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ジュウ・ショのサブカル美術マガジン

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美術についてサブカルチャー的な視点から紹介・解説。 学術書とか解説本みたいに小難しくなく、 極めてやさしく、おもしろく、深ーく書きまーす。
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#日記

エドヴァルド・ムンクとは|傷つくほどに名作を生む、「死と不安」の画家

「知ってる?『ムンクの叫び』じゃなくて、ムンクの『叫び』なんだよ〜」。これは誰もが人生で20回くらい言われるトリビアだ。 それほど「叫び」という作品は有名な1枚です。絶望的な顔をあんなに臨場感を持って描けるのは、楳図かずおかムンクくらいなんじゃないか。「叫び」が世界で広く認知されているため、美術好きでなくとも、ムンクという名前は知っている。インパクト抜群の作品だ。 しかし「叫び」ばかりが先行してしまって、ムンクという画家にスポットライトが当たっていない感は否めない。もはや

グスタフ・クリムトとは|ウィーンの芸術をアップデートした「優等生の反撃」について

オーストリア・ウィーンの画家、グスタフ・クリムト。彼の絵に取り憑かれる国内美術ファンは、日本でもめっちゃ多い。個人的にも大好きな画家で、彼の作品のエコバッグ持ってます。かわいくない? クリムトの絵を観ると、妙な感覚になる。「めっちゃ綺麗〜♪」と思う一方で「怖いな〜、なんやこの妖しさは」と不安になったり「杉本彩越えのエロさやな」と見惚れたりする。 それほどまでに、1枚の絵から写実、幻想、耽美、抽象、ロマンなど、あらゆる影響を感じるのがクリムトの絵だ。それらが合わさって、完全

ワシリー・カンディンスキーとは|「純粋な芸術」を生んだ真のアーティスト

ふとnoteを見てイラスト、二次創作の多さに驚いた。もちろんnoteだけではない。Twitterでもインスタでも、とんでもない絵師さんの数がいて、素敵な作品をあげてくれる。素敵な世の中だ。 いっぽうで、抽象絵画を見ることはあまりなくなった。もしかしたら抽象絵画は、キャッチーなキャラクター文化が主流の日本において、最も日陰に追いやられている存在なのかもしれない。 人物画や静物画のような「モチーフ」があることで、見やすくなるのは確かだ。例えば荒々しい波の上に船を一艘置くだけで

「アートはもっと爆笑しながら学ぶものだ」という持論

「アートは学問の1つであり高尚なものだ」 そんなイメージは世界共通のものだろう。基本的に美術館は重々しい静寂に包まれており、皆マジマジと作品を見ている。アートはけっこう重いテーマなんですよね。 西洋美術史のなかでも長らく王家や教会だけが楽しむハイカルチャーだった。また「学問」として成り立ち、さらに作品の単価はマンガやアニメの数百倍だ。 そのこともあって、日本でもいまだ「アートは高尚な趣味」みたいなイメージが固まっているんだろう。それも素晴らしいと思う。アートがやたらめっ

ファム・ファタールとは|起源や言葉の意味、キャラクター紹介など

ファム・ファタール……それは美術、マンガ、アニメなどの世界で「男を惑わせる魅惑の女性」を指す言葉だ。本来の意味は「赤い糸で結ばれた運命の女性」となる。 「赤い糸」と書くとロマンチックに聞こえるが、いやいや、そんなに良いものでもない。もっと妖しくてキケンな存在であり、男はいつだってファム・ファタールの虜になって破滅してしまうものだ。 ではファム・ファタールとは具体的にどんな女性を指すのか。そしてなぜ長い間、クリエイターから愛され続けているテーマとなったのだろうか。 今回は

アルノルト・ベックリンはなぜヒトラーに愛された?死の島など代表作で考えてみる

アドルフ・ヒトラー。彼に「人の感性を持たない独裁者」というイメージを持つ方も多いのではないだろうか。そんなヒトラー、実は絵画への造詣が深かった。自身も若いころは美術家志望で、建築画や風景画などを描いている。 ヒトラーの作品は「西洋絵画の巨匠たちの影響を総合的に取り入れている」と評価される。簡単に言うと「オリジナリティ皆無だなおい」という意見だが、ポジティブに捉えると、彼は絵画オタクだったということが分かる。 なかでもヒトラーはアルノルト・ベックリンという画家を特に愛してい

カラヴァッジョについて|西洋美術史に革命を起こした生涯・代表作品を紹介

「画家」にどんなイメージをお持ちだろうか。天才、破天荒、繊細、やばい奴、変わり者、気まぐれ……ぜんぶ正解だ。画家の感性はやはりマイノリティなので他人にはあまり理解されないことが多い。一言で言うと奇人なのである。 今回、取り上げるバロック期の画家、ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョは、まさにそんな「ヤバい画家」の代表格だ。とにかく天才すぎて当時のパトロンですら彼には「へへ……いつもお世話になってますへへへ」ゴマをすった。私生活は荒くれ者で暴力的だったが、作品は非常に

