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ほぼ宅飲みだけで日本酒通になる方法 〜その⑥〜 秋の日本酒「ひやおろし」。ぶっちゃけ美味いと思ってませんでした!


「ひやおろし」ってなぁに?

 秋の酒「ひやおろし」。大体9月〜10月頃に店頭に並ぶお酒だけど、8月の下旬にはもう出回っているものもある。

 ひやおろしを初めて飲んだのは、やはりラベルに書かれた用語がわからずに右往左往していた頃だと思う。わたしはそれからググったり本を読んだりして、ひやおろしが何たるかを徐々に学んでいった。

 ひやおろしとはどういう日本酒なのか。唎酒師・日本酒検定の教科書『日本酒の基』には次のように書いてある。

 冬場に造り、春先に搾った日本酒を夏の間に熟成させ、秋口に出荷するものを「ひやおろし」と呼ぶ(冷やおろし、冷卸と表記する場合もある。「ひや=生」「おろし=出荷する」が語源とされる)。
 出荷時の目安は、タンク内で貯蔵された日本酒と外気温が同じになるころとされ、主に9~10月ごろにかけてリリースされる。通常は2回火入する日本酒だが、ひやおろしは貯蔵前の1回しか火入を行わない生詰めという技法が用いられる。
 半年間ほど熟成させたことにより、飲み口はまろやかに、味わいはより深くなっていることが特徴で「秋あがり」「秋晴れ」と呼ばれることもある。


 この文章を書いているのがちょうど10月の後半だから、いま酒屋やスーパーに行くと、ちょうどひやおろしが多数店頭に並べられていて、もう少しすると徐々に姿を消していく。

ひやおろしって、ぶっちゃけ美味しくなくない?

 秋の定番であるひやおろしだが、正直わたしは好きではなかった。香りも味わいもどこかいま一つなような気がしたし、なによりもひやおろしと名のつく酒は、どの銘柄でも味が似通っていて個性が感じられないと思っていたからだ。わたしも季節限定という言葉に弱いから、秋になると苦手だとわかっていながらついついひやおろしを買ってしまう。そしてその度に「ああ、また同じような味…」とがっかりすることが多かった。
 
 これはわたしの味覚が未熟だからなのだろうか?それともホントにひやおろしというのはどれも似通っていて、みんな季節限定という言葉につられてなんとなく買っているだけなのだろうか。

 試しに「ひやおろし 不味い」でググってみる(なにやってんだろ、俺)。すると「ひやおろしはマズい!」とブログに書いている人を見つけた。タイミング良すぎだろ。そのブログの詳しい内容は覚えてないし、いまさらもう一度読みたいとも思わないが、とにかく「こんな不味い酒をわざわざ飲むのはおかしい!」ということをこれでもかというくらい力説している。それゃあ美味い不味いは人それぞれだし、主義主張は好きなだけすればいいと思う。でも、流石にここまで「嫌い! 嫌い! 死ぬほど嫌い!」と書かれると、「この情熱はどこから来るんだろう」と不思議に思ってしまうほどだ。

いや、やっぱり美味いぞ。ひやおろし 

 ブログを読み終えたわたしは、かえって冷静になれた。興奮している人が横にいると、割とちゃんと自分を顧みることができるからな。
 
 さて、落ち着いてもう一度考えてみよう。これまで「味も香りもどこかいまいちで、どの酒蔵がつくっても同じ」だと思っていたわたしだけど、本当にそうだろうか。味覚というのは、鍛えられて育つという面もある。子どもの頃は全くおいしいと思わなかった長ネギも、大学生の時に一気に好きになった。きっかけは、よく泊まりに行っていた友人宅の近所にあるラーメン店だった。豚骨と魚介から出汁をとった濃厚スープに、細長く切った長ネギがよく合う。あの時「苦い=美味い」という新世界を知り感動したものだ。ひやおろしだって、飲み続けていればそのうち魅力がわかるようになるかもしれない。
 
 あの「ひやおろしの不味さを世に知らしめるためにこのブログをやっているのだ!」なんて書いている人は反面教師にして、もっとひやおろしを味わってみよう。もしかしたら、まだわたしの味覚が未熟なだけかもしれないのだから。

 そんなことを思っていたのはいまから2年くらい前。その年も秋になり、ひやおろしが出回る時期になった。さて、今年最初のひやおろしはどの銘柄にしよう。ちょうどその頃わたしは引っ越したばかりで、近所の酒屋に初めて行き日本酒を買った。この酒屋もX並みに品揃えにこだわっていて、店員さんの個性だけならX以上かもしれない(たまに駅前広場に出店を出す時は、酔って顔真っ赤にした店員さんの顔が拝める)。家に帰ってきて飲んだそのひやおろしは、とにかく美味かった。ああ、やっぱりひやおろしって美味いんじゃん、酒蔵毎に個性あるじゃん、これまでのわたしは一体なんだったの、もうバカバカばか。
 

OCEAN99のひやおろし

 感動的なまでに美味しかったそのひやおろしとは、千葉は寒菊酒造の「OCEAN99」シリーズだ。これまで飲んだひやおろしと違うのは、フレッシュな感じを残しながら旨味が濃いことだ。そのくせ舌にべったりと残るわけではなく、心地よい刺激とともに喉を下っていく。なんか山岡士郎みたいに表現してしまったが、ホントにそれくらい衝撃的な味だった。
 
 やっぱりひやおろしがまずいとか、個性がないとかいうのは俺の思い込みだったんだ。おれはまだまだ経験が足りない、修行不足だったんだな。
 
 そんなこと考えてたら、OCEAN99よりも前に飲んだひやおろしの美味さもしみじみと感じるようになった。滋賀・藤本酒造の「神開 ひやおろし」も美味かった(タイトル画像の日本酒です)。これはしみじみと味わい深い酒で、一晩で一升空けちゃったな。もちろん2人で飲んだんだけど。
 
 今年だと、栃木は飯沼銘醸の「姿」も美味しい。これはOCEAN99寄りの、旨みがしっかりしたタイプ。

飯沼銘醸「姿」のひやおろし

 こうしてみると、やっぱりひやおろしもうまい。秋になるとキノコや秋刀魚みたいな秋の味覚に合わせてみたくなる、季節を感じさせてくれる酒だ。
あのブログの主も、この味わいに気づいてくれたらいいなぁ。なんて余計なことを考えるわたしでした。

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