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いちばん前の席~見えにくいわたしと絢香の奇跡のライブ

10代後半~20代前半の頃、わたしは絢香が大好きで、ファンクラブにも入っていて、ライブに足を運んで応援していた。いまでいう、絢香推し。

10代後半の頃のわたしは、シーンとした部屋で寝るのが苦手で、夜寝るときには音楽を小さな音にして1時間以上流しながら、ゆっくりと眠りについていた。

そのときに、だいたいかけていたのが、絢香。

絢香のアルバムは出るたびに買い、毎晩毎晩流していたので、ほとんどの歌を覚えた。

楽しい気分の日も、悲しい気分の日も、寂しい気分の日も、いつもかけていたから、絢香の音楽を聴くと、胸がキュッとなって、どこかせつない気持ちになる。

ただでさえ、絢香の音楽は胸にじーんとくるものがあるのに、毎日聴いていたわたしは、曲によってその頃の様々な思い出が思い起こされるのだ。

***

大学生の頃、20歳くらいのときだろうか。

初めて、絢香のライブに行くことになった。

ファンクラブに入っていたとはいえ、弱視ということを伝えていないのに、まさかの最前席のど真ん中の席が当たった。

飛び跳ねるほど嬉しくて、数日前からドキドキして大変だった。

わたしは、絢香の特別なファンではないけれど一緒に行ってくれるという親友を誘っていくことになった。

ちなみに、親友はYuiのファンだった。その子に勧められて、あのころはYuiの曲もよく聴いていたな。

「絢香もいいけど、Yuiがいいよぉ~」

「いやいや!絢香でしょ~!!」

お互いの好きを熱く語りながら、ライブに向かった。

グッズ売り場に並んでどれにする?って話した記憶がぼんやりある。

その日は、何を買ったかな…ハッキリ思い出せないけれど、たしか絢香の描いた絵のセットのような気がする。

それからわたしたちは、長い列に並んで、ライブ会場に入って行った。

ドキドキしながら、一番前のど真ん中まで歩いて行ってビックリ!

ステージが近すぎる?!

ステージに手が届く!!

「ヤ、ヤバイね…これは、ほんとに目の前にくるね?!」

そわそわしながら椅子に座ったら、隣の熱狂的そうなファンの女の子二人も大はしゃぎしている。

「これなら、リコちゃんも見えるね💛すごいすごい!」

その子は、自分のことのように喜んでくれていた。

***

ライブが始まった!

絢香が目の前に現れ、ステージを歩きながら、お話をしたり、目の前であの透き通るようなのびやかな歌声で歌っている。

目の前で、三日月を歌っている。

感動して、涙があふれた。

絢香の歌声は、難聴のあるわたしでもよく聴き取れる。

MCも、全部何を言っているか聞き取れた。

それも、感動して涙が止まらなくなった理由のひとつだった。

目の前に、ずっと応援している絢香がいて、いろんな感情の夜に聴いていた絢香の歌声が響いてきて。

「応援してます!!」

ってゆう、わたしの熱い想いが絢香に届いて

「わたしも応援しているから がんばってね」

って言ってくれているような気分になった。

わたしは、絢香のあの素晴らしい歌声で、素敵な衣装に身を包みながら、ステージの上でパフォーマンスをしている姿は見えた。

けれど、弱視なので、顔はハッキリ見えなかった。

きっと、一番前のあれだけ近い場所だから、同じ場所にいた人たちは、ハッキリ見えて、鮮明な記憶になるほどだったと思う。

そのときのわたしは考えていた。

「ここで弱視用の単眼鏡をだしたら、絢香びっくりしちゃうよなぁ…だって、こんな至近距離で…ぜったい絢香に見えるよなぁ…」

考えているわたしに、親友が言った。

「単眼鏡、持ってきてたよね?出しなよ。絢香喜ぶよ!」

「う~ん…」

わたしはしばらく勇気が出なかったけれど、最後の方で思い切って出して見た。

ドキドキ ドキドキ

一番前のど真ん中で、小さな単眼鏡を片手に絢香を見た。

すると 絢香がわたしと友達の目の前、ステージギリギリまで来て、わたしの目の前で手を振りながら歌いはじめたのだ。

それは、わたしからわずか1mしか離れていないほどの至近距離。

感動して、心臓が止まりそうになった。

わたしは単眼鏡を持つ手が震えていたかもしれない。

そのときはもう、近すぎて単眼鏡も必要ないほどの距離にいたので、わたしはそっと単眼鏡をひざの上に置いて、手を振りながら聴くことにした。

絢香は優しかった。

親友も優しかった。

わたしは、あの日のことを一生忘れない。

そして、わたしはあの日、たまたま一番前の席が当たって、あんなに素敵な奇跡が起こったけれど。

わたしと同じようにハンデがある人も、ハンデはないけれど、なにかに勇気が出ない人も 堂々と勇気をもって生きてほしい。

堂々としていること 自分をありのままに受け入れてそこにいること それが奇跡につながるのかも

あの日のことを思い出して ふとそんなことを考えた。














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