歳を重ねるにつれて理性が強くなり、休日でも何か生産的なことをしないと気がすまないようになってしまった。 例えば、堅苦しい本を読んだり、一日中外出をしたり。 常にどこか焦っていて、自分でも何をこんなに焦っているのかわからない。 そんな日々を積み重ねていると、どうしようもなく無為な時間を過ごしたくなるときがやってくる。 私はそんなとき、ひたすらマンガを読むようにしている。 それも堅

疲れていると本が読めない

仕事を終えて、やっと家に帰ってくる。 さあ、ここからは私の時間だ。 なんでも好きなことをしようじゃあないか。 そうだ、読みかけの本もあるし、読書なんてどうだろう。 でも、あれ、なんだか読む気が起きないぞ。 私の仕事終わりの夜はだいたいこんな感じである。 ラジオを聞きながら、読書をするという豊かな時間をすごしたいのに、できない。 仕事終わりの疲れた体では、読書を始めるためのハードルを超えられない。 かといって、他にやりたいこともない。 気づいたらスマホでYouTubeを見て、

本と触れ合う時間のない書店員

私はふだん、書店員として働いているが、正直あまり本と触れ合えていない。 もちろん、仕事中はほとんどずっと本を触っている。 レジ打ちや品出し、返品作業だってそうだ。 ただ、触ってはいても触れ合えてはいないのである。 書店員としての仕事はけっこう忙しい。 大量の本を棚に出したり、メールで出版社とやり取りしたり、お客さんの問い合わせに対処したり。 そんな中だと届いた本の内容もわからず、ただただ棚に並べるような仕事になってしまう。 そんなふうにしていると、棚がどこかよそよそしく、軽

餅は餅屋、本は本屋。ネットでも本屋で本を買う

本屋さんのネットショップで本を買うのにハマっている。 Amazonと違って送料がかかるし、本屋ごとに住所や支払い方法を入力しなければいけない。 それでも私は、本屋さんのネットショップで本を買う。 きっかけは、東京の有名な本屋である「Title」のネットショップを利用したことだ。 そのとき私は、『私の愛おしい場所』という本を探しており、個人出版のためAmazonや大手書店では売ってなかったのだが、Titleのネットショップで取り扱いがあったのだ。 正直、今まで利用したことはな

本という善良ぶった劇薬について

今年の7月に芥川賞を受賞した『ハンチバック』を読んだ。 のっけから性的な描写が登場し、面食らった。 読み終えるころに感じたのは、本という媒体における表現の自由さである。 昨今、「テレビがつまらない」という言葉をよく耳にする。 それは、テレビがマスメディアであり、できるだけ多くの人に見てもらわうことを前提として作られているからだと思う。 それはつまり、表現の幅を狭めることにつながる。 例えば、先に挙げた性的な描写など、今では深夜テレビでもお目にかかれなくなった。 それに比べ

毎日本屋に行ってしまう

毎日本屋に行ってしまう。 書店員なんだから、仕事の日は当然本屋に行く。 だけど、休日も気がついたら本屋に足が向かっている。 これについては自分でも不思議に思い、「どうして私は休日にまで本屋に行くんだろう」と真剣に考えたことがある。 そして、出た結論は「本との出会いを楽しみたいから」だった。 同じ本でも本屋によって、その本への”意味”が異なる。 ある本屋では大事な本が、ある店ではその他大勢の本として扱われる。 そしてそれは本のディスプレイに表れる。 大事に思われている本は平

ZINE『本のある日常』を作りました

私にとって初のZINEである『本のある日常』が完成し、このたび販売を開始しました。 内容は書店員である私が、本について考えたことを書き連ねたエッセイ集となっております。 noteで書いていたエッセイに大幅な加筆修正を行い、さらにあとがきとして「ZINE づくりで大変だったこと」を書きおろしました。 販売を開始してさっそく取り扱ってくれるお店が決まったり、購入してくださる方がいたりと、ワクワクと楽しい日々を過ごしております。 この記事では、そんな『本のある日常』を紹介してい

ブックオフの滞在時間が伸びていく

ここ2年ほどブックオフに通っているのだが、通う中で楽しみ方が変化してきた。 見る棚の範囲がどんどん増えてきているのだ。 最初は文庫本と単行本だけだった。 面白そうなエッセイを探すだけで満足だった。 それが次に雑誌を見るようになった。 わかりづらいかもしれないが、ブックオフには雑誌コーナーもあるのだ。 ここに意外なお宝が眠っていることがあるから侮れない。 お次はマンガコーナーである。 最初は文庫マンガと大判マンガだけだったが、最近はだだっ広い単行本のコーナーもチェックしている

本が好きだと町が楽しくなる

私は社会人になってから本を読むようになった。 本を読むようになってから変わったことはたくさんあるのだが、その中でもうれしかったのが、”町”が楽しくなったことだ。 本が好きになると、当然のように本屋に行く頻度が増える。 そうなってくると、行きつけの店、ちょっと遠いけどそれでも通いたくなる店、入るのにちょっと勇気のいる老舗というように、本を通した町との関わりができてくる。 最近、近くの町に小さな古本屋ができた。 その町は、私が住んでいるところからは何駅か離れており、普段は行く

古典的名著はラスボスみたいなもの

人間失格、坊っちゃん、罪と罰。 有名人がすすめるの本といえば、大概こういった古典的名著である。 「私の人生を変えた本」などという特集で、岩波文庫の本が1冊あるだけで、急にそれっぽく見える。 ただ、普段あまり読書をしない人が、これを真に受けて「よし、この本が面白いんだな。読むぞー!」というのは危険である。 というのも、古典的名著はラスボスみたいなものだからだ。 私は書店員として働いているが、そんな私でも古典的名著は難しく感じる。 言い回しが独特だし、時代背景も違う。 「面白い

どうしようもなくなったときは本を読む

暗い本を買っている。 たとえば、最近買った本は『「死にたい」とつぶやく』だ。 ただ、ふだんからこういう本を読むわけではない。 さすがの私も気が滅入ってしまう。 じゃあいつ読むのかというと、もうどうしようもないほど落ち込んでしまったときである。 私は生まれながらにネガティブなタチで、定期的にすべてを投げ出して実家に帰りたくなる欲求に襲われる。 そんなときに本棚の奥から暗い本を引っぱり出してきて、読む。 暗い気分のときに暗い本を読んで、ずぶずぶと沈んでいくのだ。 そうして全身