どうしようも無い私達は

初めから持ってなどいなかったものをある日ふと「無くした」だなんて言ってみる私達は、その重たい前髪から覗かせた小さな目が、光の機微でたまたま誰かがそちらに頷いた錯覚を捉えようものなら、次は心做しか先程より大きな声で、それはそれは嬉しそうに「奪われた」などと言い出すのでしょうね。

あなたが例え花に生まれていたとしても、その花弁は本来もう少し鮮やかに色づくべきもので、あなたが例え木に生まれていたとしても、その枝に止まる小鳥は片手で数えられる程度で、あなたが例え風に生まれていたとしても、揺られた綿毛は灰色のコンクリートに落ちてゆき、あなたが例え火に生まれていたとしても、一夜を灯すにはきっと頼りないに違いないと、そう言うのでしょうね。
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ところで私は、あなたから数え切れないほどのものを貰いました。加えてそれは、誰がどう奪おうとしたところで、まるで形を持たないので仕方がないものでした。淡い花弁は儚げに移ろい、小鳥は家族で身を寄せあい囁きながら、コンクリートの隙間からは小さな芽が顔を出し、ぼうっと揺らめくロウソクの灯りは誰にも明日を押し付けること無く、ただ、そこに在りました。
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それらは全て、確かにあなたがくれたものでした。
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