メキシコ:「現地採用」をどう捉えるか。

「現地採用」という言葉をどう捉えるか。「駐在員ではないので社員としての待遇が宜しくない」という印象を最初に持つかもしれません。これは、正解であり、揺るぎもない事実です。前回の投稿にも記述をしましたが、昨今、メキシコにおけるローカル日本人採用の需要が増えております。新型コロナウイルスの感染が拡大し、駐在員の方々が帰国せざるを得ないという事情も発生しており、通訳などの職を失った方々がいるのも事実ですが、日系企業約1,300社が事業を推進するこの国にて私のような現地採用社員が活躍できる機会は依然として存在しています。

現地採用日本人の待遇は、もちろん企業の規模や業種によって異なりますが、本社から出向する日本人の方々とは比較できない程の差があります。この「差」の受け止め方は人によって様々ですが、日本を飛び立ちメキシコでの生活を始める前に真剣に考えてみることは、就職後のミスマッチや、現地採用待遇への不理解を回避するためには大事なことであると思います。

どういう差が存在することかについてですが、ざっくり言うと「給与」そして「本社側のサポート」です。駐在員の給与については、容易にご想像できる通り、現地法人における給与は少なくとも現地採用日本人の数倍(役職に依ります)、これ加えて日本での給与が支払われます。本社側のサポートについて、基本的には「赴任補助」「住居補助」「日本からの生活必需品宅配」「医療サポート」などでしょうか。駐在員にご家族がいれば、もちろんお子さんの「学費補助」なども含まれます。どういった生活補助が適用されるかは、先にも述べた通り、企業規模や業種によって異なります。

一等地の住居、運転手の送迎、万全の生活サポート等々、赴任以前の日本での生活とのギャップに大きな驚きを感じる駐在員の方もおります。

しかし、よくよく考えてみるとこうした駐在員への待遇は当たり前のことでもあると言えます。何故なら、本社としては、社員及びその家族の安全が最優先事項であり、その安全を確保する為に必要な努力をしているということです。駐在員は、日本から離れ異国の地で本社の海外事業を管轄する重要な役目を担っているからです。本社のグローバル事業に尽力する大切な社員だからです。

ローカル日本人社員については、どうでしょう。待遇については、現地法人の人事制度に基づき、周囲のメキシコ人スタッフのそれと変わりはありません。私の場合は、勤務先には失礼ですが「会社の為に!」などという気持ちは微塵もなく、異国の地で自分が生き延び続けていく為に現在の会社に勤務しています。サッカー界を例えにするならば、本社が保有権を持つレンタル移籍ではなく、片道切符の完全移籍でしょうか。

もちろん、私一人だけの力でこの国で生き延びていくことは出来ませんので、上司や同僚も含めて、この国の方々の考え方や生き方を理解し、日本のそれと融合することが私には求められています。

現地採用としてメキシコで仕事を続けて7年が経ちましたが、楽なことは何一つありません。とはいえ、楽を目指してこの国に足を踏み入れたわけではありませんから、数ある苦労も、人生における一つ味であると前向きに捉えるようにしています。自分の好きな時(私の場合は30歳でした)に日本を離れ、好きな時(いつになるかはわかりません)に帰国したり、または居場所を変えることが出来るということは、現地採用の良いところの一つかなと感じています。しかし、私のような現地採用社員には本社側のサポートがありませんので、どんな決断をするにしても、常に自問自答をし、自分にとって最良な答えを自分自身で導き出すことが求められます。なぜなら、自由には必ず責任が伴うからです。この事実を、どう理解して、どうセルフマネジメントするかと、いうことです。

「現地採用」についてどう考え、どう行動に移すかは自分次第です。強いて言うのであれば「どちらが自分にとって心地良い人生なのか」とも言えるかもしれません。私は、日本の大学を卒業後、就職をせずにスペインへ留学をしました。「サッカー界で通訳の仕事をする」と根拠もなく周囲に話しておりましたので、新卒で企業戦士となることを望まず、自身の目標に向けて歩んできました。周囲と異なる道を歩みたかったというわけでは全くなく、自分の歩みたかった道が周囲とは異なったといえるでしょう。

「どちらが良い、どちらが良くない」というテーマではなく、自分自身が何を求めるのか、どういう生き方が心地良いのか、ということを考えてみることは、人生において大切だと思います。

「心地良い」の定義も、人それぞれですからね。

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