ビールに目を輝かせていた私へ

「カ〜〜ッ!!!!やっぱり炎天下で昼間っから飲むビールは罪だな」


ゴクゴクと音がするくらい美味しそうにビールを飲み干す父。
そんな姿に幼き日の私は目を輝かせて、まるで真似するかのようにオレンジジュースを飲み干した。


その年の夏、私達は庭でBBQをした。
肌にひりつくような暑さのなか、プシュッとビールの缶を開ける。
罪だと言いながらもこれ以上ないくらい幸せそうに。
まるで宝箱を開ける子供みたいに。
そんな少し日に焼けた父の姿を見るのが好きだった。


そしていつも思う。


「ビールはこの世で一番おいしい飲み物なんだ。早く私も大人になって飲みたいな」





「まっっっず」



すっかり慣れたメイクにくるんと巻かれた茶髪。
居酒屋特有のがやがやとした空間で私はボソッとつぶやいた。


あれから何回か誕生日を迎え、私は合法的に飲酒ができる年になった。
つまり大人になった。
ということで、念願だったビールを注文した。
私の目はあの日のように輝いていたと思う。


なのにその気持ちは数秒で消えた。


ショックだった。全然おいしくない。
お金返してくれませんかと思った。
あの時目を輝かせていた自分に言ってあげたい。
「苦すぎて飲めたものじゃないよ」と。
これクイズ番組の罰ゲームで飲まされるやつでは?と疑ったが、メニューにはやっぱり「ビール」と書かれていた。
…もう一度飲んでみる。



やっぱりおいしくない。水をお願いした。



どうして?大人はみんなおいしいと思うんじゃないの?


だって周りはおいしそうに飲んでいる。



あ、そっか。
もしかして。
私はまだ大人じゃないのか。
見た目は大人、中身は子供みたいな。
よく考えればこの間まで子供だった。
それが誕生日を迎えた瞬間、突然大人になったといわれてもそれは書類上だ。
そんなすぐ味覚が変わるわけないのだ。
実際はオレンジジュースを愛する20歳。



きっと、きっとだけど。
楽しいこと、おいしいもの、辛いこと、悲しいこと。
そうやって色んな感情を少しずつ吸収したら飲めるんじゃないかな。
じゃあ今の私じゃまだまだだ。


でも、もしかしたらおいしいと思える日はこないかもしれない。
うん。なんか、それでもいいや。



早く大人になってビールを飲みたいと思っていた私へ
どうも、20歳の私です。
ビールを飲みました。
残念ながらおいしくなかったです。
もしかしたらこれから先、「おいしい!」と思える日が来るかもしれませんし、こないかもしれません。
でも安心してください。

どっちにしろ、私は元気です。

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