身の回りにある紋切型ワードを考えてみた

 読書会2冊目は、わたしが積読にしていた、武田砂鉄さんの『紋切型社会─言葉で固まる現代を解きほぐす』。編集者・ライターの武田砂鉄さんの2015年に出版された初の著書だ。

 テレビなどで目や耳にするお決まりのフレーズを拾い上げ、「本当にそうなのか?」と独自の視点で切り込んでいく。取り上げる言葉はどれも、ひねくれ者のわたしにとっては、「そうそう、ずっと違和感あった」と思うものも多かったし、「言われてみれば確かにちょっとおかしい」と思うものばかりだった。

 だが、著者も「どこまでも散らかりながら読み手を置いてけぼりにする考察」と書いている通り、論理的なようでそうでもないし、エッセイのようでそうでもない文体は読みにくかったし、どんどん引用される喩えは、その当時を知らないとついていけない感があった。

 こちらの理解力が足りないのを棚に上げて申し訳ないし、わかりやすいことばかりがよいとも思わないが、それにしても、もう少し理解したかった…! 期待して積読にしていただけに、ちょっと残念。ただ、最新作『父ではありませんが─第三者として考える』はとてもよかったそうなので、そちらに期待。


 読書会では、それぞれが気になった章をつまみ食い的に読み、2023年現在の「紋切型ワード」について考えてみた。

まぁ人それぞれだよね/こういうこと言ったら叩かれるかもしれないけど/AIに仕事を奪われる

「まぁ人それぞれだよね」

 価値観が多様化している時代と言われる。確かに同じテレビ番組を見たり、同じ雑誌を読んだりしていたのとは違って、今はインスタでフォローしている人も違うし、見ているYouTubeチャンネルもきっと違う。むしろ同じ人をフォローしていることの方が稀で、それがわかった瞬間に意気投合するくらい。

 だから一層、考え方や価値観の違いが、SNSなどを通じて如実に現れてしまうようになった。違う意見に触れたとき、議論に慣れていない私たちなりの対処法が「まぁ人それぞれだからね」。それは異なる意見を持つ人たちを分断したまま、話を終わらせてしまう言葉だ。人それぞれなのは今に始まったことじゃないのだけど、人それぞれなりに、どちらが正しいか決めるのでもなく、一致できるポイントを見つけることはできないものか、と思う。それこそが「対話」だと思うのだけど。


「今の時代、これ言ったら叩かれるかもしれないけど」

 バラエティ番組のやり取りなんかで、女性芸人に容姿のことを言ったりして、言われた側が「今の時代それ言ったら叩かれますよ」とツッコミ、笑うみたいな場面が気になる。ほんとダメだし、観てる方はちっとも笑えないんだが…。

 日常の場面でも、「こういうこと言ったら叩かれるかもしれないけど」「セクハラになっちゃうかもしれないけど」って前置きして、結局言ってることが増えてきた。だったらはじめから言わないでよって思う。その前置きは、「自分はわかってるんですけど」アピールなのだろうか。本当の意味で、なんで言われたら嫌に思うのかわかってない。

 これは余談だけど、中小企業の関係者がたくさん集まっているちょっとお堅い場に呼ばれたことがあって(普段全く縁がない世界)、初対面の方に「お綺麗ですね」と言われたことがあって(マスクしてたが)、嬉しくなるどころかとっても嫌な気分になった。褒めてるのになぜ?と思う人もいるだろう。社交辞令なのはもちろんわかっているが、自分が美しいかどうかという目で見られているのが嫌だった。他人の容姿に言及すること自体がおかしいと私は思うのだけど、この違和感自体に気付いていない人にとっては、「なんか女性の容姿のことに触れたらいけないらしい」くらいの認識にしかならないんだろうなぁ。


「AIに仕事を奪われる時代」

 私たちが小学生の頃から既に言われていたような気がするけど、一向にAIは私たちの仕事を奪ってはくれない。いっそ早く奪ってほしい。そしたらもっと楽しいことを仕事にできるのに。結局、AIにできること以外の仕事を生み出せていないから、いつまでたっても仕事を奪ってもらえないのだろうか。


余談「SDGsっていうとつながれる」

 障害福祉に関わっている人が、「これまで全然企業に見向きもしてもらえなかったのに、SDGsって言うとつながれるようになったんだよね」と話していた。ソーシャルセクターに携わってきた人にとっては、「SDGsなんて言われる前からやっとるわ」って思う人もたくさんいるだろうし、私も若干そうだった。SDGsという言葉が広がったことで、なんだかモヤモヤする自称SDGsも多いが、それが全く違う業界との共通言語になった。それこそがSDGsの重要な役割で、それをまさに体現しているのが、前出の「SDGsっていうとつながれる」だと思う。


 紋切り型の言葉には、新しい価値観の存在をやんわりと伝え拡げる役割があるようだ。ただ、その本質をちゃんと理解できているかには、気を配り続けたい。

この記事を書いた人:中尾圭
一橋大学社会学部2009年入学、2013年卒業。在学中は安川一ゼミに在籍。現在は瀬戸内の小さな島に移住し、夫婦で「港の編集室」として、島の暮らしをもっと楽しくする実験中。公私共に、まちづくり業界にどっぷり浸かっている。


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