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ジュウ・ショのサブカル美術マガジン

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美術についてサブカルチャー的な視点から紹介・解説。 学術書とか解説本みたいに小難しくなく、 極めてやさしく、おもしろく、深ーく書きまーす。
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#小説

ジョルジュ・スーラとは|点描画の創始者が駆け抜けた31年の人生をたっぷり紹介

「点描画」というジャンルをご存知だろうか。名前の通り、真っ白なキャンバスにピッピッピッピッて点状に絵の具を塗ることで描く絵画のことである。 名前だけで「ハンパじゃなく気が遠くなる作業」ということはわかるだろう。常人がやる表現じゃない。もし隣で血眼になって一心不乱に点描画やってる奴がいたら「おい大丈夫か。病んでんのか」つって、いったんコーンポタージュ飲ます。確実にメンタルを損ねているもの。こんなやつは。 そんな点描画を19世紀に開発したのが、ジョルジュ・スーラだ。スーラって

線と色彩論争とは|プッサンvsルーベンス、アングルvsドラクロワの話

昨日、友だちの友だちを紹介してもらって、民俗学でいう「境界」についてのお話を伺った。いや、これがめちゃんこおもろおもろ祭りだった。精神的にはもうハッピ着て太鼓打ちまくってた。どんどこどんどん。 「あちらとこちらの境目」って、あらためて認識すると、すごい。白い紙に黒い線を一本すーっと引くと、あちら側とこちら側に分かれる。あの世とこの世とか、男と女とか。そんな区分けが生まれる。区分けがはっきりしていると安定するが、その境目は不安定であり、よく怪異が出てくる、と。 いや、これマ

人間がヲタクになり推し活を終えるまでを4ステップで解読してみた

私は主にアート、マンガ、音楽、小説といった分野でライティングをしている。これらの創作物は、広義で「文化(カルチャー)」という枠でくくられる。 ただ、カルチャーは決してエンタメだけに特化した言葉じゃない。カップ焼きそばUFOのパッケージとか、無印良品のオーガニック食材とか、そういうものもひっくるめて文化だ。決して一過性のブームではない。何人かのヲタがソレを推して歴史を作ったもの。それが文化となる。 カルチャーについては以下の記事で紹介していますので、暇すぎてもう飲料の原材料

「奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム展」のレポ|ファッションは己の無意識の具現だ

学生時代に「量産型」という言葉について考えたことがあった。 「ふむふむ。量産型ということは、つまり家内制手工業ではなく工場制手工業でつくられたレディメイドである。あって、要するにプロダクトデザインとして機能を意識しているゆえ『使いやすさ』を重視しているのだな。ふむふむ。保温性や頑丈さと同じラインで『周りに馴染む』という機能があるゆえに黒やグレー、ベージュといった合わせやすい色が量産型のメインカラーになるのか」と、あの10代後半の文学男子特有のナルシズム全開で小難しく考えてい

一所懸命に鼻をほじる自分に嫌気がさしたので定期投稿を再開します

「最終更新148日前」 なんとなく眺めていたスマホに、そんなあまりに衝撃的な文面が現れ、思わず鼻をほじる指が深層部で止まりました。 「そんなに長くマガジンを更新していなかったのか」と冷や汗が噴き出したんです。シーブリーズのCMくらい汗出たんです。そりゃもうツツーじゃなくてドバドバと。指は鼻腔です。冷や汗が出過ぎて、鼻奥の変なスイッチ押したかと思った。 作るより前に私は熱心に鼻くそをほじっていた え、148日……? いやいやネタが完全に死んだわけじゃない。おかげさまでい

「アングルvsドラクロワ」という西洋美術史最大のライバル関係について

西洋美術史は思想のぶつかり合いの歴史でもある。「アート」という答えのないテーマを各々が必死に追い求めるのだから、そりゃ意見がぶつかり放題、火花散り放題なんですね。 「すげぇの描けたから見てくれ!」と作品を発表すると、必ず誰かが反論を唱える。しかしその反論にも反論があり、反論の反論にも反論があり……ともう止まらない。 金子みすゞの「みんな違ってみんないい」みたいな多様性を認める人間はあまりおらず、各々が哲学という盾で身を守りながら、表現という剣でバチバチにやり合う。だからこ

エドヴァルド・ムンクとは|傷つくほどに名作を生む、「死と不安」の画家

「知ってる?『ムンクの叫び』じゃなくて、ムンクの『叫び』なんだよ〜」。これは誰もが人生で20回くらい言われるトリビアだ。 それほど「叫び」という作品は有名な1枚です。絶望的な顔をあんなに臨場感を持って描けるのは、楳図かずおかムンクくらいなんじゃないか。「叫び」が世界で広く認知されているため、美術好きでなくとも、ムンクという名前は知っている。インパクト抜群の作品だ。 しかし「叫び」ばかりが先行してしまって、ムンクという画家にスポットライトが当たっていない感は否めない。もはや

