「夏という季節」
わたしにとって夏は
甘やかな懐かしさと切なさに満ちている
もう還らないものとの想い出が多すぎて
あのバスも通っていない細い海への道も
失くした白い花のついた麦わら帽子も
ひんやりとした古い民俗館の空気も
見上げた青空と真っ白な入道雲と
ペンキの剥げたベンチで飲んだ
ラムネの中にあるビー玉が
カラコロ軽やかに踊る音
そして
命の限りと鳴き続ける蝉の声と
アノヒトの笑顔と繋いだ手の感触
ああ、なんて遠くなった夏
今は
今年の蝉だけがこうして、ないている
あの日の記憶を呼び覚ますように
ずっと
ないている
【詩集】「満月音匣」つきの より
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