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『見習い神様、願いを叶えて。』#14 思い出の消しゴム

【前回までのあらすじ】
私は芳高くんに片思い中の高校2年生、吉沢みゆき。花屋敷ゆりは私の親友。私の恋を叶えてやる!と神様見習いシンが現れた。芳高くんと両想いになるためシンと私は奮闘するのだが…
(全20話 恋愛×ファンタジー 毎日1話ずつ更新します)

 夏休みが終わって今日から二学期が始まる。
 やっと芳高くんありの学校だー!芳高くんがいるといないとで、こんなに学校の存在価値が変わるなんて。

 久しぶりに芳高くんの姿が見たいよぉ。
 私は廊下を通りながら、D組の芳高くんの席あたりをチラ見した。
 芳高くんの席に誰かが来て話しかけているようだ。坂田かな?
 忘れ物をした風を装って、180度向きを変えて来た道を戻りながら、もう一度芳高くんを盗み見た。

 あれって、青山さんじゃん…!
 え?いつの間にそんなに仲良くなったの??
 二人で何話してるの!?

「シン…お願い。芳高くんと青山さんが何話してるのか見てきて…。」
 私は小声でシンにお願いした。
「おう。」


 しばらくしてシンが戻ってきた。
「みゆき!喜べ!芳高は、みゆきのこと話してたぞ!吉沢はすごくいいとか、大事だとか嬉しそうに話してたぞ!」

 え?芳高くんが私のことを?

 …ちがう。

 芳高くんは私のことを呼び捨てで呼んだりしない。
 私はピンときた。
 吉沢は、あの消しゴムの『YOSHIZAWA』のことだ。


 『YOSHIZAWA』は、私と芳高くんの二人だけの大切な思い出の消しゴムだったはずなのに。青山さんに嬉しそうに話してたんだ…。
 なんで?なんで?芳高くん…。

 芳高くんが私のことを何とも思っていないことは分かっていたけれど、それでも、特別に感じていたのは私だけだったのかと思うと悲しくて悲しくて仕方がなかった。
 
 シンは私が全然喜んでいないのを見て、不思議そうな顏をしていた。

 
 家に帰るとシンが尋ねてきた。

「芳高、みゆきの話してたのに嬉しくなかったのか?青山がいたからか?」
「違うの。あれは私の話じゃなくてコレのこと。」
 私は、ナイロンが被さったままの新品の『YOSHIZAWA』を手に取ってシンに見せた。大切すぎて一度も使えなかった『YOSHIZAWA』。

「あの話って、消しゴムの話だったのか。そんな悲しそうな顏するなよ…。な?」

 シンが頭を撫でてくれた。私が芳高くんのことで傷つくとシンはいつも私の頭を撫でる。
 いつも減らず口ばかりなのに、その不意に見せる優しさに、私はついつい甘えてしまう。抑えていた感情がボワッと溢れ出てきた。

「うっ…。ひどいよ、芳高くん…。二人だけの秘密だと…思ってたのに。」
「そうだな…。悲しいな。」
「青山さんと…あんなに楽しそうに…。その場所は去年、私だったのに…。」
 シンは静かに頭を撫でながら聞いてくれている。

「この消しゴムもらったときね、芳高くんこうやって、私の手をとって…。」
 私はシンの手をとって、芳高くんがあの時したようにやってみせた。シンの右手に私の左手を下から添える。そして私の右手をシンの右手に被せ、シンの手を両手で包みこんだ。

 目線を上げるとシンが私の顏をじっと見ていた。5秒くらい時間が止まったみたいだった。
 …シン?

「も、もういいだろっ。いい加減、手、放せよ。」
 シンは私から視線を外してそう言うと、ボンッと消えてしまった。


 シンはその日、姿を現さなかった。
 シンが来てから私たちは毎日一緒だった。シンのいない夜は初めてだったから、私はなかなか眠れなかった。

 翌朝には、いつも通りのシンが戻ってきた。

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