パブロ・ピカソの一生をプレイバック! 世界一作品を作った男の91年

「世界一たくさんの絵を描いた画家」があのピカソであることは意外と知られていない。本名は「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」。念仏か。 ピカソといえば「ゲルニカ」に代表されるキュビズムが有名だ。あの「顔も身体もあべこべになってる」描き方である。しかし彼はもちろん、普通に上手い写実デッサンも描ける。また幻想的な作品も作ってきた

「人はなぜ絵を描くのか」を人類最初の洞窟壁画から考える

「ねぇ、なんで人ってさ、絵を描き始めたんだろうか」 こんな悪臭漂うセリフを真っ直ぐな目で言う奴には気をつけてほしい。おそらくそいつは重度の厨二病に犯されているか、自己啓発のあまり前後不覚に陥っている。もしポケモンよろしく、目が合って質問された際は食い気味に「知らないです」と答えてください。 ただ相手のレベルが高くて「ねぇなんで? ねぇなんでだと思う?」と食い下がってくるかもしれない。あなたがもし「人類初の絵」を知っていれば「ねぇなんで人は絵を描くのか星人」を撃退できるはず

葛飾北斎とは|富嶽三十六景などの作品紹介! 引っ越し・改名などのエピソードなど

「Japanese Ukiyoe」として世界に日本の絵画を知らしめた立役者の1人が葛飾北斎だ。葛飾北斎の絵画は印象派以降の西洋美術にも大きな影響を与えた。 また彼は「First Manga Master」と、世界から「日本初のマンガ家」として認知されている。 そんな葛飾北斎の生涯やエピソードはおもしろい。「ザ・変態」だ。やばい奴ぞろいの日本浮世師のなかでも抜群に変な人だ。遠目で見ている分にはおもしろいが、友達にはなりたくない。マジでやばい。絶対、集合時間に遅れるタイプの人

西洋美術史を年表でまとめ!画家と作品で紀元前3000年から1990年代まで紹介

さて美術館で絵を観るとき、あなたは何を思うだろうか。「キレイだな~」と思う方もいるだろうし「え?なんでこれ描いたんだろ」と思うこともあるだろう。美術の楽しみ方は人それぞれだ。正解なんてない。 ただ後者の場合、その作品を作った背景が分かると、いつもの美術体験がより分かりやすくなる。そこで「西洋美術史」が大事になるわけだ。今回は以前、紹介した文学史やマンガ史と同じような形式で代表的な美術家や作品とともに西洋美術史をまとめてみたいと思う。 なお、この記事は私が今後長年にわたって

ルネ・マグリットをまとめ!0〜67歳までの経歴・作品紹介など

ルネ・マグリットは、シュルレアリストのなかでもダリの次くらいに人気が高い画家だ。そのキャッチーなモチーフは私たちを一気に不思議な世界へ誘ってくれる。そして「共感」する。 この「共感」という感覚はシュルレアリスムにおいて稀有な感情だろう。例えばダリの作品を見て「ああ〜、なんか分かる〜」と思うことは、ほとんどない。ダリに共感する人は今すぐ絵筆を持ったほうがいい。あなたは天才だ。基本はみんな「なに考えてんだろこの人」と思うはずである。 他のシュルレアリスト作品も同じだ。「意味が

エドワード・ゴーリーの絵本を紹介! 不幸な子供、うろんな客など

「絵本」にどんなイメージを持つだろう。かわいい、健全なもの、教育的……どれも正解でしょう。 レオ・レオニの「スイミー」やエリック・カールの「はらぺこあおむし」など、絵本といえば「子どもに向けた安心して読めるもの」という言葉が当てはまる。 これらがメインカルチャーだとしたら、エドワード・ゴーリーは完全にサブカルチャーだ。完全に次のステージに行ってしまった絵本作家である。その作品はそれまでの「絵本」のテーマとはまったく違うものであり、世間的には「大人が読む絵本」と書かれること

【鳥獣戯画展も!】鳥獣戯画の解説文!作者不詳・日本初の漫画が意味することとは?

漫画とは日本の重要なカルチャーであり、私のような日陰で生きる民族としては、特に生活に深く関わってくるクリエイティブの1つだ。 毎週のように漫画を読んで爆笑し、漫画を読んで号泣する。漫画によって誰かとつながって、漫画について話しながら生きてゆく。我々はもはや漫画を単なるエンタメとは見ていない。漫画がない世界なんて考えられない。息を吸って吐くようにページをめくって絵とセリフを味わいたい。 そんな、つい人を熱くさせる漫画の世界だが、皆さんは日本で初めて描かれた漫画をご存知だろう