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ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用

今日、真剣に雇用を保証しようなどという企業はほとんど存在しない。そんな約束をする企業は、雇われる側からも、世間知らずか不誠実か、もしくはその両方だと思われてしまう。会社はそんな約束はしない。そのうえ、どれだけの期間あなたに勤めてほしいのか、という点についてはあいまいな言い方しかしない。会社の本音は「優れた」社員だけに残ってほしいのだ。どれほど長くいてほしいのかといえば……「いつまでも」だ。
ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用 p.20)

↑の本の原著「The Alliance: Managing Talent in the Networked Age」の出版が2014年。

豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が終身雇用の限界を述べる5年前です。早い。

昨今では、リモートワークも相まって、組織と個人の関係性はさらに変化しています。

今回は、そんな今だからこそ注目したい一冊。「ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」を紹介します!



本書のテーマ

本書のテーマは、組織と個人が(終身雇用ならぬ)「終身信頼」関係を築くことにあります。

かつての終身雇用関係では、入社から定年まで働き続けることを前提としていました。だからこそ、個人は組織に忠誠を尽くし、組織も個人に長期的な投資をすることができたわけです。

ところが、時代が急速に変化するようになり、組織も柔軟性を重視する必要が出てきました。

競争上の圧力に対応するために、多くの(おそらくほとんどの)企業組織の柔軟性を高めようとした結果、雇用関係を契約書に明記された取引関係に矮小化した。社員もその仕事内容も、短期間で取り換え可能なコモディティとして扱うようになった。コスト削減が必要なら社員を切ればいい。会社に今までにない技能が必要なら、社員研修などせずに新たに雇用すればいい。
(p.23)

日本の場合、解雇規制が強いのでここまで極端ではないかもしれませんが、今後はありうる状況だと思います。

それに対して、本書では「アライアンス」という関係を提案しています。

本書の目的は、雇用を「取引」ではなく「関係」としてとらえるための枠組みを示すことにある。雇用を「アライアンス」だと考えてみよう。自立したプレイヤー同士が互いにメリットを得ようと、期間を明確に定めて結ぶ提携関係である。マネージャーと社員がお互いを信頼して相手に時間と労力を投入し、結果的に優れたビジネスと優れたキャリアを手に入れる。
(p.26)

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この「アライアンス」という関係性を実現するための手法が、本書では事例を交えて紹介されています。

コミットメント期間の設定

アライアンスを実現する上で、組織と個人はコミットメント期間を設定します。

コミットメント期間のコンセプトは、個人が「ミッションを期限内に成し遂げることに専念し、そこに個人の信用をかけている」というものです。

永続的な雇用期間を前提とするのではなく、一定のコミットメント期間の積み重ねによって関係性をつくっていきます。

ふつうの人間関係と同じように、最初は小さな約束をするところから始め、双方が約束を守ることを繰り返すことで関係が深まっていく。あらゆる有意義な関係はそのようにして築かれる。「アライアンス」が小さな約束の積み重ねでできているとすれば、「コミットメント期間」は約束の設計手法といってもいい。
(p.44-45)

本書では、このコミットメント期間の設計を「ローテンション型」「変革型」「基盤型」の3つのタイプに解説しています。詳細はぜひ読んでみてください。


社員ネットワークの活用

本書では、社員ネットワークの活用についても取り上げています。

具体的な手法としては、社外との交流やソーシャルメディアの活用、卒業生との関係構築です。

人脈づくりが今後の自分のキャリアにプラスになると社員は本能的に知っている。そこで会社がすべきことは、人脈づくりが相互に利益を与え合うアライアンスの中で、不可欠な要素であることを明確にすることだ。
(p.144)

組織と個人が「終身関係」であるからこそ、社外との交流に対してポジティブであるともいえるでしょう。(むしろ推奨している)


個人的な感想

コミットメント期間や社員ネットワークの活用を前提とした組織の在り方は非常に興味深かったです。

ただ、日本で組織と個人が対等に「アライアンス」を結べるケースはまだまだ限られるかな?と感じました。

この話をどうしたら日本でも裾野の広い話として展開していけるのか。

今年、サイボウズでは「正社員・非正規雇用」の呼び方を「無期雇用・有期雇用」に変えました。

やったことは呼び名を変えるだけ。確かにそうなんです。(呼び名の変更を)やってみないとわからないんですけど、僕たちって言葉に縛られるんですよね。

正社員/非正規雇用という言葉を社内で使うのを辞めることで、人間の思考にも影響を与えるはずです。それが将来、何かしらの現実を変えることにつながるかもしれない。

この無期雇用・有期雇用という発想は、本書のコミットメント期間に繋がるものだと思います。

いきなり全てを変えることはできなくても、呼び方から変えていくだけでも日本的な「アライアンス」が浸透するきっかけになるかもしれません。

終身雇用の限界をネガティブなものとして捉えるのではなく、新しい働き方の幕開け!と考えていきたいですね。


【監訳: 篠田真貴子さんの記事】


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