マン・レイとは|最期まで"アーティスト"を貫いた前衛写真家の「バズ」にない魅力

マン・レイの写真は決して「ただ綺麗なだけ」ではない。カラーリングもほぼないので、どこか不穏な空気すら感じる。それは昨今から続くSNSブームとは一線を画している。 「原宿でカラフル綿菓子を食らう女子高生」や「コントラスト爆上げで海辺を散歩してるカップル」などは日常的に見るでしょう。 ただマン・レイのようなアングラ表現主義の写真家は母数が少ないですよね。特にコンプライアンスがっちがちの現在では、こうした作品群に接する機会がないんじゃなかろうか。 そんな現代で「映え」はもう8

2021年の美術展をずらっと紹介! コロナ明けは生でアートを見つめよう

2020年は新型コロナウイルスの影響によって、予定されていたあらゆる美術展が中止・延期になった。皆さま楽しみにしていた展示もありましたよね。しかし絵より命のほうが大事なので致し方なかろう。 特に2020年の夏ごろは東京五輪での海外客到来を見込んで「ジャパン・アートの素晴らしさ」「バンクシーのやばさ」を訴えたイベントを予定していたが、見事にずっこけたのが同情を通り越してちょっとおもしろかった。 2021年、まだまだ油断はできないが、ワクチンの接種もいよいよ始まりかけており、

バルビゾン派とは|風景画の基礎を築いた「バルビゾンの七星」の"豊かな心"

「バルビゾン派」をご存知だろうか。断っておくが決してウルトラ怪獣ではない。「ゼットン派?レッドキング派?」「いや、俺バルビゾン派」ではないので注意してください。 バルビゾン派とは1830年代から1870年代くらいまで、フランスで隆盛した美術派閥だ。「自然をあるがままに描く」という考えが特徴。フランス・フォンテーヌブローの森の近くにある「バルビゾン村」が舞台になったのでバルビゾン派という。 西洋美術史のなかでも「バルビゾン派」というグループは見ていて楽しい。 17世紀からず

カリカチュアとは|日本漫画の原点となった「いじり」の芸術

旅行先で似顔絵を描いてもらったことがある方は多いだろう。そして「できました〜♪」と化け物のような絵を手渡された人もいるでしょう。「おいできたじゃねえよ」と怒っちゃった方もいるかもしれない。 似顔絵屋は基本的に写実では描かない。デッサンではなくエンタメである。なので忠実に似せる気なんてさらさらなく、超笑わせる気でふざけて描くのが彼らの仕事だ。 こうした表現を「カリカチュア」という。つまり対象の容姿の特徴や性格などを、これでもかと誇張して描いた表現のことだ。 カリカチュアは

アルノルト・ベックリンはなぜヒトラーに愛された?死の島など代表作で考えてみる

アドルフ・ヒトラー。彼に「人の感性を持たない独裁者」というイメージを持つ方も多いのではないだろうか。そんなヒトラー、実は絵画への造詣が深かった。自身も若いころは美術家志望で、建築画や風景画などを描いている。 ヒトラーの作品は「西洋絵画の巨匠たちの影響を総合的に取り入れている」と評価される。簡単に言うと「オリジナリティ皆無だなおい」という意見だが、ポジティブに捉えると、彼は絵画オタクだったということが分かる。 なかでもヒトラーはアルノルト・ベックリンという画家を特に愛してい

カラヴァッジョについて|西洋美術史に革命を起こした生涯・代表作品を紹介

「画家」にどんなイメージをお持ちだろうか。天才、破天荒、繊細、やばい奴、変わり者、気まぐれ……ぜんぶ正解だ。画家の感性はやはりマイノリティなので他人にはあまり理解されないことが多い。一言で言うと奇人なのである。 今回、取り上げるバロック期の画家、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョは、まさにそんな「ヤバい画家」の代表格だ。とにかく天才すぎて当時のパトロンですら彼には「へへ……いつもお世話になってますへへへ」ゴマをすった。私生活は荒くれ者で暴力的だったが、作品は非常に

パブロ・ピカソの一生をプレイバック! 世界一作品を作った男の91年

「世界一たくさんの絵を描いた画家」があのピカソであることは意外と知られていない。本名は「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」。念仏か。 ピカソといえば「ゲルニカ」に代表されるキュビズムが有名だ。あの「顔も身体もあべこべになってる」描き方である。しかし彼はもちろん、普通に上手い写実デッサンも描ける。また幻想的な作品も作ってきた